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【音楽コラム】BANDCAMPが今熱い!他では聴けない楽曲を発見、クリエイターを推したい人へのレーベルオーナーアドバイス(導入編1)

国内外でサービスが加熱している音楽配信と音源購入だが、一般的なサブスクリプションモデルでの楽曲だけでなく、より多様性のある音楽沼に潜りたいという方が利用されるのが「BANDCAMP」。

音楽の深淵を見るだけでなく、好きなアーティストを教えてくれるキュレーターの存在や、推し活から得られる幸せなど、自分が受信、発信のどちら側にもなれる面白さは類を見ないサービスとして支持されている。

9年間もの間、最前線でレーベルから音楽を発信し続けているレーベルオーナー、Yzox(いぞっくす)さんに、その魅力を複数回で語ってもらおう。まずはBANDCAMPってなんぞや? からスタートします。

BANDCAMPって知ってるかい?

 音楽好きな方が今、注目しているのが「BANDCAMP」です!
 「知ってる!」 という読者も多いのではないでしょうか。
 
 念のために説明すると、BANDCAMPは2008年から始まった、音楽販売・配信サービスです。音楽作品のダウンロード販売はもちろん、アーティストやレーベルがグッズ・アルバムを販売できるのが魅力となっています。
 「最強の音楽アプリ」なんて呼ばれる、世界的な配信プラットフォームなんですよ!

 筆者であるYZOX(いぞっくす)も、もちろん利用しています。
 実はBANDCAMP内にて「OMOIDE LABEL」というレーベルのオーナーをしています。作品をリリースし続け、かれこれ9年経った今――200を超える作品(カタログ)を提供しています!

OMOIDE LABEL
https://omoidelabel.bandcamp.com/album/--21

画面に収まりきらない、購入者の数々を見てもこちらのレーベルと曲が評価されていることは一目瞭然。なので話の一読の価値ありですね。

 しかしこの9年の間に、音楽配信の世界も変化し続けてきました。
 後発となる各種サブスクリプションのサービスが普及し……BANDCAMPの需要が奪われた、なんてこともありました。
 しかし2023年の春頃から、BANDCAMPの人気が再燃してるんです!

 音楽の体験は「今、その瞬間に聴ける流行の楽曲と出会える」というのが、とても大事です!
 圧倒的に多くの曲に触れられるBANDCAMPの魅力を、オーナーの1人である私が紹介していきましょう。


■BANDCAMPとは?

 オーナーの視点で語るなら、BANDCAMPは「アップロードして、リリースするまでが楽!」です。
 音楽を作ってから、販売までの手間が少ないんですよね。

 これ、実はすごいことでして……大事なことなので説明していきます。

 その他の音楽サブスクでは、必ず「登録事業者へのアップ申請」という手順を踏みます。
 つまり「権利関係がクリアになっている楽曲でなければ、利用は不可」です。
 当たり前のことなのですが。 

 しかしBANDCAMPは「インディーズレーベルとして活動している、小規模勢の発表の場」として、『他のクリエイターの曲を自分の作品として出す』といった論外なケース以外は、大目に見てくれるんです。

 これぞ「音楽のスタイルは自由、音楽は過去作品からの引用や、影響も含めて育ってきた文化」の体現でしょう!!

 そのため、一般的なサブスクサービスでは聴けない、幅広く多才なジャンルの音楽にあふれているのです!


編集部加筆:大手音楽サブスクリプションサービスと音源購入時のギャラ相場について

素晴らしいかどうか、の前に貴方がアーティストとなった場合、どの様な収入があるかをお伝えしておきたい。

サブスクリプション音楽サービスを一般のサブスクリプションで取り扱ってもらうには、各プラットフォームの推薦する業者に登録したのち、審査が通れば晴れてサブスク配信スタート、となる。

アルバム単位で登録するのがお得なのだが、アルバム1枚単位で5,000円であり、一般的なサブスクリプション相場でいうなら5000回再生(サブスクのサービスに寄ってはその100倍ほど)で登録料自体はペイできる。貴方の初めてのアルバムで、何も宣伝も知名度もしてない場合、ギャランティや制作費を回収できているかと言えば難しい状況になる。

一方、一般レコード会社であれば1000円のアルバムを販売した時には印税が1%(10円)入ってくるので、100万枚セールスで10億売れたら一千万円とざっくりな計算を追加できる。

大御所バンドのサブスク再生数が1億だとしたら、1億円+アルバム売上となる。意外と音楽だけで食べていくのは難しいかも? となるかもしれないが、10本ぐらいの億再生を連発するリリースがあれば、当然ながら圧倒的に音楽だけで食える夢のある世界なのは間違いない。

一方でバンドキャンプはパーセンテージが大きいため、同じ母数のリスナーやファンが付いてくるとは限りませんが、より大きく収益を達成できるチャンスがあるのも魅力。バンドキャンプフライデーに1億枚売れたら、100円だとしても90億前後の手取りとなる。

とはいえ現実的には、レーベルのしがらみやクリエイティブとしての悩みなどもあるので、一長一短あるなかBANDCAMPで自由に活動できて、そこで大きくヒットするというのは白帯アーティストからすると、とても魅力的でありますね。

購入しやすい、もしくは応援しやすいアーティストとリスナーの関係性

 また、購入システムも気安いものです。
 BANDCAMPには「NYP(Name Your Price)」があります。
 これは「基本は無料ダウンロード。気に入ったならお金を払う。金額は自由!」という……いわゆる「投げ銭」スタイルですね!
 気に入ったアーティストやレーベルを『推し活』できる! まさに、令和のこの時代にマッチングしたサービスでしょう!

 DJをされる方の中には、BANDCAMPで新しい音楽・ジャンルをチェックする、という人もいます。
 また、2023年時点ではリモートワークも一般化し、在宅勤務も増えたため、バックグラウンドでBANDCAMPを利用しながら仕事をする。そういった方も私の周囲で多く観測されています。

 実はこのオンラインユーザーの増えた環境が、BANDCAMP人気の再燃に起因してるんです!


■良貨が悪貨を駆逐した話

 インターネットと音楽を語る上で、「違法ダウンロード」というものを外して語るわけにはいきません。
 海外記事を引用して翻訳、最適化する形になりますが、『BANDCAMPがいかにして、違法ダウンロードよりも支持されるようになった』かその経緯と、「音楽好きは推し活が好きである」という話題をしていきます。


(以下、2012年のBANDCAMPのテキストを引用/翻訳)https://blog.bandcamp.com/2012/01/03/cheaper-than-free/


『無料より安いものとは』

数ヶ月前から、BANDCAMPで起こる全ての販売の出発点を追跡し始めました。
このデータを分析して、次に何をすべきかを計画しています。その中で素晴らしいことに気づきました。
無料で入手可能な音楽を毎日のように、わざわざファンが購入しているのです!

例えば今朝だけでも、「lelia broussard torrent」(編集注釈:torrentとは、ネット上でコンテンツをダウンロード/アップロードするツールのこと。違法サービスにも使われている)とGoogle検索したあと、アルバムを$10で購入した人がいました。

その後、「murder by death, skeletons in the closet, mediafire」と検索したファンが$17支払い、その後「maimouna youssef the blooming hulkshare」と検索して$15の売り上げがありました。

また、音楽torrentトラッカーのWhat.CD(編集注釈:違法ダウンロードサイト。2016年に閉鎖)のリンクをクリックした後、ファンが$12の購入をしたり。

The Pirate Bay(編集注釈:反著作権団体が運営する違法サイト)の隣に、

このバンドはこちらでアルバムをダウンロード販売しています。しかも、購入者は自分の望む形式(mp3、ogg、flacなど)を選ぶことができます。さあ、この素晴らしいバンドをサポートしましょう!

というアピールがあったため、誰かがリンクを辿って$10を使ったりしました。

これらの販売があることで、BANDCAMPがファイル共有や他の無料配信プラットフォームと、効果的に競争できていることがわかります。

それは、
a) ファンがアーティストを直接サポートするという、明確で簡単な方法を提供している。
b) つまりは、より良いユーザー体験を提供している。

これらによって実現できている、ということです。

私たちが最近好きな例の1つは、検索「milosh flac -torrent」で始まる、$8の販売でした。
つまり高品質のflacデータを求めて、Miloshのレコードを探していたファンが、多数のtorrentサイトではなくBANDCAMPに来て……見事、アーティストにお金を払うことにつながった、ということです。
美しいですね!

2011年12月だけで、BANDCAMPのアーティストたちは音楽とグッズの売り上げで、100万ドル以上を稼ぎ出しました(2008年からの合計は1260万ドルです!)。

これらの売上の22%が、タグ、ホームページ、レコメンデーション、検索などによって促進された、BANDCAMPによるものです。
分析によれば、ファンは40%の確率で、希望価格のアルバムに提示価格よりも多く支払っています。
また購入者の53%は、米国外のファンです(ライブ販売フィードの最近のスナップショットで、様々な人々の姿が確認できます!)。

BANDCAMPを立ち上げた2008年当初は、音楽の小売りは瀕死の状態でした。
アーティストの将来は、ツアーによる興行収入にかかっている、というのが一般的な通念でした。

幸いなのは、愛するアーティストをサポートする最善の方法は、お金を渡すことである……と理解している、ファンのコミュニティが活発に存在していることです。

私たちBANDCAMPは、この真実を可能な限り明確に提示しています。アーティストの誠実さと、熱心な音楽ファンの知性。その両方を尊重するサービスを、これからも提供していきます。

BANDCAMPにご参加くださった皆様に、感謝いたします!


 ■BANDCAMP FRIDAY!!

 コロナウィルスのまん延により、各種エンタテイメント業界が大きなダメージを受けました。当然、音楽の世界も同じです。
 だからこそオンライン配信サービスの強みを活かしてBANDCAMPは、「BANDCAMP FRIDAY」なるものを立ち上げました。
 これはBANDCAMPが指定した月の、第1金曜日に行われる企画で、運営側の手数料がこの日だけ無料になり、決済手数料のみでそれ以外はすべてアーティストとレーベルに渡されるのです。
 購入者の支払った額の9割以上が、アーティストに入るの、すごくないですか!? この日は特に、推し活がはかどるわけです!!

 BANDCAMP FRIDAYの登場により、クリエイター側もリスナー側も活気づきました!
 このタイミングに合わせて「新曲をリリースする」アーティストやレーベルも。

 ……正直なところ、NYP(投げ銭)に関しては、これまで「お金を出す」という行為が定着しませんでした。購入せずとも、無料で聴けてしまいますしね。
 もちろんBANDCAMPでは対策として、再生回数制限を設ける……といったシステムにはなっています。リスナーの数×再生数での制限数を超えた場合は、購入に進むしかない、というものです。
 しかし、それでも購入まで至る人は「少数派」だったわけです。

 試聴だけして、BANDCAMP内を巡回し、それでおしまい。楽曲に「お金を払う」という意識が低かった、ということですね。
 再生数に応じて、BANDCAMPはアーティストに収入を与えていました。そういう意味でも、「再生していれば十分だろう」と思われていたのでしょう。

 ですが、それをBANDCAMP FRIDAYが変えました!

 購入されたコンテンツはBANDCAMPのトップ画面に、時系列で表示されます。
 それが「満足できるクオリティ作品のアーティストを応援したい!」という気持ちに、火をつけたようです。
 BANDCAMP FRIDAYの登場した2020年3月~2023年3月までで、9100万ドル(約120億円)もの売り上げがありました!
 推し活効果、恐るべし……ですね!!


■キュレーターの存在

 推しアーティストを見つける。それがBANDCAMPの楽しさになりました。
 そこに一役買った存在が「キュレーター」です。

 もともとは「(美術品などの)研究員」という意味ですが、BANDCAMPでは「音楽に詳しいインフルエンサー的存在」と思ってもらえればOKです。
 購入者それぞれにアイコンが設定されていて、曲ごとに「購入した人のアイコン」が時系列で並びます。
 その中から、自分と相性のいいキュレーターを見つけることで、より「好みに合った楽曲」を発掘できるんです!

 こうした音楽を集める・探すというのをディグ(掘る)と呼びますが、一助として「推しのキュレーターのオススメを楽しむ」手段も増えたわけです。
 また、もちろん購入者自身(つまり、これを読んでいるあなた)も、いつでも誰かのキュレーターになれるわけです。
 「この人のチョイスは自分好みだな」と思われれば注目され、信用がついてきます。自らが、推される側にだって立てる……それがBANDCAMPの魅力なのです!


 さて、といったところで、BANDCAMPについて熱く語らせてもらいました!
 後半ではさらなる「推し活のよさ」について語りつつも、BANDCAMPの問題点にも触れていきます。

 そう……良し悪しがあるのもまた、音楽を取り扱う難しいところです。
 とても大事な話になりますので、続けて読んでいただきたいです!

 それではまたお目に掛かりましょう! YZOXでした!

あとがき

駆け足ながら、メジャー音楽とインディーズ音楽はあまり境目がなく、アーティストとレーベルが自由に活動しやすい世界になっていると気づいてもらえただろうか。

そんな魅力が詰まっているBANDCAMPの情報は、さらに次回で掘り下げていく。今回は課金なしでの記事公開だが、次回は寸志でオススメ楽曲へのリンクも見られるようにしておくので、ぜひともこちらの媒体も「推し活」してほしい。


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