見出し画像

映画『天国と地獄』 (1617文字)

 映画監督の故黒澤明の『天国と地獄』は大好きな映画の一つです。
 この映画の捜査会議のシーンは、会議の理想の形だと思っていますし、ナシュナルシューズ内の権力争いや工場の現場と経営陣との製品に対する考え方の違いなども「いかにもありそう」な気がします。
 また、犯人の犯行動機の異常性は、「そういう人間がいてもおかしくない。」程度には現実的だと思います。そもそも誘拐事件や殺人事件の件数は交通事故よりはるかに少ないのですから、その犯人の性格が特異だったとしても納得できます。

 警察がこの犯人(容疑者)を誘拐容疑だけでなく殺人容疑で逮捕できるよう泳がせていた過程でアクシデントがありましたがこれは防ぎようがないできごとであって、「警察が新たな殺人(上記のアクシデントがこのことです。)を誘発させた。」という見解をたまに見かけますがその批判は当たらないのではないかと思います。

 この映画は、エド・マクベインの『キングの身代金』が原作とされていますが、 『天国と地獄』と『キングの身代金』は、私の調べた範囲では設定はほぼ同じです。ただ、場所が日本であることと映画的な手法を取る必要性、監督が黒澤明という映像作家であることからいろいろ内容の変更があるように思います。

 『天国と地獄』の公開が1963年。『キングの身代金』の作者のエド・マクベインは、1926年10月15日生まれで、没年が2005年7月6日ですから、エド・マクベインは『キングの身代金』を原作とする『天国と地獄』のシナリオ了承したのかどうか知りたいところです。
 黒澤明は、重役達の言うことを聞かない「扱いにくい監督」でしたから、会社にうるさく言ってエド・マクベインの承諾をちゃんととったと思いますが、調べた範囲ではこの事実についてちゃんとは書かれていませんでした。
 今は、『セクシー田中さん』問題を契機(「けいき。きっかけ」に著作権についての関心が高まっているようですが、以前は著作権については無法地帯に近い状態でしたので、そのことに無関心だった人が多かったのでしょう。
 ウィキペディアには、「レオーネを始めとする製作陣は公開にあたり、黒澤明の許可を得ていなかった。そのため、東宝はレオーネ等を著作権侵害だとして告訴、勝訴している。この裁判の結果を受けて『荒野の用心棒』の製作会社は黒澤たちに謝罪し、日本、台湾、韓国などのアジアにおける配給権と10万ドルの賠償金と、全世界における配給収入の15%を支払うことになった。また、この裁判の過程でレオーネ側が東宝へ出していたリメイク権許可依頼を東宝が相手にせずに無視していたことと、映画の著作者が受け取る世界の標準額を知った黒澤は東宝に不信感を抱き、契約解除、ハリウッドへの挑戦を決意させる要因にもなった。」とありますから、黒澤明はともかくとして、日本の企業の経営陣の性根が今とあんまり変わっていないことが伺い知ることができると思います。

 日本の契約によく書かれる「何か問題が発生したら、双方(原作者とその原作を使用する者)誠意をもって話し合う。」という条項は、問題を裁判外で解決することをほのめかしています。話し合いで解決できない問題だから裁判になるんであって、この「話せば解る」式の論法は愚かしいと思います。

 西洋では長い間作成者(クリエーター)の作品に対する権利というものが蔑(ないがし)ろにされており、それではいかんということで著作権が認められるようになったと言われています。

 20年くらい前、香港映画には撮影まで俳優に台本を配布しなかったそうです。それは、あらかじめ台本を配ると、すぐその台本で同じ内容の映画が作られるからと言われていました。こうなると、盗作というより窃盗そのものです。

 映画そのものの話から逸れてしまいましたが、この映画『天国と地獄』を私は映画館で観たかったなぁ。

#天国と地獄 #エド・マクベイン #キングの身代金


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?