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らいど日記 別府編 (2023.7.28)

「あの年の夏はものすごく暑かったね」というのが思い出になるのか、この夏がスタンダードになってしまうのかはわからないけれど、2023年夏の猛暑の中、私は折坂悠太のライブを見るために大分と山口を訪れた。

音楽業10周年、折坂悠太のギター1本弾き語りツアーは東京、京都のホール以外は、「え、そこどこ?」っていうような、地方の寺、芝居小屋、歴史的建築物、博物館という小さな会場をまわる。
発表されたときは驚くと同時にまったく折坂さんらしい!とすごく納得した。
そしてどうしても行きたい、出来ることなら全会場行ってみたいと思った。
とても悩んで3会場のチケットを申し込み、当選したのが大分と山口の会場だった。
コロナ禍になって、旅らしい旅をまったくしていなかったので、たった一泊ずつの遠征が楽しみすぎて興奮する気持ちに「落ち着け落ち着け」と言い聞かせ、とにかく体調だけは壊さぬようにととても気をつけた。
そうしてやって来た1ヶ所目の大分別府。

会場は別府市のコミュニティセンターで、温泉と芝居小屋が併設された、地元の人たちが日常的に湯につかりにくるような施設。
猛暑もなんとか少しはやわらいだ夕暮れ時の芝居小屋に次々と集まってくる人々は、まるで地元のお祭りに来ているような雰囲気。靴を脱いで芝居小屋に上がり、きれいに並べられた座布団の席を各々選んで座る。なんだかすべてが懐かしくて。子どもの頃の夏休みのお泊まり会なんかを思い出したりして、ライブ前だというのにとてもリラックスしている。

いつの間に時間になったのか、特に何の注意事項のアナウンスもないまま客電が落ち、舞台下手から折坂さんがすたすたと裸足で登場した。
それまでくつろいでいたお客さんは、一斉に舞台に集中し、大きな大きな歓迎の拍手を送る。その大きさに少し驚いたような折坂さんは高く腕を上げて客席にこたえ、ライブが始まった。

折坂さんのライブはいつもそうなのだが、1音目から心をぎゅうっと掴んでくる。しかもこの日は、風呂上がりで少し眠いですと言いながら。この人は、ほんとにすごい。
ガットギターの弦の響きの奥深さに耳が鋭敏になっていく。歌う声、文学のような歌詞がじわじわと沁みてくる。音楽に包まれて心のまま身体を揺らす快感よ。

途中、客席で小さな子どもがグズリだした時の私の集中力は、折坂さんの集中力に負けじと頑張った。
温泉街のざわめき、芝居小屋の客席のざわめき、心のざわめきが、ざわざわと混じり合って、懐かしい心象風景とともに昇華されていくようなライブだった。幸せだ。
ここまで来てほんとうによかった。

ライブ後に行われたサイン会では、緊張して真っ白になった頭でほとんど何も喋れなかったけれど、目の前にいるホンモノの折坂さんと目を合わせてお礼を言えたことに胸がいっぱいになる。

帰りのバス待ちをしていると、ライブ会場で少し言葉を交わした女の子二人が、車で来てるので送りましょうか?と声をかけてくれて、やはり胸いっぱいの彼女たちと、この抱えきれない思いを、深夜までファミレスで語り合うことになってしまった。

(おそらく)娘ほどの年であろう二人はとてもナチュラルに折坂愛を語り、それがほんとにかわいくて素敵で、ちょっと泣きそうになる。そんなおばさんの気持ちなど知るはずもない二人とたくさん喋って、仲良くなって、またライブで会いましょうねと約束して別れた。

私の体力と心がフル稼働した、暑くて暑くて暑くて濃い一日だった。
深夜ホテルに帰っても暑さで身体はオーバーヒート寸前、心はキャパオーバー寸前で、すんなり眠れたはずはない(笑)
こんなにいっぱいいっぱいなのだけど、この一週間後には、また山口へと旅立つのだ。


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