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ウェディングブーケを手放して

詳細


※本作は「結婚」「恋愛」をテーマとした作品となっております。
※「結婚」「恋愛」における一部の思考に対し、アンチテーゼ的な意味合いを含む部分もございます。
※近々結婚式を控えている方や、結婚式に憧れのある方には一部ショッキングな表現もございます。読む際は自己責任でお願いいたします。
※デリケートなテーマのため、苦手な方はブラウザバックを推奨します。
※台本の使用については利用規約をご確認ください。

【ジャンル】その他(会話劇メインのシナリオです。)
【人数】2人
【比率】女:2
【上演時間】30〜40分

あらすじ

親友の結婚式で佐藤まどかは、参列していた新郎側の知人、
田中久音が気になって仕方ない。
花嫁よりも久音の方が綺麗で、心奪われてしまった彼女は式の帰り、
久音が駅のゴミ箱にウェディングブーケを捨てるところを目撃してしまう。
そんな彼女に興味を持ったまどかは「飲みに行きません?」と誘い出し…?

結婚式で出会った2人が恋愛、結婚のモヤモヤを吐き出し尽くして見えるものとは…

「お互いのもやもやを、誰かに肯定してほしかったのかな…私たち」

登場人物

佐藤まどか(サトウマドカ)(25)
親友の結婚式に参加した女性。
親友の花嫁姿より、久音から何故か目が離せなくなってしまう。
素直でリアクションがよく、好奇心が旺盛。

田中久音(タナカクオン)(27)
新郎の元カノ。
新郎とは会社の同僚であり、空気を壊さないために結婚式に参列していた。
結婚式の2週間後に会社を辞める予定。
一見クールに見えるが、とても表情豊かで人当たりのいい性格。


本編


ーー結婚式の帰り、居酒屋にて
まどかと久音がテーブル席で向かい合っている。
食事がテーブルに置かれている。気まずい沈黙。

久音「………」
まどか「………」
久音「………あの」
まどか「あっ、はい!」
久音「……2次会、良かったんですか…?」
まどか「え…?」
久音「新婦さん、親友なんですよね?2次会参加しなくて良かったんですか?」
まどか「あぁ!2次会!えと大丈夫です!
菜々子からは、2人だけで2次会したいと言われていたので…!
今日の2次会は参加しなくて大丈夫って」
久音「はぁ、そうですか…」
まどか「なので気を遣わないでくださいね!沢山食べて飲みましょ!」
久音「………そう、ですか」
まどか「………」
久音「………」
まどか「あー…えーと、私…さっきも言ったんですけど…
佐藤まどかって言います…!まどかって気軽に呼んでください…!」
久音「……ふ」
まどか「え、なんかおかしいですか!?」
久音「いえ、なんだか…必死だから…ごめんなさい、失礼でしたよね」
まどか「し、失礼じゃないです!大丈夫です!」
久音「ふふふ…。田中久音です、久音って呼んでください」
まどか「久音さん…!はい!遠慮なく!」
久音「ふふ。じゃあ、乾杯でもします?」
まどか「しましょう!」
久音「じゃあ、まどかさん、乾杯の音頭を」
まどか「え、えっと…本日はー…あの、結婚式で偶然出会った女2人の……
なんていうんだろ、こういうの…」
久音「ふ、ふふ…(堪えきれず吹き出す)」
まどか「すみません!普通に乾杯!でよかったですよね?」
久音「いえ。
まどかさん面白いなぁ」
まどか「あ、あははー…お恥ずかしい…」
久音「じゃあ、2人の出会いに」
まどか「…乾杯!」

まどか、久音、乾杯をする

久音「まどかさんは」
まどか「会社員です!25歳です!」
久音「まだ何も聞いてないです」
まどか「すみません…」
久音「テンパってます?」
まどか「はい…今更ながら、久音さん誘ったのナンパみたいだったなと思ったら…
なんか恥ずかしくなってきて」
久音「なるほど?」
まどか「急でしたよね、すみません」
久音「予定もなかったですし、1人で飲もうかと思ってたところなので
ちょうど良かったですよ」
まどか「本当ですか!?」
久音「はい」
まどか「…なら良かったです」
久音「それで…どうして私を、誘ってくれたんですか?」
まどか「あー…その…久音さんのこと、式のときから綺麗だなぁって思ってて」
久音「私が?」
まどか「はい!その紫色のドレスとか、髪型のセットもすごく綺麗で似合ってるし」
久音「本当にナンパみたい」
まどか「す、すみません…!」
久音「ううん、嬉しいです。ありがとうございます」
まどか「……それに」
久音「それに?」
まどか「……そんな綺麗な人が、駅のゴミ箱にブーケを捨ててたから…」
久音「…見られてましたか」
まどか「見るつもりは無かったんです!本当に偶然…!」
久音「いえ、いいんです。私も見られていたからといって気にはしませんし…
ただ、親友の投げたブーケですから、あまりいい気はしなかったのでは?」
まどか「全然!気にしてないです!
だって久音さんブーケトス参加してなかったじゃないですか」
久音「…えぇ」
まどか「菜々子が勢い良く投げすぎなんですよ…!
あんなに飛ぶなんて、誰も思ってなかったですし」
久音「確かにあれは…飛びすぎですね」
まどか「久音さんがいなかったら、今頃地面にぽつーん、ですよ!」
久音「ぽつーんって…ふふ」
まどか「えへへ」
久音「いらないなら、いらないって言った方が良かったですよね」
まどか「いやぁ、あれは言える空気じゃなかったですよ!」
久音「………」
まどか「ナイスキャッチで拍手起きちゃったら、受け取るしかないですもん!
いらないからって誰かにあげるのも…って感じですし」
久音「…そう、ですか?」
まどか「そうですよ〜!
それに式が終われば、ブーケをどうするかなんて個人の自由ですから!
捨てたっていいんですよ、きっと。
それに…寧ろ、かっこよかったというか…」
久音「カッコいい…?」
まどか「ギャップ…?っていうんですかね?ああいうの。
久音さんみたいな人がやると清々しくて…」
久音「………そんな風に思ってくれていたんですか」
まどか「本当は怒るべきなのかもしれません、親友なら。
でも、なんか違うなって思って」
久音「まどかさんは、寛大ですね」
まどか「え、そうですか…?えへへ、照れちゃうなぁ」
久音「(笑う)そういえばまどかさんは、新婦さんとは長い付き合いなんですか?」
まどか「高校からの付き合いなので、長い…?と思います。
3年間同じクラスで大学も同じでしたし」
久音「大学まで同じなんて、珍しいですね」
まどか「そうなんですよ!
クラスの人から大学まで一緒なんて、どんだけ仲いいの?って言われたりして」
久音「へぇ」
まどか「学部は違ったんですけどね、昼休みとか放課後遊びに行ったりして。
社会人になってからも、頻度は減りましたけど…たまに飲み行ったりしてて」
久音「社会に出ると、時間合わせるの大変になりますもんね」
まどか「まぁ、でもそれはそれで気が楽だったというか」
久音「あら」
まどか「……」
久音「…続き、聞かせてください」
まどか「え」
久音「私が勝手に聞きたいだけなんですけど、駄目ですか?」
まどか「えーと…だめ、ではないんですが…(言い淀む)」
久音「……私ね、新郎の元カノなんです」
まどか「………えぇ!」
久音「うふふ、ナイスリアクション」
まどか「旦那さんの知人だろうとは、思っていたんですが…元カノ…ですか」
久音「表向きは、同じ職場の同僚なんですけどね」
まどか「元カノを結婚式に招待する旦那さんの気がしれないです」
久音「職場で私だけ招待しないのは怪しまれると思ったんじゃないかな」
まどか「そんなものですか?」
久音「まぁ、周りは私たちが付き合ってたなんて知らないから…
勘ぐられるのも嫌だったんだと思います」
まどか「なるほど…。
久音さんは、断らなかったんですね」
久音「…断りにくかったんです。
会社の皆で行って、祝ってあげよう!…っていう流れだったから。
でも、それだけじゃなかったですよ?」
まどか「?」
久音「元カノが参加するはずないと思っていただろうから、
内心ヒヤヒヤしててくれたらいいなぁーって」
まどか「あらぁ〜」
久音「まぁ、彼がヒヤヒヤしていたかどうかは分からないですけどね」
まどか「何だか、職場での空気が気まずい感じになりそうですけど」
久音「あぁ、それは大丈夫。私会社辞めるから」
まどか「え、辞めちゃうんですか!?」
久音「うん、彼と別れたときから辞めようって決めてて。
明日から有給だからもう会わないですし」
まどか「…狙ってやりました?」
久音「ふふふ、どうでしょう?」
まどか「くえないなぁ、久音さんは」
久音「そんな簡単に美味しくいただかれたら、つまらないでしょ?」
まどか「あー…それは、そう」
久音「ね!
でもこれが良かったんだと思うの、私も何だか解放された気がするし」
まどか「解放、ですか」
久音「うん。
……じゃあ、次はまどかさんの番ね!」
まどか「私!?」
久音「あの話の後なら、多少は話しやすくなったんじゃないかな?」
まどか「あ…気を遣わせちゃいました…?」
久音「…話しにくいことを話すって遠慮もするし、言葉を選ぶから…
私だけ聞くの、フェアじゃないなーって」
まどか「………」
久音「筋を通したかっただけ、だから気を遣ってなんかいない…ね?」
まどか「………菜々子、昔から早く結婚して専業主婦になりたいって言ってて」
久音「うん」
まどか「結婚したいから自分磨きしたり、婚活したり、
そういう努力ができるのは凄い、尊敬できる部分でもあるんですけど。
それを私にも押し付けるようになって」
久音「例えば?」
まどか「まだ彼氏できないの?とか、若いうちじゃなきゃ
女に価値なんかないんだから、ある程度妥協しなくちゃ、歳をとれば取るほど、
結婚どころか彼氏すらできないよ…とか」
久音「うわ、キツい」
まどか「女が可愛くいられるよう努力するのは当然で、
それはいい男を彼氏にして結婚するためだーって、会うたび言われてまして。
流石に自分から遊びに誘うのやめちゃいました」
久音「……」
まどか「恋愛も結婚も、人それぞれの考え方があると思うし、
自分の意見を押し付けたり、同じ価値観を植え付けようとするの、違うと思うんです。
今は恋愛も結婚も考えられるほど、人としてちゃんとしていないし、もう少し自分1人の時間を大事にしたい、自分と向き合っていたい。
そう思うのに、菜々子に会うたび自分が間違っているように錯覚しちゃって」
久音「うん」
まどか「彼氏がいない私は、結婚を考えられない自分はおかしいのかな?って…。
自分を否定されてるみたいで、嫌でした
菜々子のこと、嫌いになりたくないのに…会ってると嫌いになりそうで…」
久音「自分を否定されるのは嫌、でも友達を否定するのも嫌」
まどか「あ…」
久音「どちらかを白黒で決めるのは簡単で楽だし、事実その選択をする人の方が多い。
でもまどかさんは、白黒つけたくなくて悩んで、もがいてる……優しいのね」
まどか「そう、なんでしょうか?」
久音「そうだと思うな。
自分を否定された気がして、言い返したいけど相手を傷つけたくなくて…結果、
自分だけモヤモヤしてる」
まどか「…仰るとおりです……」
久音「まだあるんでしょ、モヤモヤしてること」
まどか「…結婚って、幸せの代名詞みたいになってません?特に女性」
久音「あぁ〜…そうね」
まどか「結婚したから幸せ、人生の勝組、ゴールみたいな価値観、
それも1つの考え方なので、それを否定するつもりはないです。
……私はただ、結婚って人生の通過点における1種のイベントで
誰にでも発生するものじゃないと思っていて」
久音「うん」
まどか「でも、そう言うと…それは彼氏ができないことへの妬みだとか、
僻み(ひがみ)だとか言われて」
久音「それはちょっと酷いね」
まどか「結婚が幸せ、結婚だけが幸せじゃない、
どちらの考えもあっていいはずなのに。
片方だけの意見押し付けられるの、疲れちゃいまして…」
久音「…そっか」
まどか「すみません、こんな話…」
久音「自分の考えを否定されるのは辛いことよ、
その相手が自分にとって大切だと思う相手なら尚更」
まどか「……」
久音「相手を理解しようと努力し、否定せず受け入れるのは難しいことよ。
その努力をすることはね、自分を削ることでもあるわ」
まどか「あ……」
久音「理解はできなくても、ある程度許容してほしい…ってことすら、友達に
否定されたら間違っているのは私なのかもって考えてしまうのは、仕方ないことよ。
でもね」
まどか「?」
久音「あなたは何も、間違ってないわ」
まどか「!…本当…ですか…?」
久音「うん、間違ってない。大丈夫よ」
まどか「(少し涙ぐむ)ありがとう、ございます」
久音「……まどかさんは明るく見せて裏では色々なことを考えて、咀嚼して、
理解しよう、理解できないならせめて許容しようって、沢山悩んで努力しているのね」
まどか「そ、そんな立派なものじゃないです!」
久音「立派よ、そんなことできる人なかなかいないもの。
私も見習わなきゃね!」
まどか「…久音さん、優しいんですね」
久音「そう?」
まどか「初対面の人にそこまで言ってくれるなんて」
久音「うーん…昔自分も似たようなことで悩んだことがあるからかな?
同じように悩んでいるとき、そう言ってもらえていたら…なんて思ったの」
まどか「…」
久音「自己満足よ」
まどか「……」
久音「……どうかした?」
まどか「……あの、初対面でこんなこと聞いていいのか分からないんですけど」
久音「何で別れたか気になるの?」
まどか「!な、なんでわかったんですか!?」
久音「(笑う)だって、まどかさん…すぐ顔に出るんだもん!」
まどか「えぇ…恥ずかしいなぁ…気をつけなきゃ」
久音「その素直さが、まどかさんの良さだと思うよ」
まどか「久音さん、凄くクールに見えるのに優しくて、お話上手で、
面倒見が良さそうだなって勝手に思っちゃって…。
こんな良い人と別れて菜々子選ぶなんて…って考えたら」
久音「それが顔に出ちゃったんだ」
まどか「多分」
久音「(笑う)そっか。
じゃあ、話すよ」

少しの間

久音「別れた理由はね」
まどか「…(息を呑む)」
久音「浮気」
まどか「浮気!?」
久音「……っていうのは、半分嘘」
まどか「半分は本当ってことですか!?」
久音「まぁ、半分…っていう言い方が正しいか分からないんだけど」
まどか「あ、あの!ちょっと待ってください!
もしかしてなんですけど……浮気相手って、菜々子……ですか………?」
久音「……うーん、そうなるかな」
まどか「……(グラスに残っていた酒を飲み干す)
すみませーん!生、おかわりください!」
久音「あ、私には梅酒のお湯割りください」

少しの間

久音「あー…ごめんね、知りたくなかったでしょう」
まどか「いえ…聞いたのは私ですから、久音さんは何も悪くないです…
寧ろ被害者ですし…」
久音「好きな人ができたって、言われたの」
まどか「え?」
久音「別れるときに、彼からそう言われた。
私じゃない人を好きになってしまったから、別れてほしいって」
まどか「……」
久音「その言葉だけだと分からないじゃない?彼が菜々子さんに
片想いしていただけかもしれないし」
まどか「だから、半分嘘…ですか?」
久音「うん。もしそうだったら浮気ではないでしょ?」
まどか「どうなんでしょう…?私は気持ちが多少傾いた時点で、
浮気と言える気がしますけど」
久音「うーん…難しいよね」
まどか「菜々子との関係は聞かなかったんですか?」
久音「うん、何も聞いてない。
だから浮気だったのか、片想いだったのか、分からないの」
まどか「聞いておけば良かったって思っちゃいそうです」
久音「…そう思ったこと何回もあるよ。
でも、傷付くのが怖くて聞けなかった」

店員が酒を運んでくる。
まどか、久音、それぞれ酒を受け取る(アドリブ)

久音「目に見える形での浮気だったら、楽だったかな」
まどか「…」
久音「彼が完全に悪い状況で、声が枯れるまで泣いたら…なんて、
もしもの域を出ないけど。
好きな人ができた、って聞いたときね…何となく、そうだろうなとは思ってた。
お互い仕事が忙しくなって、2人の時間も減って…少ない時間の中で私は、
彼に向き合ったつもり…だったんだけど。
本当に"つもりだった"んだーってそこで気付いたの」
まどか「引き止めなかったんですか?」
久音「うん、私だけ一方的に好きでも仕方ないから」
まどか「そんな……」
久音「引き止めたとして、お互い温度差の違いで苦しむ気がして。
私だけ好きなんだーって思っちゃうとさ、どんどん虚しくなって寂しくなって、
自分が無くなるような…」
まどか「久音さん…」
久音「自分を失いたくないから、別れた。
ブーケを捨てたのと同じ。
あのブーケをあそこで手放さないと、また自分を失う気がしたの」
まどか「…」
久音「それにね」
まどか「?」
久音「私みたいないい女を振るなんて、勿体無いことしてるって思わない?」
まどか「……ふふふ、たしかに!」
久音「でしょう?
だから、別れてよかったのよ」
まどか「そう、ですね」
久音「ごめんね、初対面の人にするような話じゃないと思ったんだけど…
逆に初対面の人の方が話しやすかった」
まどか「え?」
久音「周りの友達とか、家族とか、会社の人とか…彼のことを知っている人には
言えないじゃない?」
まどか「あ……」
久音「変な噂がたつのが面倒っていうのもあるんだけど…彼のことを知っている人は、皆彼を信用してて、別れた理由とか信じてもらえなさそうで…」
まどか「……」
久音「でもまどかさんは、初対面でも私の話をちゃんと聞いて受け止めて…
信用までしてくれた」
まどか「久音さんは、人を不幸にするような嘘を吐く人じゃないです」
久音「!」
まどか「あ、えと…!初対面なのに分かったようなこと言ってすみません…!
でも話を聞いていると、久音さんは自分に正直で何も隠さずにいてくれるから…
信頼できる気がして。
それに、私のことも否定せずに聞いて、間違ってないって言ってくれました」
久音「……ありがとう」
まどか「うまい言葉が出てこなくて、そんなことしか言えませんが…」
久音「ううん、十分。私、あなたの誘いにのってよかった」
まどか「そう言ってもらえて、嬉しいです」
久音「…何か、凄く軽くなった。今まで心の隅でもやもやしていたものが吐き出せて」
まどか「…」
久音「ウェディングブーケを手放したときと、似てる」
まどか「…そっか、あれは解放だったんだ…」
久音「え、何?どうしたの?」
まどか「久音さんがブーケを捨てたのは、色んな柵(しがらみ)からの解放だったんだなぁと…思って」
久音「…!」
まどか「会社の人間関係とか、ブーケトスで空気読んだりとか、
元カレさんとの思い出とか…そういうの、全部ブーケに詰めて手放した。
そしたら何だか軽くなって吹っ切れた」
久音「だから、解放?」
まどか「私には、そう思えたんです」
久音「…そんなこと、考えたこともなかったな」


久音、目に涙を浮かべる


久音「っ……ごめんね、悲しいとかじゃなくて」
まどか「安心、しました?」
久音「………うん」
まどか「さっきの私と一緒だ」
久音「え?」
まどか「さっき久音さんに間違ってないって言われて、安心したんです。
そしたらうるうるしちゃって」
久音「お互いのもやもやを、誰かに肯定してほしかったのかな…私たち」
まどか「そうかも」
久音「…年甲斐もなく、恥ずかしいことしてるなぁ…私」
まどか「いいじゃないですか、そんなこと言ったら私も
恥ずかしいことしてるってなっちゃいます!」
久音「(笑う)確かに!
……あの綺麗なブーケにそぐわないすべてを詰め込んで手放した…それを見て、
肯定してくれた人がいる…それで、今日はもう十分」
まどか「………」
久音「………」
まどか「…あー!飲み足りないなぁ!」
久音「え?…うん?そうなの?」
まどか「空気もなんか暗くなっちゃったなー!?」
久音「えーと…まどかさん?」
まどか「今日はもう飲んで、もやもや吐きつくしちゃうしかないなぁ!」
久音「…………」
まどか「今日のうちに全部吐き尽くして、手放さなきゃ…ですよね?」
久音「……そうね!店員さーん!ハイボールくださいー!」
まどか「あ!私にはレモンサワーください!」
久音「お!いくねぇ!」
まどか「まかせてください!たくさん飲んでやりますから!」





まどか(M):あの後、飲んでモヤモヤ以外のものまで吐き尽くした私は、
久音さんに介抱され、目から水まで流し尽くした

まどか(M):さっきまでの感動は何処へやら。
久音さんは心配しつつも、正直に汚いって言って笑った
私も笑った、これだけ汚くなっても
なんだか清々しく思える

まどか「久音さん」
久音「うん?」
まどか「もしもの話なんですけど、もし久音さんが結婚式挙げるとして」
久音「急な話だね」
まどか「ブーケトス、どうします?」
久音「……やらないよ」
まどか「…」
久音「人それぞれ、でしょ?」
まどか「〜〜〜っ!」
久音「も〜また泣く〜汚い〜」
まどか「久音さんが、優しいのがいけないんれすぅ〜!」
久音「なにそれ、理不尽(笑う)」

まどか(M):私は顔を涙で濡らして、久音さんはそれを見てまた笑った
私はメイクもヘアセットも、ドレスも崩れてボロボロなのに
久音さんは変わらず、綺麗だった


まどか(M):そんなことがあって、私は久音さんと連絡先を交換し、
頻繁に会うようになった。
新婦の友人と、新郎の元カノが結婚式を機に仲良くなるなんて
思ってもみなかったけれど
あの日、彼女がブーケを捨てていなかったら…私は声をかけずに、
帰っていただろうと思う

まどか『あの!』
久音『…はい?』
まどか『私、佐藤まどかです!さっき結婚式で一緒だったんですけど』
久音『え?あ、あぁ…ごめんなさい、
あまり周り見えてなかったから気が付かなくて…。
あの、私に何か用ですか…?』
まどか『このあとお時間ありますか!?』
久音『え』
まどか『私と飲みに行きません?』
久音『は………はい?』

まどか(M):今思い返しても、ナンパとしか思えない誘い方だったけど

久音「懐かしい〜あのときは勢いに負けちゃったからなぁ」
まどか「でも、あれがなかったら今こうして電話してないんですよね」
久音「それもそうね」
まどか「(笑い)そういえば、言いたいことがあるって言ってましたけど…
どうしたんですか?」
久音「あー、そうそう!私ね……ーー」

まどか(M):嬉しそうに話す久音さんの声に、
あの日手放したウェディングブーケに思いを馳せる私がいた
手放したことは間違いじゃなかったと、そう思えるほどに


まどか「ーー…おめでとうございます、久音さん…!」


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