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パロディ「いろはにこんぺいとう」

わらべうた「いろはにこんぺいとう」のクラシックアレンジを作りました。

この歌は、以前にnoteで紹介していますが、今回歌詞付きの動画を作りましたので、よろしければこちらのYouTubeでご笑聴ください。^^

以下は、アレンジの解説です。

まず最初に、これはパロディです。
パロディとは、転用とか流用する行為または作品を指します。
流用というと聞こえは悪いのですが、このアレンジでは著作権上の問題はありません。

パロディは通常ユーモアで茶化したものを指す言葉ですが、音楽史的にはまじめな作品を指す言葉としても使われます。例えば私も大好きな曲ですが、バッハの畢生の大作ミサ曲ロ短調は27曲から構成されていまして、そのうち、はっきり新作と確認されるものは8曲に過ぎず、それ以外は自作品の転用・流用、つまりパロディと言われています。なので、バッハをパロディの大家という人もいるくらいです。ただ、パロディというと誤解を伴うので、私は転用名人といいたいです。

さて、私が今回流用したものは、そのバッハの作品です。平均律クラヴィア曲集の先頭にある有名なプレリュードを流用しました。このプレリュードは、コードを分散和音にした伴奏のような音型だけで曲のほとんどの部分が構成されています。見出し画像はその冒頭部分です。

この曲では、このような分散和音の音型が32小節に渡って続きます。そして最後の3小節だけ異なる音型になっています。

ですから、その上に何か鼻歌メロディをおっ被せたくなっても、全くおかしくない。

実際、そうした作例があります。
グノーの「アヴェ・マリア」が特に有名です。
私もその先例をまねて「いろはにこんぺいとう」の歌を被せてみました。

それにしても、なぜ「いろはにこんぺいとう」なのか。

アヴェ・マリアと似ているのは、てっぺんが光るところくらいですが。^^

というか、実は話の順序は反対でして、「いろはにこんぺいとう」のアレンジをしようとして、バッハのプレリュードに乗っけてみようと思ったんです。

グノーの先例と申しましたが、私とグノーには大きな違いがあります。

それは曲作りの自由度の違いです。

それについて述べる前に、グノーのアヴェ・マリアがどういう経緯で作られたのか、お話したいと思います。フランスの作曲家グノーが、おそらく何かの余興かと思いますが、バッハのプレリュードをピアノで弾きながら、即興的にメロディを付けたのだそうです。それを聴いていたツィメルマンという人が、アレンジを思い立って器楽曲として完成させました。ツィメルマンは後に、ラテン語の聖句「アヴェ・マリア」を歌詞に用いてリメイクして出版したのですが、それが大当たり。後世に、グノーのアヴェ・マリアとして知られるに至ったということのようです。

グノーは、伴奏音型の上にメロディを付ければ良かっただけですから、たぶん作りやすかったと思います。ところが「いろはにこんぺいとう」はわらべ唄です。つまり、すでにメロディがあるので、単に乗っけるだけではバッハのプレリュードにうまく絡められない。おまけに時間的にも曲にぴったり収まるように絡めないといけません。

「いろはにこんぺいとう」を乗っけるのは、アヴェ・マリアと比べるとけっこう難しそうな課題と思いました。

ところが、やってみますと、このわらべ唄はバッハのプレリュードに結構合うんですね。

たぶんわらべ唄が五音音階でできていて、音の動きも少ないせいではないかと思います。あるメロディを、既成の曲と重ねる場合、うまくいかない理由は和声的な不整合が生じるからです。不協和音と言いまして、それが面白い効果を生むこともありますが、半音の重なり合いで生じる不協和音の連続進行の中には、もう勘弁してくれと言いたくなるものも多い。ところが五音音階は、半音を生じる元になるシとファがありませんから、不協和音が生成したとしても、それほど不快な響きにならない場合が多い。しかも音の動きが少なければ、そのような和声的な不整合が生ずる機会も少なくなります。いい響きとは言えないまでも、不快な響きにはなりにくいといえます。そのため、歌い始めの位置を動かしても、それなりに音が合うので、曲の最後で歌い終わるように歌の開始位置を決めことができました。

とはいっても、バッハのプレリュードは転調してバスが半音階的に進行するところもありますから、そこではメロディと半音の音程で音がぶつかることで不快な響きが生じます。

で、実を言いますと響きの美しさを優先しまして、歌のメロディをかなり変えました。ただ、上がったり下がったりというメロディの形はほとんど残しています。歌詞のイントネーションを大きく変えるわけにはいきませんので。

形が出来ましてから、最後にヴァイオリンを使って通しでお飾りの鼻歌メロを入れました。グノーのアヴェ・マリアを意識して優雅なヴァイオリンになりましたが、そっちに気を取られて歌メロを変えたのが目立たないようにという陽動作戦でした。^^

出来上がってみますと、優雅さにちょこっとユーモアが配合されたようなわらべ唄になったのではないか、と思っております。

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