【小説】神洲ストーム・スパイダース②

 大きな灰色の第一鳥居の下でカキモトの使いの三人組は待ちぼうけを食わされていた。彼らは各々のバイクを魚鱗の陣形に並べて、退屈そうにしている。鳥居の左右の並木の下からは、時々小さな赤色巨星かと思われる光が蛍のそれのようにかわるがわる点滅したが、これは雨宿りをしている突撃隊員の煙草の火だ。彼らも所在なさげに佇んでいる。誰一人三人にイチャモンをつけようともしない。実は雨もだいぶこぶりになっていたのだが、彼らはただ薄気味悪そうなまなざしで彼らを睨んでいるだけである。実力に無頓着な思い上がりも、規律によって塗り固められた組織の美的な強固さもどっちもないのだな、という感想を先頭でスルメを食べている色白の大男はいだいていた。
 この男、身長は一八五もあって、目は切れ長で吊り上がり、口や鼻もめくれあがっているみたいに上向きについていた。その形相は鬼のようであったが色は白く、体躯もどちらかと言うとほっそりとしていて毒針のような鋭さがあった。制帽の目庇から覗く目はとるに足らない監視役たちには向いていない。並木の奥、タツタが現れるであろう方向にじっと据えられていた。
 ラサがタツタとアカザワを連れてやってきたのは三人が到着してすでに四十分あまり経過した後だった。監視を兼ねた護衛を二人連れていくという条件で、彼女はタツタが旧市街へ降るのを許したのである。
 「いいよ。カキモトもだいたいそんなとこだろうと言ってた。」と例の大男はそっけなく言い、ラサの提示した条件を受けた。しかし、その語調はどことなく見下した感じがある。ラサは彼を上目遣いに睨んだ。
 「で、タツタってのはどいつなんだ?」
 「俺だよ、俺。」タツタは自分を指さしながら前に進み出る。大男は口をへの字に曲げて彼をしげしげと見やった。
 「お前のことは覚えてるよ。忘れられる顔じゃねぇもん。名前は分からないけど。」
 「ニイヤマだ。ムカデ組の特攻隊長、社稷防衛隊の第三部隊隊長。カキモトの親衛隊長ってとこだな。」
 「へぇ、元気にしてんの、彼?」
 「ああ。」とだけニイヤマは答えたが、タツタが旧友の近況を訪ねるような口の利き方をするのが不思議だという様子である。屋根裏部屋の人形が突然しゃべりだすという話の筋書きに初めて接したというのだから、無理もないだろう。
 「とっとと行っちまおう。詳しい話はそれからだ。」
 彼は自分のバイクに跨ってゴーグルをはめる。
 「あ、ちょっと待った。俺、さっき腰を痛くしちゃってよぉ、運転手ってことでこいつも連れていきたいんだけど。」タツタはアカザワを指さした。
 「三人も四人も変わらねぇ。名前は?」
 「どーも、アカザワです。」
 アカザワはバイクを足で前に進ませてニイヤマに近づいた。彼の登場はニイヤマにとって安心材料だったと見える。
 「なんだよ、てめーら二人ともなんだかそっくりだな!」と口の端で笑った。
 ラサはタツタに念を押す。
 「監視役のカワチとキムラにはあんたとカキモトの話したことを証言してもらうから。あたしたちに隠し立てはしないように。あと、なにかウチの校に要求があった場合にも絶対にその場で解答しないで。あなた個人のことであってもよ。」
 一行はニイヤマを先頭に中央参道を南へと下って行く。雨はすっかりやんでいた。

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