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【DTM】膀胱結石切開手術図

麻酔なしの開腹手術、想像できますか?

膀胱結石切開手術図は、フランスの作曲家マラン・マレの音楽作品です。
マラン・マレ(1656-1728))が64歳の時、といいますから1720年頃に受けた膀胱結石手術の様子を描写した曲、と言われています。

結石ができる場所は違いますが、尿路結石なら、私も何度か経験あります。
結石はどうにも痛くてかなわない。
一度は夜間でしたので救急病院に駆け込んだのですが、お尻をぺんぺんしてもらったらスッと治りました。
でも、普通はそんなに簡単に治ったりしませんから、体の外から衝撃波で砕石して治療します。

この病気は、昔からあったはず。
衝撃波の砕石どころか、手術すらなかった時代、あの苦しい痛みは我慢するしかなかったのか。
そう思っていましたら、ヨーロッパでは古くから切開手術が行われていたようです。

見出し画像は、18世紀初め頃の手術の様子を描いたもの。出典はこちら。

執刀医と4人のアシスタントが見えます。
アシスタントが、なぜ4人も必要だったのか?

当時は、まだ麻酔がなかったんですね。
患者の手足は、細ひもで縛られていますので、たぶん・・・。

この曲には、そのおよそ100年後にベートーヴェンが好んで使った運命の動機、ダダダ・ダーンのリズムが使われています。下の楽譜はヴィオラ・ダ・ガンバのパート譜ですが、その一段目第2~第3小節にかけてと、4段目から5段目にかけて、合わせて3回登場しています。

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ということで、作曲者マラン・マレの運命やいかに?

・・・と盛り上げたところで、私の作りましたアレンジをお聴き下さい。

このアレンジは、原作のヴィオラ・ダ・ガンバのパートに、勝手にチェンバロの伴奏を付けたものです。
伴奏の方が、ガンバより目立ってしまった感もありますが・・・。

マラン・マレは、手術の様子を楽譜にフランス語で書き込んでいます。
動画には、そのタイミングに合わせて、私が意訳したテロップを入れました。

以下は、マラン・マレが記したフランス語の原文と、その直訳(Google翻訳)、及び私が意訳したもの(括弧内)です。

L'aspect de l'appareil
手術台の外観(これが手術の様子か・・・
Frémissement en le voyant
その光景に震える(怖い・・・
Résolutions pour y monter
取り付け時の決定(次は俺の番だ。手術台に上ろう
Parvenu jusqu'en haut
登る(上がっては見たが・・・
Descente du dit appareil
登りと外し(止めだ。降りよう
Réflectionssérieuses
真剣な考え(いや、やはり上がらなくては・・・
Entrelassement des soyes entre les bas et les [jambes]
腕と脚のシルク拘束を結ぶ(手足が絹糸で固定される
Icy se fait l’incision
ここで切開が行われます(いよいよ切開が始まる・・・
Icy se fait l'introduction de la tenette
鉗子の紹介(鉗子入りまーす♪
Icy l’on tire la pierre
それから石が引かれます(石が取れました♪
Icy l'on perd quasi la voix
声は震えます(声が震える・・・
Ecoulement du Sang
血流(出血してる・・・
Icy l'oste les soyes
その後、シルクは結び付けられていません(絹糸が外されて・・・
Icy l’on vous transporte dans le lit
それからあなたは寝る(ベッドに移される

全身麻酔をされていないから、手術の間、ずっと意識がある。
相当に痛い思いをしたと思いますが、そのあたりは文章よりも、音楽がより多く語っているように思います。


ということで、手術も無事成功して、マラン・マレは82歳の長寿を全うしました。
当時、このような切開手術の成功率は、それほど高くなかったそうです。
抗生物質が発見されるのは、それから200年以上も先の、20世紀に入ってから。
術後の感染症で亡くなる人も、多かったのだと思います。

この作品を調べようとして、いろいろ検索していましたら、医療人間学(Medical Humanities)という学問分野の学術雑誌 A Journal of Medical Humanitiesに、楽譜付きで紹介されていました。
上で出したヴィオラ・ダ・ガンバの楽譜は、このサイトからの引用です。

Medical Humanitiesという言葉には、まだ正式な訳語がないようです。上で医療人間学と書きましたが、医療人文学と呼ばれることもあるそうです。

この分野は、医療関係者に人間の大切さを教えるための学問だそうですが、
医療関係者ではない私には、具体的に何をどう教えようという学問なのか、まだよくわかっていません。^^; (了)

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