旅の「記憶」Ⅸ.王様はお孫さんが大事


トンガ王国に、建設された工業高等学校の竣工祝賀会に、設計者として参列しました。                   
        

南太平洋・トンガ王国

南太平洋に浮かぶトンガ王国は、トンガタブ島をメインアイランドとして、ヌクアロファを首都とします。

メインアイランドから40㎞南東にあるエウア島に、将来は理工系大学に昇格されるこの高等学校が、トンガの人々の期待の下に竣工されたわけです。

祝賀会当日は、ヌクアロファとエウア島間を結ぶ小型プロペラ機に搭乗しましたら、乗機のパイロットは、この高等学校が飛行コースに当たると知って、乗り合わせた参列者のために、その上空で旋回してくれました。

祝賀会のセレモニーのメイン会場は、完成したばかりの校舎のホールを利用して開催されました。

中央の玉座の両側には、日本国大使と建設関係者として私も陪席し、閣僚や関係者、島民代表が参列するトンガ王国の一大イベントでした。

メイン会場に隣接する屋外のグランドも、祝賀会々場として、大勢の島民や学童たちも参列し、トンガの伝統的な料理、飲み物などの用意も終えて、開宴を待つばかりでした。

素晴らしい体躯に、威風堂々とされた王様が玉座にお就きになりました。

トンガの人々

その膝の間には、幼い、可愛らしい男児、お孫さんをお連れになっていらっしゃいまして、その頭を撫でられて何事か囁かれ、いかにも愛おしくたまらないご様子でした。
                   

竣工祝賀会のセレモニーが開始され、王様は高等学校竣工の祝意を高らかに述べられ、引き続き日本大使が答礼の演説をされました。
     
次いで私の番でしたが、開始の直前、あらかじめ用意をして臨んでいました祝宴向けのスピーチ(挨拶)を、式典向けにアドレス(演説)に変更するように進行係から申し渡されたばかりでした。

スピーチからアドレスに切り替えるには、内容の仔細な吟味や王様の尊称などは、先方との事前の確認を要しますので、困惑していました。

  
屋外グランドで開宴を待ちわびる大勢の参列者、島民や学童たちが目に留まって、彼らのためにも、大使のアドレスを参考にしながら、用 意してきたスピーチを、簡潔に分かりやすく述べることにしました。

私がスピーチを始めようとしますと、王様はお孫さんを抱きかかえられて、そそくさと席をお立ちになり、私は王様抜きでこのアドレス+スピ―チの挨拶が始められました。

スピーチの最後には、祝意と謝意を現地語で述べますと、グランドから大きな歓声と拍手が起こり、人々から好評をいただけたようでした。

私の挨拶と入れ違いに、王様はお孫さんとお戻りになり、お孫さんのトイレの要望に応えて止む得ず席を外されたことを、丁寧にお詫びなさいました。

それを聞いた参列者たちの表情は、一斉に和ごみましたが、私は身の細る思いの挨拶を終えて、無事に役目は果せたことを密かに安堵しました。

この祝賀会を報道する地元テレビニュースに、陪席した私の姿も放映されたようで、宿泊先ではホテルのスタッフたちから「サー」と称されて、呼ばれる度に身をすくめる思いでした。

この原稿の取りまとめの最中に、トンガからニュースが飛び込んできました 。

ヌクロファ北方65キロのトンガ沖で、大規模な海底噴火が発生し、電話回線やインターネットが不通のため、詳しい被害状況は不明とのことです。
祝賀会でお目にかかった参列者、関係者、島民の皆さまを思い浮かべながら、ご無事を心からお祈りいたします。


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