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韓国文学放浪記

 コロナで引きこもり生活が続いた頃、韓国の本を立て続けに読んだ。

 韓国は出張で何度も訪れたが、仕事なのでオフィス、ホテル、レストランくらいしか行かない。韓国語も教材は揃えたが、話せない。韓国の若いスタッフとは英語で話し、夜の席では梯子もして打ち解けたが、年の差のせいか、話題は当たりさわりのないことばかり。何度も行ったのに、韓国を深く知らない。こうした思いが鬱積うっせきしていたのが原因だろう。同じ頃見た映画「タクシー運転手」と「パラサイト」の影響もあったかもしれない。

 最近は大きな本屋の書棚にはアジア・コーナーが設置され、韓国の小説も陳列されている。チョ・ナムジュの「82年生まれ、キム・ジョン」は話題になったようだが、まだまだ多くは知られていないと思う。そもそも、本を読まない人も多くなったが・・・ 読んだ本は、済州島事件、光州事件、セウォル号事件など、韓国社会を根底から揺るがした事件や、格差が広がり分断が進む韓国社会の深層を描くものが多い。韓国小説の書棚を訪れ、一冊でも手に取っていただけたら、私が投稿した意味も少しはあるかもしれない。最近読んだ本(日本と韓国での発刊年を入れた)は;

  1. ディディの傘(ファン・ジョンウン 2020年亜紀書房/韓国2019年)

  2. アーモンド (ソン・ウォンピョン 2019年祥伝社/韓国2017年)

  3. 小人が打ち上げた小さなボール (趙世熙チョ・セピ2016年河出書房新社/韓国1978年)

  4. 82年生まれ、キム・ジョン(チョ・ナムジュ 2018年筑摩文庫/韓国2016年)

  5. Pachinko 〜パチンコ〜 (ミン・ジェン・リー 2020年文藝春秋/米国2017年)

  6. 順伊スニおばさん (玄基榮ヒョン・ギョン2001年新幹社/韓国では長く発売禁止)

  7. 光州の五月(宋基淑ソン・ギスク 2008年藤原書店/韓国2000年)

  8. 光州事件で読む現代韓国 (真鍋裕子 2010年平凡社)

  9. 済州島四・三事件(文京洙ムン・ギョンス2018年岩波現代文庫)

  10. 目のくらんだ者たちの国家 (金愛爛キムエラン他、2018年新泉社/韓国2014年)

  11. 韓国人権紀行〜私たちには記憶すべきことがある〜 朴萊群パク・レグン 2022年高文研/韓国2020年)

  12. なぜ書き続けてきたか・なぜ沈黙してきたか〜済州島四・三事件の記憶と文学〜 (文京洙ムン・ギョンス編 2015年平凡社ライブラリー再録)

  13. 朝鮮戦争〜戦争と文学〜 (金石範キムソクポム他、2012年集英社)

  14. ハングルへの旅 (茨木のりこ 1989年朝日文庫)

  15. (再読)「朝鮮戦争」*(デヴィッド・ハルバースタム 2009年新潮文庫/米国2007年)*朝鮮戦争について書かれた本の中では秀逸と思う

社会性と戦争

 読んで思ったのは、

  1. 歴史的事件を描いた作品はノンフィクションで、著者の年齢は高くなる。一方、小説では、若い世代が目立つ。

  2. 年齢やジャンルを超え、どの作品にも通底しているのは、高い社会性だと思う。

  3. つい最近まで、韓国は長い軍事政権による強権政治の支配下にあった。その淵源を辿っていくと、朝鮮戦争、その前史となる(日本の占領期とは全く異なる)米国の占領期、太平洋戦争、さらに日本の長い植民地統治時代に突き当たる。私は、作品の社会性の背後に、韓国の今につながる厳しい歴史認識が、世代間できっちり継承されているのを強く感じる。

  4. 韓国語を知らないので原文は分からないが、時に繊細に表現されても、揺れを感じない冷徹な問題意識を感じてしまう。芯の強さを感じる。

 韓国滞在中のホテルは、市庁舎前の広場に近く、デモの風景や渦に巻き込まれることもしばしばだった。最近日本でデパートの組合がストライキを打つと、珍しい出来事として報道され、中にはわざわざ「ストライキは労働者の権利です」なんてとぼけた「教育的」解説をするテレビ局もあった。朝鮮半島は今も南北で分断され、緊張した環境の中で若者には徴兵制も残っている。BTSだって入隊したのだ。

(了)





 


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