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Re:Break 6

「ねぇ、ここ覚えてる?」


運転席にいる奈々未にそう言われて、窓の外を見た。
滑り台と砂場しかない公園。
どこにでもある、風景。

けど、ここは特別な場所だった。

始まりと終わりの場所。
付き合って、振られた場所。

奈々未にとっては希望の場所。
俺にとっては絶望の場所。

面白くもない対比だ。



「俺が告白した場所、、、だね。」

「そう。そして、私が振った場所。」





「うん。、、、へ?」

綺麗な二度見、二度聞きだったと自負できる。

「そう、、、なるよね。」

そう言って、
ハンドルを強く握りなおした奈々未

目を見開いて奈々未の横顔を見つめる俺が、
そこにはいた。





「は、、、?な、なんで。」

「私も、この別世界に飛ばされたの。」

「え、、、と、、ということは、、、?」

「あなたをあそこで振ったことも覚えてる。」

ゆっくりと、
こちらを向いた奈々未の顔なんか見れなかった。


「なんで、私はアンタのことを振ったんだろうね。」

「、、、。」

「ずっと、後悔してた。
ずっと、理解ができなかった。」

「、、、。」

「あの人と結婚しても、満たされなかった。」


声を震わせ、鼻を鳴らし、
時々漏れる声にもならない声が、苦しかった。


「今でも夢に見るんだ。」


車の外、公園の反対側
なにもないところをゆっくりと見ながら
俺はそう返した。


「あの時の奈々未の背中が一生離れないんだ。」


車の中の時間だけが周りよりも進んでいて、
車の中の時間だけが周りよりも止まっていた。

奈々未は謝罪の言葉をいくつか並べた。
でも、正直その謝罪なんかどうでもよかった。

さっき俺が言ったのも、責めて言ったわけじゃない。

ただ事実を言いたくなった。それだけだった。
それになんの裏もなかった。


いや、嘘だな。
少し責めたかもしれない。




「ねぇ。」

窓を開け、奈々未は聞いた。

「、、、何?」

「あのマダムから、何か聞いた?」

「さくらに魔法をあげたのは自分だって。
奈々未、なんか言われたの?」

「うん。昨日の朝、あんたを起こしたあとにね。」

「なんて?」

「アンタ振ったのは、
 私の弱さだけじゃない。ってさ。」

「弱さ?」

「私が、アンタを愛しきる勇気がなかったの。」

「どういうこと?」


「怖かったの。周りを見れなくなった自分に。」


「、、、。」

「ねぇ、
こんなこと私が言っちゃいけないのは
分かってる。」

「ダメだ。」

「けど、言わせて?」







「私まだ、〇〇が好き。」









「じゃあ、車戻してくる。」

俺は車の横に立って奈々未を見送った。
秋風が冷たかった。

ーーーーギュ

日が暮れ、
少し肌寒くなった腰回りが
少しだけ暖かくなった。


「ただいま。」

腰回りが少し、窮屈になった。

「また、私を置いていくつもり?」

「そんなこと、、、。」

「私じゃダメなの?」

「、、、。」

「結局あの人、〇〇のこと振っちゃうんだよ?」

そんなこと、とうに知ってるんだ。
でもね?さくら、

「俺、決めたんだよ。」

「嫌だ。まだ決まってない。」

「聞いて。」

「嫌だ!聞きたくない!」

「変えたい過去を決めたんだ。」

「聞きたくない!まだ過去は全部振り返ってない!」

「振り返んなくたっていい。」


さくらが声にならないほどの声で叫んでいる。
全身全霊で、今の事実を拒否している。


「さくら。聞いて。」

「、、、。」

さくらはゆっくりとおでこを腰に何度もこすりつける。
そして、ポトリと何かを落とすように言った。


「さくの隣でいいじゃん。私なら、裏切らないよ。」





「私と、、、付き合ってください!」

いつもの公園。いつもの待ち合わせ場所。
20年間一緒に過ごした幼馴染から告白をうけた。

嬉しかった。

けど、遅すぎた。

「うれしいよ、さくら。」

「じゃあ、、、!」

「ごめんなさい。」

「え?」

「東京に行って、自分の身が建てられるかもわかんないのに
さくらを本気で恋人として扱えないと思うんだ。」

「そんなこと、、、!」

「俺は出来ないよ。
さくらの恋心をないがしろになんて。」

「、、、。」

幼馴染の涙なんて、腐るほど見てきた。
けれどこの涙だけは、直視できなかった。

「俺、東京である程度安定したら戻ってくる。」

「え、、、?」

「そん時、
まださくらが俺のこと好きだったら
付き合おう?」





「いいじゃん、とか言うなよ。」

俺がそう言うとさくらは手をほどいて、駆け出した。

「さくら!!」


長い一日は、始まったばかりだった。







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