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朝日が昇る。
目が覚める。
部屋は、綺麗だ。
伸びをした体は、ボキボキと音を立てる。
ーピンポン
「、、、こんな朝に誰?」
玄関に向かってそう呟きながら歩く。
「はい、、!
えーっと、、、どなたですか?」
「隣に引っ越してきた、齋藤です。」
「あ、初めまして。隣の
「あの、、、。」
「ど、どうしました?」
「彼女とよろしくやるなら、他所でやってくださいね。」
なんだコイツ?
小顔からおおよそ想像のつくことのない態度のでかさに、
朝の冷えた頭へ血がグッと流れた。
「よかったですね。僕に彼女いなくて。」
精一杯の笑顔で、そう答えた。
「予防線ですよ。では。」
ドアに手を挟んでしまえばいいのに。
精一杯背中に念を送った。
けれど、
ドアに手なんか挟むことなく、バタンと大きな音。
12月の寒い風が、サンダルの中へ入り込んだ。
「なんだアイツ。」
しかし人間とは不思議なもので。
さっきまであれだけ苛立っていたのに
気づかないうちに頭から消えていた。
そしてそれを思い出す頃には、
ダウンジャケットに首を埋めていた頃だった。
「寒っ。」
地元を出て、4度目の冬。
それまで見ていた景色がやっと日常になった。
イルミネーションに対する少しの反抗心と
そこに群れる人々への嫉妬を纏って、
ピザまんの湯気は、天まで昇る。
『彼女とよろしくやるなら、他所でやってくださいね。』
伸びるチーズを首でどうにかしようとしながら
公園のベンチで朝の出来事に思いを馳せた。
どうして、わざわざそんなことを言う必要があるのか?
考えたところで答えなど出るわけもなく。
無情にもチーズはダウンジャケットへ。
「嘘、、、!」
すると突然、数時間前に聞いたような声がした。
「、、、。」
「、、、。」
「どうも。」
「はぁ、、、。」
つくづく愛想のない奴だな、と思った。
挨拶ぐらいは返してもいいんじゃないかな?
朝以来の苛立ちが頭へやって来た。
「こんな時期に、1人でベンチですか。」
「それはあなたもそうなのでは?」
ピザまんの最後一欠片を口へ放り込んだ。
「〇〇さん、彼女いるのになんで嘘つくんですか?」
ピザまんが体内でキャッチアンドリリース。
この世の地獄が突如、口の中で広がる。
「、、、な“ん”、、、なんで、俺の下の名前を?」
「え、あ、し、失礼します!!」
両手に持っていたレジ袋が
背中にぶち当たるほどの初速。
小さいから、回転率いいのかな。
朝のような感情はピザまんと一緒に無くなって、
代わりに口内の火傷と眉間の皺が入り込む。
「なんだ、、、アイツ。」
今回ばかりは
メモリーの少ないストレージに深く刻まれたのか、
こたつの中でテレビのチャンネルを意思もなく変えても、
火傷に追い討ちをかけるようにお茶を飲んでも、
あの言葉だけがただ、頭の中を大腕振って歩いていた。
「俺、、、会ったことあったけ?」
「アイツの後輩?いや、んな訳ないか。」
上京から4年、
人の輪を代償に得た大きな独り言で考えた。
【なんで覚えてないねん!】
見た顔の2人組にスーツの男が大きな声で。
あまりにリアルタイム過ぎて思わず
「なんかゴメンて。」
テレビにそう言った。
ーピンポン
「、、、こんな時間に誰?」
玄関に向かってそう呟いた。
「はい、、!あぁ、、、齋藤さん。」
「飛鳥です。」
「はぁ、、、。」
ジブリでも見ているのだろうか。
「あの、お話がありまして。」
「なんです?」
「下の名前を知ってる件についてなんですが。」
朝のような、
顔のサイズに見合わない態度ではなかった。
「覚えてない、、、ですか。」
ポケットの中から大きな、、、大きく見えるだけの
普通のサイズらしきメガネをかけた。
「ん、、、あぁ、、、ん、、、?」
振りかぶってボール一個分外。
振り抜いてポール直撃、枠外。
記憶を完全に思い起こすには至らない程の一撃。
「喘がないでください。」
「喘いでないです。」
「、、、すいません。
っていうかやっぱり覚えてない、、、ですよね。」
「いや、、、見覚えのある感じはある。」
「気を使わなくてもいいです。」
「いや、、、サークル関連だったのは覚えてる。」
「、、、!」
「ん、、、あ!あれか!いや、違うか。
とりあえず、入る?」
「、、、。」
「んなゴキブリを見るような目で見ないで。
寒いでしょ?ただそれだけだよ。」
「、、、じゃあお言葉に甘えて。」
こたつへと誘った。
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