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【読書感想】崩れゆく絆

最近読んだ本でも書いてみようと思う。
チヌア アチェべ『崩れゆく絆』。

あらすじ

古くからの呪術や慣習が根づく大地で、黙々と畑を耕し、獰猛に戦い、一代で名声と財産を築いた男オコンクウォ。しかし彼の誇りと、村の人々の生活を蝕み始めたのは、凶作でも戦争でもなく、新しい宗教の形で忍び寄る欧州の植民地支配だった。「アフリカ文学の父」の最高傑作。

19世紀後半のナイジェリアで起きた植民地支配を描いたフィクション作品。
作者のアチェべ自身、ナイジェリアの植民地支配後の1930年に生まれており、この作品によって「アフリカ文学の父」と呼ばれるようになった彼にとっての代表作らしい。

読んだ感想としては、比較的読みやすかったし、かなり夢中になって読めるほど楽しかったという印象。
読みやすさの面では光文社古典新書シリーズのシリーズを通しての読みやすさにこだわった企業努力のおかげだとは思っている。

読む前の予想としては、なんとなくアフリカで のどかに暮らしている主人公がある日突然イギリスの植民地政策で一族全員酷い目にあうような悲惨な歴史を全面に出して描いた作品なんだろうなと思っていた。

けど、いざ読み進めていくと、けっこう主人公のオコンクウォという人物の心理描写や葛藤みたいなところが主軸で描かれていて、単に悲惨な歴史を描いているというよりかは、オコンクウォという人物が自分の信念を持って愚直に進んで行こうとするんだけど、環境や社会、そして植民地支配という歴史的な流れに抗えずに沈んでいく姿を描いた作品というのが読み終わってすぐの印象だった。

実際に本のページの割合で見ても、約300ページあるうちの210ページくらいまでは植民地支配の兆候は全然なくて、最後の90ページくらいで一気に話が展開していくので、メインはあくまでも外の世界からある種隔絶された社会の中で生まれた1人の男の悲劇というのがしっくりくる。

オコンクウォは仕事もろくにせずに酒ばかり飲んでいたろくでもない父の元に生まれたことをずっと引け目に感じていて、父という存在を自分の中から消すために、常に野心的に働き、そこで築き上げた地位や名誉を誇りとして過ごしていく。
しかし、様々な出来事が彼の野望を妨げることとなり、気づいた時には自分が築いてきたものが価値を無くし、時代に飲み込まれていくというのが、最終的なこの本の読んでみての印象だ。

オコンクウォの人間としての魅力や、かつてのアフリカ社会の様子を興味深く知ることができ、面白い体験ができたし、植民地支配の過程が、かつての日本に対するものと同じで、まずは宗教家が先人をきってその地域の支持者層を広げたうえで徐々に侵略を進めていく流れはゾクっとする怖さを覚える内容だった。
アフリカの植民地支配の歴史における被支配者であるアフリカ側からの視点を知りたくて本書を手に取ったが、そういった意味では大正解の1冊だった。

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