見出し画像

Re:Break Final

「もう一度言います。危険すぎます。」


史緒里さんは、もう本来の目的を忘れていた。



「史緒里さん、わかってます。」 
「それでも、やらなきゃいけないの。
 例えそれが、私を刺した人だとしても。」



「いいや!わかってないです!!」


史緒里さんは、机をドンッと叩いて、
俺たちを説得しようとする。




「保護されてる奈々未さんに対して、
 あんたは相応しくないって、
 連行されながら喚き続けた人間なんですよ!」

「奈々未さん、トラウマになったじゃないですか!!
 ○○さんの顔を見るだけで発作が出るほどに!」



「やっと、、、やっと!
 ○○さんの顔が見られるようになったのに、
 どうしてまた、、、!」

「○○さんは、人の心がないんですか?」



俺の両肩に手を乗せて、
涙ながらに訴える史緒里さんを
奈々未は制した。




「史緒里ちゃん。
 これは私の、私たちの望みなのよ。」

「私たちは、ケリをつけなきゃいけない。
 この悲劇を終わらせなきゃいけない。」



そう優しく諭す奈々未だが、
史緒里さんは「嫌だ嫌だ」と、
ただ奈々未の胸につぶやくばかりだった。




ーpriririri,,



「誰?」

胸に史緒里さんを抱いて、
奈々未は辺りを見渡した。



「俺の携帯だ。」

「誰から?」

「わかんない。知らない番号。」




「でちゃダメです。」




史緒里さんは、弱くただハッキリとした圧で
俺を見つめた。





















ーピッ
















ーごめん。








出た電話の第一声は、弱々しいさくらの謝罪だった。











ーどうして、今が変わってるんだ。



ー全部の、、、答、、、を、、、教え、、、



ーさくら?



ー実家に、、、て。、、、未さんも一緒、、、。
ープツッ




















「さくらちゃん、、、からね。何て?」

「多分、、、実家に来いって。」

「多分?」

「ちょっと聞こえづらくて。」




奈々未は、
史緒里さんを胸から離し、
こちらに近づいて来た。




「何回でも言います。
 近づいちゃダメです。逃げるべきです、、、!」


鋭い視線で、史緒里さんはこちらを見る。




けど、





「もう逃げないって決めたから。」


史緒里さんの目を真っ直ぐ見つめ返し、
俺はそう言った。















「行こう。最後の答え合わせをしに。」


















「、、、○○君。橋本さん。どうして?」

「お久しぶりです。
 、、、さくらは今いますか?」






「接近禁止を忘れたの?」

「、、、!いいえ。」






「じゃあ、わかってるわよね。会わせられないわ。」

「でも、話さなきゃならないんです。」

「どうして?」















怖かった。
幼馴染の、その先に進むのが怖かった。
だから、東京に行くせいにして断った。
そしてあろうことか、いつか帰ってくるだなんて
保険までかけて。



怖かった。
自分を曝け出すのが怖かった。
だから、奈々未の好みの男になろうとした。
一人称も、パンの好みも、全部奈々未に合わせた。



何もかも、怖かった。



傷つくことに、慣れてなさすぎた。
僕はみんなを、傷つけていたのに。



逃げ続けた皺寄せは、
選択をしてこなかった皺寄せは、

将来になって大きな傷となって返ってくるから。








「逃げたら、ダメなんです。
 今、立ち向かわないといけないんです。
 、、、それが、俺が学んだことだから。」





「、、、橋本さんはそれでいいの?
 私達の娘にされたことは
 あなたが背負うモノじゃないわ。」




「いえ、私たち三人が背負うべきモノです。」











冬の、肌を刺すような風が右から左へ流れていく。
もうここには、沈黙しかない。









「、、、わかったわ。
 けど、これだけは約束して。」















「この一回で終わらせてちょうだい。
 何もかも。」





















「入るぞ。」




ノックした音がしばらく響く。
ドアを開けたそこには、
ベッドの側に腰掛けたひどいニキビ面のさくらがいた。





「、、、来たんだね。」




普段の何倍よりも細い声だった。

椅子には俺、
ドアのそばには奈々未が、
それぞれ腰掛けた。





「さくら、正直に話してくれ。」

「、、、うん。」






「さくらはいつ、魔法を使ったんだ。」


「、、、わかんない。」






「さくら、、、!」
「さくらちゃん、、、!」






「、、、本当にわかんないんだよ!
 いつ何回使ったなんか、覚えてないんだよ!」




「どういうこと?」


奈々未はそう言った。




「私は魔法で色んなものを手に入れて来た。
 進路も、周りとの関係性も、○○の幸せも。」

「俺の幸せ、、、?」



「どうして、あらゆる試験に落ち続けた○○が
 今のとこに一発合格したと思う?
 どうして、奈々未さんと付き合えたと思う?
 全部、私のおかげだよ?」



「どうして、、、そんなこと。」

「、、、決まってるじゃん。」

「ぜぇんぶ、○○のためだよ。」

「俺のため、、、?」




「そう、私からあなたへのプレゼント。」

「でも結局、そんなもの必要なかった。
 だってそもそも、、、、





「だってそもそも、○○はそんなものがなくても、
 奈々未さんと繋がってたから。」

「魔法が全部解けたのに、
 今までと変わらなかったから。」







そう言って膝を抱え込んださくらは、
ドアのそばの奈々未に向かった。





「奈々未さん、
 どうしてあなたが○○を振ったかわかる?」













「欲張りな子だ。
 そうだねぇ、、、。遠藤さくらってのは、、、」

「あんたの探してる答えを知っているよ。」















「私が願ったのよ。
 魔法を使ったのよ。“振れ”って。」







「なんで、、、?」

「その方が○○が幸せになるから、、、!
 私といた方が○○は幸せなはずだから、、、!」





「さくら、、、?」






「私との約束をさっさと思い出して帰ってきた方が、
 悩みなんかきっとなくなるから!!
 そう思ったから!!」

「でも、、、。
 でも○○は帰って来なかった、、、!」

「だから、会いに行ったの。
 私のモノだってわからせるために!」

「なのに!!どうして!!!」





「どうして、
 あの世界に行っても奈々未さんと付き合ってんのよ。」









「そりゃ、、、
 あの世界はターニングポイントを集めた世界、、、。」




俺は椅子から立ち上がって、さくらに言った。




「確かに、そうだよ。
 でもそれだけじゃない。
 あの世界の中では、私の魔法は全部解除されてるの。」



「どういうこと、、、?」


奈々未はそう言った。


「私が○○のために願った、
 “奈々未さんと付き合う”
 っていう魔法はかかってなかったの!
 “第一希望に就職して順調に行く”
 っていう魔法はかかってないの!」

「なのに!」


「そりゃその世界にいたのは
 あの時の私じゃなくて今の私だから、、、。」

「当たり前でしょ!!」





奈々未がさくらに言い返す前に
さくらは立ち上がってそう言った。




「あんたをあの世界に呼んだのは私!
 披露宴の後、砂浜に来るように仕向けたのは私!
 全ては、
 魔法が解けたあんたをみて○○が失望するために!!」

「なのにあんたは!!
 魔法がかかってないのにあんたは、、、!
 ○○のことをずっと好きでいた、、、。」

「私が魔法をかけようがかけまいが、
 あんたは○○が好きだった、、、。」








「この世界に飛ばしたのだって、それが理由なんだよ。」

「え、、、。」

「立ち直って欲しい。
 それ以上に私に振り向いてほしかった。」

「○○の為なんかじゃあなくて、私のためなんだよ。」

「、、、。」

「私のために、
 ○○に過去を変えさせようとしたんだよ。」

「過去に行って、
 奈々未さんよりも私の方がふさわしいって
 そう、言うつもりだったんだよ。」








「あれは、そういう意味だったのか。」


合点がいった。
なぜ、あの世界に飛ばしてまで
奈々未と俺を別れさせようとしたのか。

だからさくらは、













なんでさくらは、

どうして、










「どうしてさくらは、
 奈々未のことをそもそも知ってるんだ。」

「、、、!」

「あの世界で初対面だっただろう。
 パン屋の前で会った時、名前聞いてたよな。」



「、、、○○のお母さんに聞いたから、、、!」









「いいや。さくらが、
 俺の母さんに近況を聞けるわけがない。」


「、、、!」












「俺の母さんは死んでるぞ。東京に行く前に。」



「けど過去に飛ばした時、さくら言ってたよな。
 奈々未に振られたことを俺の母さんに聞いたって。」

「というかその前に、
 奈々未と俺を魔法でくっつけたって言ったな。」


「それは、どう説明する?」








「電話。」


腰から力が抜けたように、その場に座り込んだ。


「だから、、、!
 それじゃおかしいだろ!」


「そうじゃない。」


「、、、?」


「この世界で私がかけた電話、
 ノイズでほぼ聞き取れなかったでしょ。」

「ああ。それが何か関係あるのか?」















「盗聴器を、仕掛けてたの。」








「、、、!」


「だから、知ってたの。○○のこと全部。」


「まさか、東京の俺の家を
 母さんに紹介したのって、、、。」


「そう。○○を、監視したかったから。」




さくらはまた、膝を抱え込んだ。










「、、、黙って聞いてたら、
 ただのメンヘラ野郎じゃない。」




奈々未は立ち上がり、
膝を抱え込んださくらの胸ぐらを掴んだ。




「○○の幸せのため?
 違うでしょ。あんたの欲のためでしょ。」

「私のお腹の傷がまさに証拠じゃない。
 魔法のないあんたは、
 そうするしかなかったんでしょ。」




さくらは奈々未を驚きの表情と共に見つめる。




「どうせ、○○の待っといてくれっていう
 甘い言葉に、逃げた言葉にしがみついたんでしょ。」


「、、、。」


「沈黙が答えね。
 やっぱりあんたは、ただのメンヘラ野郎よ。」


「もっともらしい答えのように聞こえて、
 自分の意見が通らないことを受け入れられない
 ただのガキ。」



「、、、。」




胸ぐらを離されたさくらは崩れ落ちた。




「さくら、、、。」


「、、、。」


「あんたは、自分の欲望を通したいがために
 周りの人生をめちゃくちゃにした。自分のもね。」



「そして、それは私も。」


「え、、、?」


「元に戻った世界でも、あんたが変えた世界でも、
 私は○○以外と連絡を取ってるみたい。」


「どういうこと、、、?」


思わず、立ち上がって奈々未に問いかけた。



「この子が変えた世界で、私は別の男と結婚した。
 今の世界でも、私はその男と繋がってる。らしい。」


「、、、そっか。」



俺は椅子に座り直した。



「ねぇ、さくらちゃん。」



奈々未は再度、さくらに向き直した。





「多分私たちじゃ、○○を幸せにできないんだよ。」












「、、、ごめんなさい。○○、、、本当にごめんなさい。
 私のエゴで、ごめんなさい。
 奈々未さんも、ごめんなさい、、、!
 めちゃくちゃにして、その上本当に傷つけて、、、!」























「さくらさ、私たちの関係はどうするの?
 って言ったよね。」




「、、、うん。」




「友達、、、としてやり直そう。」



「へ?」






「奈々未を刺したのは正直許せないけど、
 それも何もかも、俺が逃げたことから始まったんだ。」

「俺があの時、ちゃんと断ってたら。
 俺がさくらに頼らずに、ちゃんと自立してたら。」

「いつまでたっても、他人に甘えてたから、
 俺は2人の人生を振り回したんだ。」





「だから、一回壊れた関係をやり直そう。」















「そういうとこが甘いんだよ。○○。」


さくらは少しスッキリした顔だった。





















俺たちの家の前、いつもの公園。
もうとっくにくれた空は雲が薄くかかっていた。





「なぁ、奈々未。」

「ん?」

「、、、離婚しよっか。俺たち。」

「、、、やっぱり?」

「どうやっても、俺たちは運命なんかじゃないんだよ。」





前と同じと景色だけど、
奈々未の顔はもう滲んで見えることはなかった。






「あーあ。これからどうしよっかなぁ。」

「前の旦那と付き合えよ。」

「やっぱそうなる?」

「そりゃね。」







「こういう場合ってさ、どう言えばいいのかな。
 バツ1、でいいのかな。」

「普通にそうじゃない?」

「いやでもさ、
 実質的にはバツ2な感じもしなくもないし。」 

「Rebreak、、、とか?」

「ふん、、、。やっぱセンスないよね。アンタ。」






そういってお互いに背中を向いた。
後ろ手にゆっくりと手を振って。

ふと振り向いた。
奈々未の手は、2本の指以外を畳んでヒラヒラとしていた。







やっぱり君には、勝ってこないみたいだ。



Re:Break.  終





























朝日が昇る。
目が覚める。

部屋は、綺麗だ。

伸びをした体は、ボキボキと音を立てる。






ーピンポン







「、、、こんな朝に誰?」




玄関に向かってそう呟きながら歩く。




「はい、、!
 えーっと、、、どなたですか?」

「隣に引っ越してきた、齋藤です。」




「あ、初めまして。隣の

「あの、、、。」

「ど、どうしました?」





「彼女とよろしくやるなら、他所でやってくださいね。」





なんだコイツ?



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?