言語の散歩 プロローグ

 地球という星に探索にやって来てから、私が最初にぶっかった難問は人間という生物の解明だった。
 彼らは実に不思議で不気味な生き物である。
 どう不思議かと聞かれたら、正直答える術がない。到底、一言で片付けられるような問題じゃないのだ。まあ、だからこそ、彼らは不気味なのだが。
 地球にいると、私はついつい考えてしまう。いやはや、なんであの時、地球を担当しますなんて言ってしまったのだろうかと。実際のところは、宝石のごとく翡翠に輝く星に惹かれてしまったわけだが、いざその内に入ってみれば、そこは実質火薬玉の中だった。
 はあ、やり直したい。
 過去の自分にアンパンマンパンチ(地球で知った。可愛い響きに反してなかなかえげつない)を繰り出していた時だった。
 脳内に、ピコンとメッセージが送られてきた。

 【No. 122 レポート未提出 提出するまで帰省不可】

 さあ、と顔が青ざめていく。
 やばい、このままだと星に帰れなくなる!!
 私は、早急に問題に取りかかることにした。もちろんーー人間という厄介な生物の解明に、だ。
 しかし、そうは言ってもなにから手をつけるべきかーー。
 私は、課題に乗り出す決意をした二秒後にはすでに、モチベと集中力を切らしつつあった。難しすぎる問題には、どうもやる気の持ちようがない。つまりは、集中力も続きようがない。
 ふぅ、と溜め息を吐く。
 お出ましになった日光の応援を受けつつ、雲に横になって私は考えた。
 なぜ、見た目と違って雲の上はふわふわモコモコじゃないのか。全然寝れたもんじゃない。今私を雲布団の上に寝かせてくれているのは、雲でも重力でもなく、空間を浮くように発達した我が筋肉様である。 
 いや、まて。
 違う。今考えるべきはこれじゃない。
 己の間違いを自覚するにつれ、お日様がまるで私を叱咤するかのように熱くなっていった。
 しかたがない。
 私は、力を抜いて雲の中を沈んでいく。そして、ゆっくり、ゆっくりと、地上へと降下していった。


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