ピンピンころりん子ちゃん 2
母親は髪がぱさぱさしていて薄い。それは年のせいでもあり、性格のせいでもあった。何か困ったとき、母親はいつも家の前であっちへこっちへ、落ち着きのないガチョウのようにきょろきょろしていた。
「よしお、ちょっと聞いておくれよ」と母親はいった。
「お母さん、背中が痛いんだよ。背中がじくじくして痛くてたまんないんだよ。病院に行かせておくれよ」
母親は大きな肩を小さくして、ぼくのことを見ている。そのしぐさが何かを表しているのなら、ぼくはとことんまで、それにつき合う覚悟ができていた。
お母さん、それは大変ですね、そういって、ぼくは母親にお金をわたした。
お金を受け取ると、母親は自分の設定も忘れて、スキップをするように歩きはじめる。きびきびと背筋を正したその姿は、いっちょ前の勝負師然りとしていた。
玄関に入ると、父親が、お帰り、お疲れさま、といって出迎えてくれた。
「よしお、いつもすまないねえ。おれのからだが丈夫だったら、おまえにばかり苦労をかけることはなかったんだけどね。
父さんはいつも考えているんだよ。外へ散歩に行ったりするとね。もし、おれのからだが丈夫だったら、コンビニエンス・ストアで働かせてもらおうとか、交通整理の警備員さんの仕事をしようってね。そうすれば、おまえに苦労をかけることもないだろう。
父さんはほんとうに、自分が情けない。仕事をしておまえに楽をさせてやりたい。だけど、それができないことがわかってるから、ほんとうにつらい。すまないねえ、よしお」
そういって父親は肩を震わせた。
つづく
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