『巨人軍論』を語る

 『巨人軍論』(野村克也著 角川oneテーマ21)は、プロ野球という業界を通じた組織論です。

 野球は、もともと大学野球が人気だったのを、長嶋茂雄氏がホームランを打って話題になった天覧試合からプロ野球人気が逆転した、と言われているようです。
 長嶋茂雄氏が立教大学から読売ジャイアンツに入団したのが昭和30年代の初め頃ですから、プロ野球興行の盛り上がりと日本がGNP(国民総生産。当時はGDP(国内総生産)ではありませんでした。)世界第2位の工業国に駆け上がる時期とが重なっており、「日本を支えている人たちの娯楽=プロ野球、特に巨人戦」という図式が定着していたようです。
 そのころから、読売ジャイアンツはリーグ優勝と日本シリーズ優勝を継続しており、国民は発展著しい日本の象徴としてジャイアンツ(巨人軍)を見ていたことでしょう。

 『巨人軍論』は、そういう読売ジャイアンツとジャイアンツ自身を含めたいろいろな球団や指導者(監督・コーチ)について語っています。題名に「論」と付いていますが、学問的な論理性に裏打ちされた記述というわけではなく、現代の名監督と言われる著者の経験や見識に基づいた知見が述べられています。そのため、野村監督(当時は東北楽天ゴールデンイーグルス監督でした。)を尊敬したりその知見を学びたいという人には驚嘆の書だと思いますが、野球に関心のない人には「特に・・・。」という内容でしょう。

 そもそもプロ野球選手になるような人は、私達とは異なる特別優れた能力の保持者であり、また、それゆえに他の能力が大きく欠落もしているものと思います。そういう人たちの集団に適用される論理が、私達にそのまま通用できるとは思えません。ですから、この本は「プロ野球ファンが、プロ野球を楽しむためのガイドブック」という風に考えるべきものと思います。

 因みに私は、できれば野村監督のお考えを、本からではなく講演でお聞きしたいと思っていましたが、監督はすでに鬼籍に入られたので、叶わぬ夢になってしまいました。

以上

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