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Re:Break 4

「あの子はね、真っ赤に染まっちまってる。」



寒空の下、公園のベンチの前
ゆらゆらと揺れる煙が目に入る。

相も変わらずさくらは黙ったまま。


「どういうことだ?」

「そのままだよ。坊や。
 その子はね、魔法を使ったんだよ。
自分のためにね。」


「、、、!」



さくらの目の瞳孔は開き切る。
この反応から察するに、
マダムの言うことは確からしい。


「魔法を使った?そんなこと知ってる。
 俺の目の前で使ったんだ。」

「、、、へー。そうかい。」


「それともなんだ?
 魔法は使っちゃいけないやつなのか?」


「ふん、青いね。
 そんなことはない、ただね」




「過去をかえるなんてのは、
あっちゃあならないんだよ。」





気がつくとマダムは消えていた。
太陽と共に。











「やっぱり迷惑、、、だよね。」


公園からの帰り道、さくらはそう言った。


「まぁ、大迷惑だわな。」


そう言った。



「本当に、、、ごめんね。」


「いいんだよ。
クソ迷惑なおお陰で前を向けそうなんだ。」

「へ?」


さくらはこちらを向いて
蚊の鳴くような声でそう返した。



「さくらがあの時俺を過去に飛ばしたから、
 さくらが自分のために魔法を使ったから、 
 俺は今、過去をちゃんと振り返れてる。」


消えていた街灯が灯った。


「、、、そっか。ありがとう。」








「いつまで外にいるつもりなんですかね?」





古びたアパートの2階。
廊下から乗り出す形だった。



「しょうがないだろ。」

「ねぇ、私どうしたらいいの?」

「何が?」

「寝るとこ!!」









「んで?なんでこんなことに?」


白菜を菜箸で操る奈々未は言った。


大きなちゃぶ台の上に鍋一つ。
湯気は平等に3人に振りかぶった。



「まぁあったまろうよ。」

「、、、。」

「さくら、、、?」



とりわけ皿に次々と具材が積まれていく。
その光景には金山のような煌めきと、
その鉱毒の如き気まずさがあった。




「さくらさんだっけ。貴方。」

「はい。そうですが。」

「足踏むの、、、やめてもらっていい?」


鍋がグツグツと、揺れていた。








「ねぇ、外に行かない?いつものとこまで。」

風呂に勝手に入った挙句、ベッドを完全掌握したさくらが
イビキをかきだした頃、奈々未は言った。



「私さ、怖い?」


会社と家の間にある公園。
そこでよく、互いに疲れを癒していた。


「怖い、、、んですかね?」

「それを聞いてる。」


教育係と部下。それだけの関係だった。


「先方にさ、感情が無いって言われたんだよね。」


それが本当だとするならば、
その先方は目が腐っていると思った。
青い炎をもって、
情熱に燃えながら仕事をする姿を見てきたからだ。


「別にそれでもさ、
 ウチと契約してくれてるからいいんだけどね?」

「何かあったんですか?」

「私、彼氏に振られちゃった。」


奈々未が目の前で涙を流したのは、
これが初めてだった。


「え、、、。」

「あーごめん。関係ないよね。」


涙を拭いて、無理に笑った。


「僕は!」

「びっくりした。」


「僕は、感情豊かな奈々未さんに救われてます!」

「、、、うるさいよ。仕事できないくせにさ。」


ぐっちゃぐっちゃな顔で、笑った。







いつも通りの配置
奈々未が砂場側
僕がすべり台側



「はい。アイスコーヒー。」

「おr、、、僕、コーヒー飲めないんだけど。」

「そうだっけ?忘れちゃったぁ!」

不気味なほどの上機嫌だ。

「酔ってる?」

「かもね。」


奪って喰おうかと思わんばかりの顔だった。


「さくらちゃん、、、だっけ。」

「うん。」

「私とあの子、どっちが大事?」



ドキンと一つ、心臓が鳴った。
そのセリフに対してではない、
そのセリフを言った事実に対してドキンとなった。


俺が、、、僕が、
どれだけ遅く帰っても浮気を一切も疑わない
おおよそ重いと呼ぶべき要素のない奈々未が
そう言った事実に心臓が跳ねた。


「意地悪だよね。ごめん。」


「いや、いいんだ。」


「ねぇ○○?」


「ん?」


「ずっとそばにいてね?」


胸がギューッとなった。



「私には、○○しかいないんだから。」



月明かりの下、ベンチの上。
視界は真っ暗になって、唇に冷たい感触があった。

さっきまで敏感だった五感は、機能しなかった。







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