詩 【 ほんとうの人間 】
ひとより感情が薄いと言われてきた
— 決して泣かない子どもだった
デパートで親とはぐれて迷ったときにも泣かなかった
ひとりで家に帰ろうとしているところを 偶然みかけた親切なおばさんに呼び止められ 事なきを得た
感謝し 笑顔になることもなかったので
おばさんは怪訝な顔をしていた
面白みのない子どもであった
— 中学のとき
学校で浮いていじめられそうになっても わたしは平然としていたので
すぐに飽きられ いじめられずに済んだ
冷たいと言われたこともある
初恋をしたとき 相手の子にやさしくできなかった
気持ちが読めず 一方的に迫るとフラれてしまった
怒りの感情も湧かない そういうものかとすぐに諦めた
— ある日 戦争が起きた
皆 感情むき出しに狼狽していたけれども
わたしは特にこれといって何も感じなかった
みるみる戦火は国土に広がり
わたしは銃撃戦に巻き込まれ 流れ弾にあたり
あっという間に殺されてしまった
熱く血に染まった脇腹を抑えながら
後ろ向きに倒れると 空が視界いっぱいに見えた
いま わたしはすべてを思い出し
すべてを泣いている
遅れてきた感情を
いまやっと取り戻すことができた
ほんとうの人間になれた気がして
嬉しくて わたしはさらに はらはら泣いた
後悔とともに
20230926
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