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壽 初春大歌舞伎(令和5年1月2日~27日 休演日10日、19日)予習

【第一部】
卯春歌舞伎草紙(うどしのはるかぶきぞうし)
長唄囃子連中 とあるので、長唄の『歌舞伎草紙』の卯年バージョンの替え歌と思われます。『歌舞伎草紙』という曲自体も新しいもので、舞踊のために作られた曲です。出雲阿国(いずものおくに)たちが舞う姿を華やかに再現したもの。お正月らしく、めでたく、華やかな長唄舞踊です。

長唄は三味線音楽のジャンルのひとつで、舞台の後ろの方で演奏する姿を見せます。舞踊曲担当で、派手な演目が多いジャンルです。三味線も派手に弾けるようにできています。囃子は小鼓、大鼓、太鼓、笛のことで、長唄連中の前で長唄と合わせて演奏します。

弁天娘女男白浪(べんてんむすめめおのしらなみ)
本名題は『青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)』。通称「弁天小僧」「白波五人男」。河竹黙阿弥作。
因みに「白浪」とつくものは盗賊の話で、「白浪物」というジャンルがあるくらい。なので、演目名を見れば盗賊の話とわかります。
・浜松屋見世先の場
武家の娘に変装した弁天小僧が、万引きしたようにみせて、店の人から額にケガを負わせられるのだが、実は万引きではなかったので、お供の南郷力丸とともに店をゆすろうという自作自演をする。ところがそれを日本駄右衛門に見破られ、美しい娘姿から、本性を現すところが見もの。「知らざあ言って聞かせやしょう」で始まるセリフは有名。1月は愛之助が弁天小僧をやるということで、ちょっと見てみたい。ちなみに、日本駄右衛門も実は盗賊仲間で、そこから先も全部自作自演。

・稲瀬川勢揃いの場
捕手がやってきて、五人の男たちを捕えようとします。花道を使うのと、黙阿弥得意の七五調の名台詞が見どころ聞きどころ。動きは「型」のオンパレードです。
稲瀬川の場面は農村歌舞伎や子供歌舞伎などでもよく取り上げられます。有名な場面で、セリフが決まるとカッコいいので、人気だったのでしょう。5人の悪党がそれぞれ個性が違うので、面白いです。ただ、今は大向う(3階席の後ろから「〇〇屋!」と声を掛ける)がコロナで禁止になっているため、決め台詞で見得を切っても声がかからないのが残念。大向うあっての歌舞伎なのに、と思ったりもします。

【第二部】
壽恵方曾我(ことぶきえほうそが)
これもお正月なので、題名を変えただけと思われます。役名を見ても同じなのでおそらく『曾我の対面』と同じでしょう。
「曾我物」という演目のジャンルがあって、歌舞伎以外でも日本中で最も演じられているジャンルです。曾我十郎、五郎という兄弟が、父の敵討ちを果たす、という物語で読み物としても『曾我物語』というものになり、芝居化されました。どんどん変化していって、全然違う芝居でも「〇〇実は五郎」など、曾我兄弟にしてしまっているものもたくさんあります。
今回の『壽恵方曾我』が『曾我の対面』と同じだとすれば、これも型のオンパレード。あまり動きはありませんが、歌舞伎の決まり事をきっちりやれないとできない芝居であるとともに、曾我兄弟は敵討ちが出来たということでお目出たいことのひとつなので、お正月にはだいたい曾我物はかかります。初心者には何が面白いのかわからないかもしれませんが、見慣れてくると、いろいろな歌舞伎の決まり事がわかって楽しくなります。

人間万事金世中(にんげんばんじかねのよのなか)
明治12年、河竹黙阿弥作。イギリスのリットン作の「Money」というお芝居を歌舞伎に書き換えたもの。時代も江戸時代の設定ではないので、着物ではあるけれど、ちょんまげは結っていません。でも女性は日本髪。場所も江戸ではなく横浜を舞台にしています。私はこれを見たことがないので、話の筋はわかりませんが、まさに題名の通りの芝居のようです。黙阿弥が明治になって、これまでの歌舞伎とはちょっと違う、「現代歌舞伎」を目指して作られた歌舞伎と言えると思います。

【第三部】
十六夜清心(いざよいせいしん)
本名題が『花街模様薊色縫(さともようあざみのいろぬい)』となっていますが、元の本名題は『小袖曾我薊色縫(こそでそがあざみのいろぬい)』で、その中で十六夜と清心の話だけを抜粋した場合『花街模様~』となります。通称『十六夜清心』。最近ではこちらの方ばかり上演されます。河竹黙阿弥作。1月は黙阿弥月間なのか、黙阿弥ばかりです。
清心は鎌倉極楽寺のお坊さん。十六夜は遊女です。禁断の恋にふたりは心中をはかりますが・・・。
これはわかりやすいお話なのでは。歌舞伎らしい筋立てです。清心役が幸四郎なので、いい男感満載です。また十六夜は七之助なので、美しいこと間違いありません。
途中、清元(きよもと)という三味線音楽での舞踊っぽいシーンがあります。『梅柳中宵月(うめやなぎなかもよいつき)』という単体としても演奏される曲です。これも舞台の見えるところで演奏しますが、長唄のような派手さはありません。どちらかというとしっとりした曲です。

★ワンポイント★
定式幕(じょうしきまく)
定式幕は江戸時代には幕府から許可がおりていた「江戸三座」と呼ばれた、森田(守田)座、市村座、中村座にしか許されていませんでした。そのほかの芝居小屋では引幕は許されていませんでした。
現在、歌舞伎座の定式幕は黒、柿色、萌黄(緑)の森田座式。国立劇場は黒、萌黄、柿色の市村座式。平成中村座は黒、白、柿色。もちろん中村座式です。歌舞伎座で行われた中村勘三郎襲名の時は中村座の定式幕が使われました。

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