僕と2B-7

Chapter 7

ある日、事件が起こった。
暗黙の了解のように、2Bと一緒に研究室に行った時だった。
ドアを開けて研究室に入るのと同時に、ナオミさんが叫ぶのが聞こえた。
「ちょ、ちょっと待て!」
声のする方を見ると、まさに人が研究室の窓から飛び降りたところだった。
う、うそ・・・
ここ3階やで。
「どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたも、泥棒やん!」
「泥棒?」
「研究資料を持ち出しよった。」
「研究資料って、まさか・・。」
「そのまさかや!ナインズのパワースーツの資料や。」
「嘘やろ!」
「はよ追いかけて!」
「私が行く!」
2Bはそういうと、いきなり窓から飛び降りた。
「うわっ!あの子大丈夫か!」
「ナオミさん、移動用のバイク借ります!」
「あぁ、気をつけて!」
大学は田舎に建っているので、やたらに敷地が広い。
農学部も併設されているからなおさらだ。
ドアを飛び出す時、ナオミさんの独り言が聞こえた。
「あの子、パルクールでもやってるんかな。」

1階まで降りて、出入口近くに停めてあるオフロード車にまたがった。
公道を走るわけではないので、純粋なレース仕様車だった。
当然ナンバーも無い。
キック1発で2ストローク特有の甲高いエンジン音を響かせて走り出した。
逃げる男は、隣接する校舎の屋上から屋上へ、ベランダからベランダへ、花壇をひとっ飛びで飛び越え、階段の手摺の上を滑り、まるで忍者のようにものすごいスピードで逃げる。
2Bはそんな男を、男をはるかに上回るスピードで追いかける。
飛び降りたり、ジャンプしたり、バク転したりするたびに、スカートがめくれ上がってハイレグのレオタードが丸見えになる。
男の顔に焦りと驚愕の表情が浮かぶ。
怒涛の追跡劇は、10数分で終焉を迎えた。
僕がバイクで追いつくと、大の字にひっくり返った男のそばで、2Bが息ひとつ切らせず腕を組んで立っていた。
間もなく、ナオミさんが自転車で来た。
「おまえ、パルクール同好会のヤツだな。」
男が息も絶え絶えに言う。
「こ・・こいつ・・何者なんや・・俺が・・全力で・・振り切られへんなんて・・そんなブーツやのに・・おまけに目隠しまで・・。」
この逃走追走劇は、朝にも関わらず、多くのギャラリーが集まって来た。
遅れて教授や先生などの大学の関係者も集まって来たので、捕まえた男を引き渡した。

後日、聞いたところによると、男はやっぱりウチの学生で、ロボット工学ではライバル校の連中から誘いがあって、バイト感覚でやったらしい。
まぁ、資料が流出しなかったのは良かった。
しかし2Bの運動能力はすごい。
ゲームでは操作で見られるけど、実際に生で見ると迫力が全然違う。
着地音と風切り音が聞こえてきそうだった。
後で聞いたことだけど、屋上の何ヶ所かでひび割れが見つかったらしい。
148キロがピンヒールのブーツで飛び降りたらそうなるよね。

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