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アイバンホーは作品中の3/4は寝ていた

約半世紀ぶりに読んだアイバンホー物語。
言わずと知れたウォルター=スコットの名作である。
読んだことがあるという人も多いことだろう。
私も小学生のころ、夢中になって読んだことがあった。
子どもたちが大きくなってから、「おもしろいから読んでみなさい」と言ったらしい。(子育て中は忙しくて、私は覚えていない)
最近、娘が言うには「お母さんが面白かったと勧めるから子どもの頃に読んだけど、主人公のアイバンホーは、ほとんど寝ていたよ」とのこと。
えっ、そんなストーリーだったっけ……。
読み直してみたら、確かにアイバンホーはずっと寝ていた。
いや、ケガで床に臥せっていたという方が正しい。

アイバンホーが活躍するのは、物語の最初の武芸試合までと終わりのレベッカを助けるために戦うところ。主人公なのに、はて、これでいいのか。

アイバンホー物語は1820年に発表された、十二世紀のイギリスを舞台とした長編小説である。
リチャード獅子心王と忠実な臣下アイバンホー。
兄リチャードの王位を狙う弟のジョン。
サクソン王家の再興を願うセドリックは、アイバンホーの父。
サクソンの王女ロウィーナとユダヤ商人の娘レベッカというふたりの美女を巡る、血湧き肉躍る、愛と冒険の物語。
それが約200年前に書かれた小説であることに驚いた。

この小説の主人公のアイバンホーは武芸試合で深手を負い、床に伏してしまう。その間に、まわりの登場人物たちが物語を進めていくのだが、その人物たちそれぞれの書き分けがうまい。また、現代と時代背景が異なるので、建物、町、服装、考え方の違いなど、知識のない読者にも設定がわかるように丁寧に細かく描写されている。
通常の小説は主人公を中心に読み進めるものなのだろうが、この小説は主人公がほとんど臥せっているので、それは難しい。
だが、その場面ごとに感情移入できる人物はいる。
騎士道を尊び、勧善懲悪が元となっているので、どの登場人物も模範的なところが多いが、その中で気になったのが聖堂の騎士、ブリアン=ド=ボワ=ギルベールだった。子どもの頃なら、「ギルベールは悪い奴」で終わるのだろうが、読み返してみると聖堂の騎士とはいうものの、とても人間臭い。
ユダヤの娘レベッカに許されざる恋をした聖堂の騎士ギルベールは、必死に愛を告白するが受け入れてはもらえない。聖堂騎士団の団長から魔女として裁かれ、死刑を宣告されたレベッカを助けるために、代戦士を立てた試合でレベッカを無罪にしようとする。ギルベールが身分を隠してレベッカの代戦士になって助けるつもりが、聖堂騎士団側の騎士とされてしまう。レベッカの立てた代戦士に勝てばレベッカが火あぶりの刑に処せられる。負ければ自分は名誉と、命さえ失うかもしれない。そのはざまで苦しむギルベール。
行くも地獄、退くも地獄とはこのことだろうか。
最後までストーリーは停滞することなく、楽しませてくれた。

結論としては、主人公が臥せっていて物語に登場しなくてもストーリーを進めることはできるということ。
(副主人公たちのキャラクターがしっかりしていれば、そして主人公が不在の必然性があればのことだが)

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