WD#115 「パンはパンでも食べられないパン」をただ一通りに定める実験
超絶ロジカルシンキング
「パンはパンでも食べられないパンは?」というクイズがあるらしい。どうやら世俗ではなぞなぞ、とか言うんですかね?ちょっとあんまり知らないのでわかんないんですけど。
では、皆さん、この問いにどう答えますか?
もちろん、クイズなんだから答えが決まっていないとおかしい。
つまりいっせーので答えてもらったら一致するはずだ。
せーのっ
👦<フライパン
👨🌾<パンダ
👵<腐ったパン
👯♂️<スティールパン
👱♀️<パンサー尾形
👱♀️<パンサー向井
👱♀️<パンサー菅
由々しき事態ですよこれは!!
はい、つまり何が言いたいかというと、「パンはパンでも食べられないパンってなーんだ?」という問いかけに、これという唯一解が存在していない。この現状は非常にまずいと思わないだろうか。
数学だって方程式の答えは決まっているわけだし、日本史だって戦で勝った将軍は決まっている。
だというのに。こんなに身近ななぞなぞが、そんな「問題と解答」という基本原理から外れていいものだろうか。いいや、そんなはずはない。例え国語のような「解答が一通りでない」ものだったとしても、解答の概形は同じでないといけないが、パンサー尾形とスティールパンが並列に並べられる問題などあってたまるか。
ということで、今回は「パンはパンでも食べられないパン」を、極めて論理的に考えて一通りに定める、という作業をしてみたい。
そしてこれ以降、皆さんがこの問いに自信を持って答えられるようにする。それが最終目標だ。じゃあ、やってみよう。
1.文構造を明確にする
まずは国語の大原則として、問題となっている文をほどいていかないといけない。そしてその中にある論理関係を明確にして、解答を作っていく。
「パンはパンでも食べられないパンは何か。」
この文章でまず着目したいのは「でも」という譲歩の接続詞。「パンである」という事実を認めた上で、「食べられないパン」、というふうに限定しているというわけだ。
この時点で、「フライパン」という答えが間違っているということに皆さんは気づいただろうか?ロジカルな考え方ができていれば、わかるはずですよ。
そもそも、フライパンの「パン」は英語で平鍋を意味する「pan」から来ている。もしこの文章がその「パン」の話をしているのなら、「食べられないパン」という限定ができていないと思わないだろうか。「食べられないパン」という限定ができるのは、「食べられるパン」の存在があるからなのである。
なお、ここでは文中で食べ物を意味する「パン」と平鍋を意味する「パン」がしれっと入れ替わっているという可能性を認めていない。第一、問題を作る上でそんな不親切なことはしないだろう、という絶対的な信頼に基づいている。あくまで文中の「パン」は一意で、その下での論理を考えている、という前提を押さえていただきたい。
すなわち、ここでの「パン」はあの小麦などから作られる「パン」を指すと考えるのが自然である。そして「でも」という譲歩と「食べられない」という限定から、私たちが考えなくてはならない対象は1つに絞られる。
それは、「パンを構成する要素から、「食べられる」という要素だけを排除したもの」である。あくまでこの問題文では食べられないという限定しかなされていないわけだから、このほかに何を探せばいいというのか。
例えるならこの数学の例がわかりやすい。
「素数は素数でも、奇数じゃない素数は?」
これを見て、「10」などという激ヤバ解答をする人はいない。それはなぜかというと、「素数でも」という譲歩を意識しているからである。素数という概念から、「奇数である」という要素のみを否定したものは何か、ということだ。つまり2である。
この例から、「奇数である」という事象が、「素数である」という全体集合の部分集合となっていることがわかるだろう(普通は素数と奇数は奇数の方が広い集合として扱われるべきだが、あくまで今回は素数を全体集合とした場合なので、「奇数である」という事象は厳密には「素数かつ奇数である」と表現するべきであるが、便宜上今回はこの表現にしている)。
それと同じように、「食べられる」というのは「パンである」という全体集合の部分集合に過ぎない。つまりこの時点で「食べられないパン」が存在しているという事実が裏付けられた。答えがないという可能性を認めない場合、すなわち「パンかつ食べられない」の集合が空集合でないことを認めた上では、その要素を探し出すほか、なす術はない。
つまりこれは無謀な挑戦ではない、ということだ。それが言いたかっただけ。
話を戻すと、我々がここから考えていかなければならないのは「パンの定義」である。パンの構成要素から「食べられる」という要素のみを裏返すために、そのほかの構成要素を明確にしなくてはならない。
2.パンの定義を考える
というわけで、パンの定義を考えていくが、これはもう調べるしかないので、調べよう。
農林水産省がなんとパンの定義を公表していたので以下ペーストする。
確かに、「食べられる」なんてどこにも書いていない。ただ、かなり厳密な定義がなされているので果たしてこれを守りつつ「食べられる」だけ否定した存在なんてあるのだろうか?
あれ、待てよ…?なんか見えた気がするぞ!
3.食パンに「食」がつく理由
急にこんな話題になって怖がっていると思うが、しっかりロジカルに進めているつもりなのでご安心ください。
突然だが、皆さんは食パンに「食」がつく理由をご存知だろうか?
色々諸説あるらしいが、そのうちのひとつに「食用でないパンと区別するため」というものがある。これについてもう少し見ていこう。
またまた唐突だが、鉛筆が開発されたのは大体1565年ごろらしく、そこから「消しゴムで文字が消える」という事実が発見されるまで、なんと200年近くかかっている。もうちょっと考えてものづくりしろよとは思うが、まあ今回はそこが焦点ではないのでいいだろう。
ではその200年の間、何で消していたというのだろうか?その答えが、パンということになる。
これは「消しパン」と呼ばれ、日が経って食味が落ちてしまったパンを消しゴムがわりに使っていたらしい。すなわち、食パンに「食」とついているのは、この「消しパン」特別するためだったのだ。あくまで一説だが、かなり納得できる。少なくとも「消しパン」が存在していたことは事実なわけで、今でもたまに絵画で鉛筆を消すときにパンが使われたりもするらしい。
そして原題に戻って考えてほしい。この「消しパン」、まさに「パンを構成する要素から、「食べられる」という要素だけを排除したもの」ではないか。パンはパンでも、食べるという用途ではないパン。すなわち食べられない。
来た。これだ。
4.結論、驚愕の事実
というわけで、
「パンはパンでも食べられないパンは?」
と尋ねられた時の論理的なベストアンサーは「消しパン」ということになりました!!!
皆さん、今後このどうしようもないなぞなぞを出されても、自信を持ってこの答えを言ってほしい。なぜならこの答えの裏にはご覧いただいたような超絶ロジカルシンキングがあるのだから。これが否定されるなら、何をしても無駄だ。
たまに論理的なことを「理屈っぽい」と跳ね返す人がいるが、その人は何によって納得できるのだろうか?感情論か?
我々が日本語を司る以上、その言語を支配するルール、すなわち論理よりほかに我々が頼れるものはないと思うのだが、どうなんだろう。
「消しパン」と自信満々に答えて「理詰め野郎」と言われたら、この文章を見せて下さい。そしてそれでも「なんか難しい〜」などと言われた場合は縁を切りましょう。所詮人間ですから、論理よりも前に立つことはできません。
さて、締めたいところなのだが、1個見ないふりをしていた部分があったな。気づいただろうか。そう、「食べられる」の解釈をしれっとすり替えた。
たったさっき、「食べるという用途ではないパン、すなわち食べられない」と言った。しかし、このときの「食べられない」は我々が当初想像していた可能を意味する言葉ではなく、受け身の意味になっているのだ。一般、を主語にすると意味が通りやすい。「一般には食べられない」。しっくりくるね。しれっとかなり大胆な視点の転換を行なっている。
英語ならわかりやすい。今まで我々は「食べられない」という言葉を今まで「can eat」、または「edible」と解釈していたが、最終的な結論では「be eaten」と解釈した、ということだ。日本語特有の紛らわしさがかなり猛威を振るっている。
しかしよく考えたら、最初から可能の意味で取れなんて一言も言われていない。「パンはパンでも食べられないパン」と聞いて、「あ、これは可能の意味だな」と解釈したのも、後々に「違うわ、受身だわ」と解釈したのも、完全に自分の中で完結していたのだ。
にしても、今まで皆さん、「食べられる」って可能だと思ってたでしょ。違いました。受身でした。これは驚愕の事実だ。
いかがだっただろうか。一応日記なのだが、記事すぎる構成になってしまった。まあ、夏休みだからいいよね。
たった一文の問題なのに、読み解くと今まで見えなかったところがどんどん詳らかになっていく。やっぱり日本語ってのは奥深い。なるべく多くの日本語を操れる人間になりたいものです。
今回のこの記事により、「パンはパンでも食べられないパンは何か」という問いに終止符が打たれたことになるので、また答えが定まっていないなぞなぞがあったら、教えて欲しい。再び論理のメスで捌いてやろうじゃないか。
というわけで以上です。サヨウナラ
【今週の来てないお悩み相談】
好きなパンはなんですか?
メロンパンが好きです
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