ショートショート: 告白雨雲
「まだ来ねえかな」
曇り空を見上げて、ため息をつく。次に告白雨雲がきたらナオトは告白する。そう決めていた。
「まだか、そろそろ時間やばいぞ」
声をかけると、芦田は口ごもった。
「まだっすね、もう、ちょい……」
告白雨雲のタイミングを読むなら芦田はピカイチだ。奴がそう言うなら、もう少し待とう。
腕時計を見ると深夜零時。冷えてきた。コーヒーでも飲むか。立ちあがったそのとき、空を見て芦田が叫んだ。
「あっ、あ、あ、来た、来ました告白雨雲。だいたい2分後だと思います」
ついに来たか。よーし、いくぜ。
ナオトの顔に、雨が降りそそぐ。
白いワンピースを着たマユもスタンバイした。
「ナオト、マユ、告白シーン行きます。本番ヨーイ、アクション!」
カン!
ナオト「愛してくれなくてもいい。お前が好きだから」
マユ「あたしもよナオト」
恐ろしい棒読みだ。
大根役者の告白シーンを光らせるには、雨しかない。アシスタントの芦田に目配せして、俺は「サンキュー」と言った。
※たらはかにさんの企画に参加します
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