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【読書百冊 9/100】生きがいについて/神谷美恵子(みすず書房)

この本には、「生きがい」に関して、古今東西様々な哲学者、思想家、芸術家などの考えが様々に、かつ体系的に書かれています。まさに、「生きがい」に関する集大成の本です。

普通、生きがいといえば、「生きる目標」だったり「夢」や「家族」を想像するのではないでしょうか。

目指したいもの、なりたい姿、守りたいものがあるから、生きていける。明日は今日よりも良くなる。そう信じることで、人は生きていくことができるんだと思います。生きがいとは、つまるところ「明日」なんだと思います。

でも、ある日突然、その「明日」がなくなったら、あなたはどうしますか?

この本の著者の神谷先生は、精神科医としてとても高名な方です。特に長島愛生園でのハンセン病患者に対する精神医学調査で有名です。

当時、ハンセン病は強制隔離政策が取られていました。すでに薬もあり、疫学的にも隔離の必要がないとわかっていたのに隔離されていたのです。ハンセン病で長島愛生園にやってきた患者さんたちはそこから出ることができず、一生そこでなにもしないまま朽ちていく運命。

明日を見失い、生きがいを失うと、人は不安や孤独、絶望に襲われ、やがて抑うつ状態になります。

長島愛生園にきた患者さんは、みな一様に落ち込み、長い入所期間を通じて、多くの人が生きがいを見失い、無気力になっていくといいます。正直、健康な僕には想像もできない大きな虚無感が、そこにはあるのだろうと思います。

筆者はそういった患者さんに日々接しながら、冷静な目で、生きがいを失った心について、深く、静かに観察をし続けます。

もうそこから出るのぞみがない老人の目に何が写っていたのでしょうか。
生きがいを失った青年に、どんな言葉をかけたのでしょうか。

筆者は、「不安には一人で立ち向かっていかなければならない」と言います。もちろん、時には押しつぶされそうになることもあります。そういうときには、誰かにその気持ちをはきだせばいい、精神科医はそれをじっと聞く。と。

この、厳しく突き放したたような中に、僕は筆者の優しさを見ました。

不安や孤独もまた、それに立ち向かうことで生きがいとなります。もちろん、抑うつ状態になったり、ひどい場合は自殺してしまったりすることもあります。でも、結局、人間は「生きがい」からは逃れられないのです。

いま、世の中には、不安を煽ったり、孤独や虚無感につけこんだりして、あたかも自分がそれを救済できるかのような形でビジネスをしている人が大勢います。そんなのはまやかしです。

孤独や不安、生きがいの喪失にたった一人で向き合うことはとても大変です。でも、幸福だけが人生じゃない。明日は必ず明るいわけじゃない。
未来を失い、想像できないような大きな虚無感に包まれても、私達は生きていかなければらならない。それが本当の意味での「生きがい」なんだなと思いました。

生きがいに迷っている人がいたら、ぜひ手にとって見てもらえたらと思います。

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