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観客

 新4年生が研究室に配属される日が刻々と迫る。院生になったみんなはいつもと変わらない日常を過ごす。私はこっそり勉学に励んでいる。いつか私が輝ける日を願って!

今日やったこと

川村肇著『半導体の物理』(槇書店版)
 1.3 Fermi-Diracの統計
 前回のつづき(波数空間との絡む部分)
志賀正幸著『固体電子論II』(まてりあ 第44巻 第1号 (2005))
 2.2 周期ポテンシャルの影響1
論文 E. Ehrenfreund and Z. V. Vardeny, Isr. J. Chem. 52, 552-562 (2012).
 VII. Magnetic Field Effects: Triplet-Triplet Annihilation

Sommerfeldモデル

 原子中の電子はSchrödinger方程式の解である波動関数によってその量子状態が与えられる。金属結晶中の電子も同様である。金属結晶中にまるでガスのように存在する自由電子はクーロン束縛の影響を受けないからじっとしていないのであって、動き回っているためにエネルギーが高い。したがって自由粒子の場合、Schrödinger方程式のポテンシャル項UはU=0で考えるのだった。境界条件を立方体結晶の一辺Lとして方程式を解けば、波数 k = 2πn/Lの平面波が解としてあらわれる。このときのエネルギーは E = ((ℏk)^2)/2mである。ここまでがSommerfeldモデルである。

周期的ポテンシャルの影響

 じっとしていない自由電子も、マイナスの電荷をもっていることに変わりはない。周期的に並んだ原子核(プラス)の影響を受けながら結晶中を運動しているのだ。周期的ポテンシャルの中を駆け抜ける自由電子を考える。自由電子は簡単のため、x方向を進行する一次元の平面波で考える。平面波はやがて結晶中の反射面によって反射し、入射波と干渉を起こすだろう。この一連をX線回折現象に見立てるとなんと「Braggの法則」が適用できる。
 Braggといえば、父子でX線回折についての式を報告した偉大なる親子である。ちなみにジェームズ・D・ワトソン著『二重らせん』の冒頭はこのBragg卿が挨拶文をいれている。DNAの構造の発見もX線構造解析の発展の産物であって、その権威であるBragg卿の言葉が書いてあるというのは胸があつくなる思いである。
 この結果、干渉によって合成された定在波は、正弦波と余弦波の2つとなり、その波の波長の半分は原子核間距離に一致する。したがって、電子の運動がこの周期的ポテンシャルによってトラップされているようだということがわかるのである。
 ここにまさかBraggの法則が登場するとは思いもしなかったね。

波数空間

 金属結晶内を周期的ポテンシャルの影響を受けながら駆け抜ける自由電子の波動関数、波数、エネルギーを考えた。この自由電子の量子状態は当然、Pauliの排他原理のため、同じ量子状態をとる電子が存在しない。古典的な描像でいえば、同じ時間、同じ位置に2つ以上の物体が存在できない。したがってこのような古典的な描像で金属結晶内の電子を見つめるため、波数空間というものを考える。波数は量子状態を決定づけるものであるから、波数で決められた空間で問題がない。波数を軸にした三次元空間の格子は1つの量子状態をあらわす。この格子上に電子があるような空間である。そのためここに電子が存在しているとき他の電子はそこに入りようがない。このような空間の単位立方格子あたりの量子状態の数を状態密度という。すなわちホール館内の観客席の密度である。このとき電子は観客であって、座席にはたくさんの電子が座っていて、2階席、3階席、…と位置エネルギーが高い場所も用意されている。もちろん2階席にも3階席にも電子はいるが、来場する観客はなるべく低いエネルギーから着座するのが仕組みである。

Fermi-Dirac統計分布

 電子はなにも従順に1階席から埋まっていくものでもないらしい。しかし、軌道分配の原理では低いエネルギーから埋めていくのだった。だってK殻、M殻、…の順番にきっと飛び級はなかったはず。金属だと違う事情があるのかもしれない。とにかく、金属結晶内の電子は温度Tによって一部励起する。この「一部」が確認できるのがFermi-Dirac統計分布である。温度によってその分布のかたちを変えていった図は印象深い。さてこの分布にさきほどの状態密度を掛け算することで電子の数がわかる。すなわち、(温度Tで)どれほどの電子がどれぐらいのエネルギーをとるかの割合に実際の観客席数を与えるのだ。あとは積分するだけである。この積分は難しそうだったのでとばした。
 Fermi-Dirac統計分布はどうも半導体だけのものではないのね。たぶんFermi粒子のものだね。

論文

 TTAと磁気の関係みたいなのを知りたかった。それはTTAやSFの解析に磁気を使っているものがよくあったから。今回は教科書テイストの論文を読んでみたけど、なにがなにやらさっぱりわからぬ、といった具合。
 明日は似た論文でもう少し実用的にしたものを読んでみようと思う。

おわり

 


 


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