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パナマ運河とスエズ運河 (2370文字)

 運河については、社会科の授業で学んだような記憶があります。社会科の教科書の白黒写真をなんとなく覚えています。
 私は、それよりアスワンダムやアスワンハイダムの方に関心がありまし た。ダムが担う水資源の貯蔵供給と治水の方が有益と思ったのです(当時私は子供だったので発電についてはあまり気持ちが動きませんでした。)。
 当時は、物資輸送といえば、シルクロードや帆船で香辛料を運ぶ程度のイメージしかなくて運河を軽視していました。

 でも後年、ある洋画で「あの船(貨物船)を沖合に停泊させておくと、1日にいったいいくら掛かると思っているんだ1」という台詞を聞き、「大口の取引では、時間を貨幣換算した額が人を右往左往させるんだ。」と思いました。
 豪華客船や新造船は別にして、大概の大型船って錆や塗料の劣化等でみすぼらしい外観のものが多いですが、いち度の運航の費用や積み荷の価格などを考えると物凄い価値を稼ぎ出します。船主も荷主も「頼むぞ!」という気持ちになるのは分かります。

 そこでかつて軽視していた運河のことが思い浮かびました。運河を軽視していたのは、①ダムと比較して用途に重要性が低いと思ったから。②施設として目を見張るほどの凄さを感じなかったから。でした。
 だいたい私が運河について持っているものといえば、「陸地を掘って水路にしている。」という浅いイメージだけでした。

 運河といえば私がすぐ思い浮かべられるのは「スエズ運河」と「パナマ運河」です。
 両運河とも地峡(ちきょう)に作られているという共通点があります。
 地峡(ちきょう)というのは、「2つの陸塊(りくかい)をつなぎ、水域(海や湖)に挟まれて細長い形状をした陸地」とありますから、ある海からべつのある海まで近道をしようとするときに最小の建設工事で運河を完成させようとするなら、そのような細い陸地を建設予定地にするのは当然といえば当然です。ちなみに私は「地峡」と「陸塊」という用語を初めて知りました。「陸塊」については、調べましたが定義を発見できなかったので(安定陸塊というのはありました。)、「陸地」と理解しました。
 私の理解では、運河は地峡を横断するように作られます。

 スエズ運河は逆三角形の形状をしたシナイ半島の左の付け根辺りにあって、地中海と紅海を結んでいます。ここを通らないとヨーロッパからアジアへの航路はアフリカ大陸南端を経由することになるので、船による輸送時間と燃料費や船員の人件費等を考えると是が非でもスエズ運河を通行しなければなりません。
 スエズ運河の通河速度は、時速8ノット(時速15キロメートル)で11時間〜16時間かかります。こんなに低速なのは船の波で運河の岸が侵食されるのを防ぐためだそうです。

 一方パナマ運河は、大西洋と太平洋を結ぶ運河で、パナマ地峡を通っています。
 パナマ運河も重要な運河で、ここを通らないと、大西洋と太平洋間の船による交通は南アメリカ南端を経由するしかないので、経済性を考えるなら是が非でも通りたい運河です。
 ただ、このパナマ運河は前述のスエズ運河と異なり、閘門式運河(こうもんしきうんが)になっています。閘門(こうもん)というのは、水位の異なる水面を持つ河川や運河、水路に設けられる船を通航させるための施設です。
 太平洋の水位は大西洋に比べて24センチメートル高く、潮位変動(約半日の周期でゆっくりと上下に変化する海面の水位(潮位)の昇降現象のこと。)も太平洋側と大西洋側で変動幅に差があるため、もし両岸を直接繋いでしまうと急流となってしまい船が航行できなくなってしまうそうです。
 そこで、パナマ運河には、異なる水位間に水位が変化しうるひと区画を設けて区画内の船を上下できるようにした設備を設けました。
 スエズ運河と違ってパナマ運河の通航は複雑です。
 パナマ運河の断面図を見ると、太平洋からいくつかの閘門を使って徐々に高度を上げていき、最終的にはガトゥン湖に行きます。
 そして、ガトゥン湖からまたいくつかの閘門を使って徐々に高度を下げていき大西洋に到達します。
 閘門に入れる水は海水ではなくガトゥン湖の水(淡水)です。運河の施設の腐食予防のため海水は使いません。
 そのガトゥン湖ですが、ここのところ降水量が少なくて水量が減少しており、パナマ運河の通航量を減らす措置が取られています。

 スエズ運河にしても、パナマ運河にしても、いつか使用できなくなる日が来るかもしれません。
 そうなったとき、物資の輸送はどうなるのでしょうか。
 運河以外の航路を使うと(アフリカ南端や、南アメリカ南端を通る航路)、物資価格は高騰してしまいます。
 でも、今の物資輸送にはコンテナが多用されていますから、地峡の横断に鉄道を使うことになるように思います。貨物船舶から鉄道へのコンテナ積替え、そして、鉄道から貨物船舶へのコンテナ積替え等に時間と費用が掛かりますが、アフリカ南端や南アメリカ南端を回るよりは安く付くのではないかと思います。

 それはそうと、環境活動家はどうしてガトゥン湖の水量減少についてパナマ共和国で活動しないのでしょうか。
 アラル海の減少のことなど忘れたのでしょうか。(アラル海は、カスピ海の東にあります。1960年代に大規模な灌漑(かんがい)農業を始めるためアラル海に流れ込むアムダリア川とシルダリア川という2つの川の水を灌漑用水として大量に利用したためアラル海は縮小しました。)
 それとも、パナマでの活動には生命のリスクがあるからでしょうか。
 環境活動家に、「命懸けで活動しろ」とは思いませんが、安全が保証されている国々相手に活動するだけではその訴えに説得力が生じないように思います。

#創作大賞2024 #オールカテゴリ部門 #スエズ運河 #パナマ運河

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