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調査報告

齋藤飛鳥ハ、サークルノ後輩ト知リ得タリ。
就活相談ニ何度カ乗ッタナリ。
ソシテ、齋藤飛鳥ハ別部署ノ後輩ト判明セリ。

追記
齋藤飛鳥ハ恋ノ最中ト見ツケタリ。






「あ、おはようございます。」

「おはよう。昨日のブツは出来た?」

「はい、、、!なんとか、、、!」






昨日の夜、こたつでの会議。
サークルの後輩であったことを早々に告白。
人数だけの多いサークルだったから
覚えてないことは分かっていたらしい。


「言ってくれればいいのに。」

「言ってもここまで話さないと
 ダメじゃないですか。面倒です。」


極度のめんどくさがりなのか
必要以上の労力を使いたくないのか

苦労しただろうなぁ。と勝手に思った。


「んで?朝喧嘩吹っかけて来たのは?」

「あぁ、、、。本当にごめんなさい!」


要約すると、


俺の幼馴染を好きな別部署の男性Aが好きらしい。
飛鳥からすれば同部署か。まぁそこは良くって。

飛鳥にとって不利なのが、
幼馴染が男性Aのことにどうやら好意的らしい。

そして、幼馴染は俺と付き合ってると思ってたらしく。
まぁよく言われる浮気だと思ってるらしく。


家に連れ込んでるのを見たらただ単に腹が立つし、
先輩がなんか可哀想だから予防線を張った。
とのことだ。




長いし、ややこしいし、何にせよ遠回りすぎる。



ほぼ初対面の俺にその流れを省いて
直球ストレート、ど真ん中シュート。

あぁきっと学生時代苦労しただろうなぁ。
勝手にまた、そう思った。



「とにかく、
 俺は幼馴染と付き合ってない。付き合ったことがない。」
「はい。」

「んで、まだ幼馴染と男性Aはまだ付き合ってない。」
「はい。」

「男性Aは飛鳥に好意的。」
「多分ですけど。」


「、、、頑張れとしか言えんな。」
「はい、、、。」



お互いにお茶を啜った。


「お弁当とか、、、作ったら喜びますかね?」


茶柱をまじまじと眺めながら、飛鳥は言った。


「そりゃあ嬉しいよ。」

「本当ですか?」

「少なくとも俺は嬉しい。」


飛鳥は口をブーッと突き出し、
こたつの端のおかきを見た。


「とにかく、アドバンテージはあるじゃないか。」

「アドバンテージなんかあります?」


そのままの顔で、こちらを見た。


「幼馴染は同じ会社じゃないだろ?」

「それアドバンテージですか?」

「めちゃくちゃアドバンテージだろ。」

「先輩って、、、あんま恋愛上手じゃなさそう。」



飛鳥の口の角度が更に歪んだ。



「でも女性経験はちゃんとあるから。」

「何であるんですか。」

「あっちゃいけないのかよ。」


「とにかく、お弁当作りたいんだろ?!」
「はい。」

「だったら作れ!」

「、、、が、、、意じゃ、、、い、、、。」
「なんて?」

「料理が得意じゃないんです!」 



意を決したような顔とトーンでまっすぐと言った。
大学生まで実家暮らしの仇らしい。
絶対そんなことはないと思う。


そうして始まった、深夜の料理教室。
互いの冷蔵庫の卵とほうれん草、ソーセージの
ストックを全て使い切った。

完成したのは、
よくわからないもの      7割
美味しいそうなもの      2割
まぁまぁ人には出せそうなもの 1割


何だか終わってるクエストの達成報酬みたいだった。


俺の家のキッチンの清潔感を台無しに、
さらには飛鳥のキッチンですらも台無しになりながら

一つのお弁当は出来上がった。


時は戻って、翌日朝。

「あれだけ頑張ったからな、大丈夫だろ。」

「、、、。」

「大丈夫だよ。」

「、、、。」

「美味しさじゃないから、お弁当は。
 満足して欲しいっていう気持ちだから。」


子供が窓ガラスを割った家に行くかのような顔。
思ったよりも重大化したことに反省する高校生のよう。

絆創膏だらけの手を火傷だらけの手で重ねて
足元を見て、深く呼吸を3度した。

「先輩。私頑張ります。」

「うん。頑張れ。」




そして飛鳥は満面の笑みと共に
夜、お弁当箱を2つ返しに来た。

翌日以降も注文を受注したらしく、
朝のベランダにはいい香りがしていた。

だんだんその香りも腹を空かせるほどになって、
気づけば飛鳥はお弁当を3つ生産するようになった。

本人と、Aと、それから俺の。

何度もいらないとは言った。
しかし、ベランダでその香りを楽しむために
毎朝窓を開けるようなったことを知られてからは
大人しく受注をすることを決めた。










そして年が明けてから半月。
お弁当の受注生産は突然終わりを告げた。

朝のベランダには、
排気ガスの臭い匂いばかりが詰まっていった。

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