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『建築家・坂本一成の世界』 編集言

出典:『建築家・坂本一成の世界』(坂本一成・長島明夫著、長島明夫編、LIXIL出版、2016年)、p.19

 本書は坂本一成の建築を図面と写真とテキストで示している。そのこと自体は建築の作品集として当たり前だが、実際の本の在り方はいくぶん当たり前ではないかもしれない。写真はサイズがバラバラで、カラーとモノクロが入り混じり、建てられてすぐ撮られたものもあれば数十年経って撮られたものもあり、プロが撮ったものもあればアマチュアが撮ったものもある。テキストは坂本の思考をなぞりながら編集者によって書き下ろされた解説文が全体の底流をなし、時に写真と重なり合ってそこに写る部分を説明したり、すこし距離をおいて設計の条件を述べたりしている。と同時か、もしくはその解説文に先立って、それぞれの時代において坂本自身が建築を語る言葉、さらに他者による批評や分析の言葉が断片としてページに散在し、空間と時間の起伏をもたらしている。こうして作品集を構成する各要素は、なんらかの特定のフォーマットに基づいて整理されるのではなく、様々なレベルの関係の網の目を張りめぐらせながら、その読書体験のなかで響き合うように位置づけられている。

 このような本の在り方は、坂本の建築の在り方と呼応している。坂本の建築は決して1点の写真や一言のキャッチフレーズで表せるものではない。建築を構成する一つの部分は、それ以外の部分、あるいは全体、さらには敷地を超えた世界との響き合いのなかで存在している。一つの固定化した原理が建築の全体を規定するのではなく、おのおの異なる要素が多様な関係をもちながら併存する、それこそが坂本一成の建築的世界だと言えるだろう。その世界を書籍の形式で再現するために、数多くの写真と図面、そしてそれらを意味の地平に開きながらも一義的に限定することがないテキストの広がりが求められた。


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