旅の「記憶」Ⅶ.生活の「場」の試み
ロンドンでは、知人宅に逗留して、人類の歴史、芸術、文化の領域の中心的役割を担う大英博物館に通いました。
大航海に乗り出し、世界各地に植民地を築いた大英帝国は、産業革命を契機として近代国家の基盤の下に、世界に君臨しました。
世界各地から膨大な文化財や史実の資料が収集され、現在その多くが大英博物館に展示、収蔵されてます。
その中でも、ギリシャの都市国家、アテネなどとの覇権争いに敗れて、滅亡に至ったペルシャ帝国の歴史のロマンに触発されて、その遺跡をこの目で確めて、直接触れてみたいとの思いが募りました。
日本への帰路の途上、彼の地に立ち寄るつもりで、顔見知りになった博物館の学芸員に、アドバイスを求めました。
ところが、言下にそれは無意味だ、主要な文化財や資料は全てここに集められているからとの回答で、この目論見は準備不足で諦めざるを得ませんでした。
世界的な評価の高いロンドンの街づくりの事例の中に、旅のテーマとしていた、将来の都市と住宅のあり方を探ってみました。
わが国の高度経済成長を支えた住宅団地は、無機的な外観の集合住宅が立ち並ぶばかりで、英国の団地は、伝統的なレンガ造の低層住宅から、テラスハウス、高層住宅まで、景観に変化に富んだ住環境を形成しています。
ロンドン中心部のバービカン地区の街づくりは、多数の専門家の参画の下に、10数年にわたり開発が進められ、池や庭園を中心にテニスコートなどのスポーツ施設を配して、始められました。
複合センターも建設されて、 学校、図書館、劇場、アートギャラリー、温室植物園などの公共施設、レストラン、商店などの商業施設も整えられて、開発は終了しました。
優れた街づくりの例として、わが国の団地計画やニュータウンづくりにも、大きな影響を与えました。
また、生活の場づくりの面でも、これからの住環境を示唆する注目すべき面が見られました。
生活のプライバシーが尊重されるにつれて、住まいとコミュニティとの連携は希薄になり、その結びつきが問い直されています。
この二つの概念は、適切な「場」を介することによって、対立させずに共に高め合うことができると、考えられるようにました。
集合住宅や団地の公共スペース内に、人々が気軽に立ち寄り、出会い、語らう「お喋りコーナー」、「井戸端会議スペース」などの「場」が、様々なデザインのもとに創り出されだしました。
わが国の住宅の、玄関の「たたき(三和土)」や「縁側」などの半私的・半公的な伝統的な空間も、内外空間の緩衝ゾーンとして、また生活を豊かに演出するとして、見直されるようになりました。
個人主義の伸長に伴い、コミュニティとプライバシーの新たな連携を目指して、この「場」の提案が、一層求められていくように思われます。
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