マガジンのカバー画像

銀の時代の101人の女性詩人たち

4
20世紀初頭のロシア文学の銀の時代――歴史に輝く詩人たち、思い出されることも少なくなった詩人たち、存在も知られていない詩人たち、ひとりひとりを紹介していきます。出典はСто од…
運営しているクリエイター

#女性詩人

黒い表紙の悲しい書物となって……

愛しい人、愛しき人よ、秋が       猟師の角笛を吹いている       空と大地をヴルーベリは色とりどりに塗り そして死を運命づけた       愛しい人、愛しき人よ、見張りに立つ       赤熱した矢は だれの弓か       紅い羽をあつめるは風       占いのために       いかなる国々へと我らに道を示すのか       よそ者の定める的は?       愛しい人、愛しき人よ、我ら

埃だらけのすももを売ればよい

   埃だらけの すももを売ればよい    広場で 安値で    賢き者も 幸せな者も ことばを知らず    なによりつまらぬ才は 俗世に囚われしこと     像も流れも 黄昏ゆけばよい    富める都市人らの 空虚な庭では    異国の賜物をうけとるための    理性あることばを 私は決して見つけえぬ アデリーナ・アダーリス(1900-1969)の叙事詩『日々』のプロローグ。1920年頃に書かれた詩のようだが、ぺテルブルクで生まれたアダーリスがちょうどモスクワへ移った頃?

私はとても幸せだった、つまり、とても孤独だった

      *** 凍てついた晩に ふざけて口にしたことを 朝になって 嘘だったとは云うまい なにかの足あとが 星のように 雪のうえに つづいている さようなら 副馬たちが眠たげに ぴんと張った手綱のさきで 身を震わせる 揺れでもすれば かしいだ頸木の端を 道標が引っ掻くことだろう 黒ずんだ轅が 不規則にたわむたびに わたしは思いだすのだろう  あそこでは 友らが笑い いつもと同じ椅子や机があることを 暖かで重い扉の向こうには 湯気に 煙に 声 そうね 今日の私は最後