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Re:Break 9

「俺、決めたよ。変える過去。」


さくらとの思い出の公園。
5時の防災放送と、首筋を冷やす風。
2人だけの空間。
決意のこもった眼差しと、
戸惑いの眼差しが交差する。




「決めたんだね。」

「うん。」



拳を握りしめる二つの影。



「、、、同じこと言うけどさ。」
「うん。」


「私のエゴ、だったんだよ。
だから、、、さ。」
「うん。」


「このままで、いいんじゃない?
 変えなくて、いいんじゃない?」




「うん。そのつもり。」
「な、何言ってんの?」





「さくらがあの石を使った過去を、変えるんだ。」
「どういうこと?」


「ここで過ごしてわかったんだよ。
 全部、必要なんだ。
 全部ひっくるめて今の俺なんだよ。
 変える必要なんて、無いんだよ。」




「、、、。」





さくらはそれっきり、黙ってしまった。




「罪悪感?」

「、、、!」

「なんでさくらが感じる必要があるのさ。」





「、、、。」

「、、、。」




とっくに鳴り終わった
防災放送を追うように月が出て来た。

会話という会話もなくなってしまいながら。






「今、俺はさくらの考えてることはわかんない。」

「、、、。」

「けどさ、元に戻るだけだよ。何もかも。」




「○○は、さ、」



絞り出したかのように、さくらは口を開いた。



「元に戻った世界で、どうするの?」


「ん、、、とりあえずもう一回就職して、」


「そうじゃない。
 私達との関係は、どうするの?」


「、、、わかんないよ。」

「何それ。わかってんの?
 もうただの幼馴染じゃないんだよ?ねぇ?
 それでもなお、その返事なの?」



「知らないよ!わかんないよ!
 でも、、、でも俺は!
 俺は、今まで全部逃げたんだ。」


「そんなこと、、、!」


「あるんだよ!!
 さくらの告白を断ったのだって、そうさ!
 奈々未とも、、、そうさ。」







怖かった。
幼馴染の、その先に進むのが怖かった。
だから、東京に行くせいにして断った。
そしてあろうことか、いつか帰ってくるだなんて
保険までかけて。



怖かった。
自分を曝け出すのが怖かった。
だから、奈々未の好みの男になろうとした。
一人称も、パンの好みも、全部奈々未に合わせた。












何もかも、怖かった。











「俺は、もう逃げたくないんだ。
 だから、さくらとの関係もどうなるかわかんない。
 俺の未来なんか、まだ考えてる暇なんかない。」


「、、、。」



「だからさくら、戻ろう。
 元々の世界に戻ろう。」


「、、、。」




「石、貸してくれる?」



さくらは、また口を閉じてしまった。
もうあの頃の距離感なんてとうになくなってしまって。
どうしようもなく、もどかしくて。

もうさくらのことが、わからなくなってしまった。
いや、そもそもわかってなんか
なかったのかもしれない。


ただ、この公園の広がる静寂が
その事実だけを表していた。






「さくら。」



「じゃあ、私の告白の返事だけを教えて。」

「、、、。」




「今、決めて。」

「、、、。」



「ねぇ。早く。」

「、、、。」



「、、、ごめん。急だったよね。」






逃げ続けた皺寄せは、
選択をしてこなかった皺寄せは、





「ごめん。
 さくらのことはもう
  恋愛対象には見れない。」


「、、、!」





今、
ここまでの大きさになって、
選択を強制してくる。





「そっか。」


傷つけてたくなくて、傷つきたくなくて、
でも結局今大きく、幼馴染を傷つけた。



「じゃあ、
 私はもう○○には人生には干渉しない。
絶対に。」



投げやりに渡された石を膝を使って包み込む。




「唱えて。あなたの願いを。」





少し下から見たさくらは、
もう俺の知っているさくらではなかった。



「、、、ありがとう。」
















〈さくらが魔法を使った過去を変えたい。〉










「え?」




視界が真っ白になる前に見えたのは、
さくらの戸惑いと焦りの混ざった、青い顔だった。















ーーーpipipi、、、


毎朝、俺を起こすアラーム音が最初に耳に入った。


「キモ、、、くないわ。」


生活感のする、見慣れた部屋。
いつか買ったタペストリーは、画鋲が一つ外れながらも
壁にちゃんとかかっていた。


「なんでちょっと綺麗になってるんだろ。」



なぜか変わってしまった今に対して、
少しばかりの疑問を、頭に浮かべながら
ベッドを降りようとした時、
頭の曇りは一気に雨にまで悪化した。








「ん、、、。」











なぜか変わってしまった現在に
最高潮に頭は嵐の中。





ーピンポン




「え?誰??」


正直、誰かを歓迎できる精神的余裕など皆無だが、
ぐっすりと眠る奈々未を逐一振り返りながら、
ガチャリと、冷たいドアを開けた。







「おはようございます。
 タレントが、マネージャーを迎えに来ました。」





冷たい目をしたマネージメント相手は
ズカズカと部屋に入って来た。






「○○さんも、奈々未さんも遅いですよ。
 いつまで浮わついてるんですか!」



そのベッドに奈々未が寝ていることは、
さも当然のようだった。






「ご、ごめんね久保さん。今すぐ準備するから。」






「2年もそんなラブラブなんて、、、。」

「どういうこと、、、?」

「いやいや!!何言ってるんですか!!」













「もう2年でしょ!お二人が結婚して!!
 どんだけラブラブなんですか?!嫌味ですか?!」









くどいかな、けどもう一度言わせてくれ。
どうして、今が変わってる?

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