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労働をやめた超越的存在

「あの子要領悪いしね。」
店長が部下の社員の愚痴を言いはじめた。
何故バイトを辞めることを伝えにきたのに店長の愚痴を聞いているんだろう。
部下の社員が女性なのでその対応に試行錯誤しているようだ。
「難しいですもんね。」
自らの適度な相槌に感嘆するくらいには時間が過ぎた。
「エプロンとポロシャツはクリーニングして返してね。」
「了解です。」
これでやっと建物に入れる。
更衣室でエプロンとポロシャツを探したが、ない。
名札以外私のものはなかった。

今出勤しているバイトの人たちと話そうと階段を降りると、吉田さんと石田さんがいた。
石田さんは同い年の女性だ。
まだ私が入りたての頃

バイト辞めたよ\(^o^)/
ほぼ2年間勤めたカラオケバイトを辞めたよ!!
小説っぽく書くの難しいので辞めたよ

理由としては研究室の場所からカラオケが遠いことと今の店長が苦手だから。

大学1年時、ほぼ無職として過ごした私は
「大学2年は頑張るぞ!」
とカラオケバイトに応募した。

前店長との面接時は捏造カラオケ談により見事採用された。
前店長をその見た目から体育会系パワー系剛力店長だと勘違いした私は死ぬほど怯えていた。
しかし前店長は優しいフォローをしてくれたり、趣味の会話などにより雪解け水が流れ、他の従業員と一緒に旅行まで行くほどの関係になった。
大量の注文と片付け、話の通じないお客様以外にあまりストレスのない職場となった。

ただこのストレスに何もしないわけがなく、
大量の注文には圧倒的な適当さで対抗し、1:1のハイボールを作ってしまい「濃すぎる」とのお言葉を頂いたこともある。
大量の片付けには、綺麗に使ってくれたお客様には「愛してる」の言葉を、世紀末のように使ってくださったお客様には暴言を吐きながら片付けをした。
また洗い物がおでこらへんまで積み上がった時は初めて笑いが込み上げた。
話の通じないお客様には撹乱攻撃をおこなった。
電話口では値段のシステムや割引きの話などをごちゃ混ぜにして、辻褄の合わない話を長くすることもあった。
我ながらやることが子供じみているのでやめたい。辞めるけど。

深夜帯にも入っていたので、多種多様な人と接する機会があった。
メガ角ハイを飲みあさる家族やノンアルコールビールをビールだと偽って持ってきてとお願いするお姉さん、飲み要員で呼ばれ4回ほど嘔吐するあいちゃん
魔境である。

1年ほど経つと店長が変わった。
休憩時間ではないのにタバコを吸う、忙しい時間帯に休憩をとる、セクハラをする、フードを運ばないなどなどしてくれる店長で素晴らしかった。
従業員で店長の愚痴を言わない人はおらず、皆の共通敵となってくれた。
その働きっぷりに私も「辞めたい」欲がすぐに湧き、今となる。

「労働」という太古からの人間の行いから解き放たれた私は一歩人類から超越した存在となった。イデア界も驚いているであろう。
超越の報酬は「自由」だった。
が、不安は自由のめまいとか誰か言っていた。
めまいによりバランスを失った私はいま生物と英語の勉強をしている。
大学3年間やってこなかった勉強をしている。
めまいは怖いな。気をつけよう。

約2年間ありがとうございました!!
もうカラオケバイトはやりません!!


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