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【読書メモ】公民連携エージェント 入江智子著



公民連携で一体何をしたのか?


古い公営住宅エリアを賃貸住宅、オフィス、北欧の暮らしをテーマにした商業施設、都市公園に作り替え、子育て中の市民が集まる場所となった。
また、公営住宅の住民の間ではジェネラティビディ、次世代に役に立ちたいという意識変化が生まれた。
3セクであるコーミンが事業主体としてまちづくり会社となり一連の事業を実施した。

公民連携エージェントとはなにか?


行政は官僚制度の中で継続性や、安定性には優れるが、変化が起こりにくい、ルール自体の目的化といった官僚制の逆機能と呼ばれる問題を内包している。
官僚制度に捉われず、行政の課題解決と民間の営利事業を掛け算で取り組んでいくには、機動的に動ける官民の仲介役が必要になるため、その役割を果たすのが公民連携エージェント。 
公民双方に無理のない投資ストーリーを作ることが役割。

民間が公民連携に取り組む必要性は何か?


行政が持っている体育館、図書館、公園等人が集まる箱を活用できること。

公民連携事業のテーマ選びでは、どのようなことに気をつければよいのか?
①人口減少時代、高齢者の数は頭打ちになること、に即した内容であること
②継続性があること→市民を主体に、定期開催など
③自治体ではなく、価値観や経済圏で対象エリアを捉える

公営住宅を事業の対象にした理由は何か?


老朽化が進む公営住宅の建替えは、従来型のやり方だと、国の補助金を活用し、複数棟を集約するため鉄筋コンクリート造で高層建になり、費用も何十億も必要になり補助金はあるとはいえ自治体の負担は大きくなる。一方でこうした大きな箱物が作られても地域の活性化にはつながらないため、行政の枠内で建て替えを行うのではなく、3セクのまちづくり会社が民間プロジェクトとして商業施設の開発を行うことを決めた。
また、このような老朽化した公営住宅は全国に200万戸ある中で、今後どの自治体も向き合わざるをえず、その先例になると考えた。

公民連携を行うときに気をつけることは何か?


対象の敷地の魅力ではなく、エリアの魅力を上げることにコミットする。

公民連携では何を目的に設定したのか?


エリアの価値の向上。定量的には周辺地価と家賃の上昇で、定性的にはエリア内の事業が増え、暮らしに憧れて移住する人の期待値が上がること。

著者はオガール紫波に出向して何を学んだのか?


仕事は納期→予算→品質の順に進める
テナント先付け逆算開発
敷地主義を避けてエリアの価値向上を目標に定めるための組織、デザイン会議の重要性

どのように資金を調達し、何に投資をしたのか?


総投資額16億円のうち、10億円を無担保無保証のプロジェクトファイナンスを仕立てた。代わりに市営住宅の賃貸収入に債権譲渡担保契約を設定しSPCの預金通帳を銀行に預けた。6億円は優先株とし、4億円はコールオプション付で融資返済後に買い戻す予定。
テナントとは10年以上の定期借家契約を結ぶ。
収入の確からしさが重要
初回投資の減価償却が完了したタイミングで定期改修や更新投資を行い減価償却費を計上することで節税が可能
土地の賃借料は値切れるだけ値切る
レンタブル比率を上げる
コストが嵩む高層化は避ける
ランドスケープのための共有空間は重視する
事業リスクに備えてメザニンとエクイティをできるだけ分厚くする
取引銀行はエリアの価値向上にコミットする地域金融機関が良い

PFIではダメなのか?


PFIだと人気のないエリアの場合、民間事業者がリスクをとれないため自治体によるサービス購入の割合を高めざるを得ない。こうなるとただの公共工事の割賦販売になってしまう。

どのようにチームアップしたのか?


民間と上手く連携することが重要。理由は、
①自治体職員に稼ぐ力はないので、民間と上手く連携することが事業の収益性を確保するために求められる。
②公共インフラの更新に際して財政的に耐えられない自治体が多い中、公共インフラを通じて行政サービスは、民間と連携して必要なものをよりコストを削減しつつ質の高いサービスに転換しなければジリ貧になる。

具体的にどのような成果が出たのか?


周辺地価が前年度比125%増となり、収益を産まなかった市有地から土地の賃料収入、固定資産税、法人税が入るようになった。

自治体に求められていることはなにか?


自治体が求められていることは公共サービスの質を高めつつ、経費削減と税収増をセットで考え相互に作用させること。
公共サービスは市民全体の利益や幸福につながるものを指しており、ご近所の助け合いから行政サービスまで包含する。

マルシェイベント、ズンチャッチャ夜市もやっているが、何がポイントなのか?


人と人との関係性や五感で味わえる豊かさがあるまち、以下の官能都市の要件を満たすイベント。
①共同体への帰属
②匿名性
③ロマンスがある
④機会がある
⑤食文化がある
⑥まちを感じられる
⑦自然を感じられる
⑧まちを歩ける
毎月開催し、出展者が中止に際した負担感を軽減。
都心から電車で15分と、仕事帰りに一杯ひっかけたくなる余力のある住民がターゲット。
出店者には立体的なディスプレイ、器の工夫等、費用をかけても価格に上乗せさせてまで、プロダクトに拘らせる。価格を引き下げさせない。
統一感のためにテント、パラソルや照明は主催者が用意。色は夕暮れの街を感じさせるオレンジ、紺、エンジで統一。
エリアは立ち飲みと子連れ用の座敷の2種類のみ。椅子はアメーバのような人のつながりを促すために、あえて置かない。

高齢者の健康支援も行っているようだが、どのような必要性があって、何をやっているのか?


2000年に介護保険制度が整備され、市場が急拡大する中で営利目的で不必要な介護サービスを提供する事業者が増え、介護給付費が増加。また高齢化が進む中で介護人材も不足が予測されるところ。
これを受けて、介護予防の強化策として、理学療法士のロジックの裏付けがある体操、大東元気出まっせ体操を普及。1時間ほどかかるやや強度の高い体操。市内130グループ以上が週一で実施している。自治体は個別には関与せず、全て市民による取り組み。
また、培った住民発で取り組ませるノウハウを他の自治体にも展開するべく、地域健康プロフェッショナルスクールを開催。
また、コーミンは地域包括支援センターも受託。介護サービスの利用者の自立につながる事業者のサービスやプロダクトを開発しリリースしている。
高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを最後まで続ける、そのために住まいだけでなく、まちとして高齢者の居場所が作れるまちづくりを目指している。
一方で、高齢者は消費者でもあるため、健康であればまちの市場を支える重要な主体でもある。つまり、まちづくりと健康づくりは両輪といえる

他の地域に展開する時に気をつけることは?


地方の勝ち筋は大量生産安売り路線ではなく、希少性追求高付加価値路線。
都市経営課題のソリューションに必要なことは、自ら事業を起こし、マネタイズして、全ての事業が黒字でその額が少しずつ増えていくこと。
自治体からの安易な指定管理事業の受託を行うと、自治体の意向を忖度しイノベーションの起きずらい組織になるので避けるべき。

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