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26 座席や班の決め方:生徒の知恵を取り入れる  

授業や学級活動で班活動を取り入れる学校はたくさんあります。私も班を活用していました。班ノートも書いてもらい、毎朝それを集めて空き時間に読み、帰りに返却していました。毎日読むのは大変ですが、個人ノートよりは負担が少なくて済みます。それに班の中での生徒同士のコミュニケーションにもなります。実際に班ノートを読むのを楽しみにしている生徒は少なくありませんでした。班活動はある意味で有効だったように思います。

班の決め方は、入学直後や学年初めの数日は座席と同様に出席番号順などという機械的な決め方が多かったです。その後はくじ引きなどで決めていましたが、ある年それをやめました。出席番号順やくじ引きには生徒たちの「知恵」や「思考」そして「配慮」が働いていないからです。「公平性」もそれほど見られません。くじ引きやじゃんけんなど一見公平に見えますが実はそうとは言えない面があります。なにをもって公平とするかも曖昧です。「好きな者同士」という方法も昔からよくあります。気の合う者が集まるという意味なのですが、はたしてそれは合理的な決め方と言えるでしょうか。ちなみに「好きなもの同士」にすると問題がよく起きました。はみ出す子がいるのです。「嫌いなもの同士」や「気の合わないもの同士」という班をつくったらどうなるだろうと思ったりします。

新たな決め方には生徒の「知恵」を入れてみようと思いました。機械的に分けたり、運に任せたりするのではなく、生徒自身の考えを反映させることにしたのです。クラス全体で話し合って班長を選び、班長が班編成をする方法です。詳細は以下の通りです。

まず投票によりクラスで過半数の支持を得た人を班長候補に選びます。次に全員で話し合い、候補者の中から男子3人、女子3人を班長に選びます。最初から班長を選べばよいと思うかもしれませんが、まず候補者を選ぶことによって最終的に班長に選ばれた人は絶対的な支持を得た人たちだという印象が強まります。候補に選ばれた人たちも自信を持てます。クラス全体に協力しようという雰囲気が芽生えると思います。だから班長決定にはあえて2ステップを踏みました。

次に班長が班編成をします。なお、班や座席に関して要望のある人は事前に学級委員に伝えておきます。もちろん要望は自分本位の勝手なものではなく、合理性のある理由を必要とします。班長と学級委員は放課後集まり、それぞれの班にだれを入れたらよいか話し合います。班長との相性や班員どうしの相性も考慮に入れます。誰と誰が一緒になるとうまくいくか、気の合わない生徒同士をあえて同じ班にして互いの理解を深めさせようなどという考えも出ます。生徒同士の話し合いですからもめることもあります。問題行動の多い生徒をどの班にするかで押し付け合いになることもないわけではありません。班長といえども中学生です。でも話し合ううちにだんだん自分のエゴを前面に出すことが減っていきます。

実際に、放課後の班長会議では班長と学級委員の熱のこもった話し合いになることが多かったです。自分たちは選ばれた班長だという自覚も感じられました。初めてのときは私も心配でしたが、だれかがつい自分の好みで班のメンバーを選ぼうとすると他の人が「それはだめだよ。全体のことを考えなくちゃ」と注意したり、「AさんとBサンはずっと同じクラスだったからできれば初めての人と同じ班になった方がいい」とか「C君とD君は同じ班になるとどちらも『生きる』」などと私の予想を超えた細かいところまで考慮していました。座席を決める際も視力や聴力などの問題はもちろんのこと、授業での発言力や得意な科目まで考慮して決めていたのには驚きました。「E君は授業を盛り上げてくれるからこの席がいい」とか「F君は積極的なG君の隣がいい」など私が気づかないような細かいことまで考えているのです。もちろん班長達のこの努力は翌日クラス全員に私からしっかり伝えました。こうして最終的に班長全員が納得した班が出来上がります。

翌朝、班長達から班と座席が発表されます。納得がいかない生徒から疑問が呈されたり抗議がなされることがありますが、班長は経緯を説明し、決定の根拠を示します。誠意をもって説明すればたいていの場合みんな納得します。自分たちがそれを任せたのですから。座席に問題があれば班の中でさらに話し合います。こうして新たな座席と班がスタートします。

このやり方は在任中ずっと継続しました。他のクラスにも広がり、学年全体での取り組みになりました。そして、1年生のときには不満(班長の好みで班員が選ばれているとか、班員のトレードが行われているなど)がないわけではありませんでしたが、学年が進むにつれて減り、この決め方が定着していきました。班長になるために他の生徒から信頼される行動を取るようになった生徒もいます。3年生になった時には毎回あっと言う間に班が決まり、修学旅行の自主行動などその後予定されている行事などを考慮して班を決めている様子が見られました。

班で活動するには班をまとめるリーダーが必要です。数名という小さな集団ですがリーダーとなる人がいる方が活動がうまくいくように思います。班長になったことでリーダーとしての自覚が芽生え、成長する生徒も少なくありません。一方、班長だけ頑張っても班活動はうまくいきません。自分のことしか考えない人が一人でもいたら班はまとまりません。一人一人の協調性や自律性が必要です。そんな力を子どもたちの中に育んでいくのが教師の役割なのではないかと思いながら指導していました。

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