AtCoderみたいな指標をbeatmania IIDXでも考えてみたい話

先日TLで、「AtCoderの色と弐寺のクリア力はどう対応するのか」といったツイートを見かけました。

AtCoderも弐寺もやっている方の多くは、似たようなことを考えたことがあるのではないでしょうか。実際に僕も気になって、調べてみた結果がこちらです。

仮にこの予想が正しいとすると、AtCoderには青→黄→橙→赤と区別があるのに対して、弐寺には皆伝→全白しか指標がないことになります。

また、AtCoderのレーティングに対して、弐寺のクリアランプは定量的な比較がしにくく、たとえば未難10と未難5のプレイヤーの実力差が未難5と未難0=全白の差と同じとは考えづらいです。さらにAtCoderのレートと色の関係とは異なり、未難がいくつになったら皆伝が取れるという基準も明確ではありません。

ということで今回の記事では、☆12をプレイする弐寺erの実力指標について考えてみたいと思います。

実力指標の候補

スコアの指標として有名なBPIは、皆伝平均と歴代全一を基に単曲ごとのBPIを算出し、二乗平均の応用によって総合的なスコア力を-15~100までの数値で表しています。
 大変素晴らしい仕組みですが、量的データであるスコアと同じ手法を、そのまま質的データであるクリアランプに応用することはできません。加えて、「クリアランプの皆伝平均」も公式から提供されていません。

BMSの方で有名なクリア力の指標として、いわゆるリコメンドがあります。これはインターネットランキングのデータを基に、項目反応理論(IRT)を応用して難易度推定・実力推定を行っています。
 こちらも大変素晴らしい仕組みですが、フルコンボ難易度が高めに推定されることと、それに伴ってフルコンボが相対的に得意なプレイヤーの実力が高めに推定されることが知られています。また、計算量もなかなか大きいです。

他にも因子分析や主成分分析など、統計的な解析方法はたくさんありますが、(専門的すぎて僕が理解できないのも相まって)解釈が難しかったり仕組みが大仰すぎたりします。
 ということで、僕は以前(C96)こちら↓↓↓の同人誌『AA(A)AAAの金色提言』にて難易度推定の文章を書かせて頂きました。

ここでは、イロレーティング(後述します)を用いた譜面難易度推定を行い、計算量を抑えた上で、既存の難易度表やIRTによる計算と遜色ない推定が行えることを示しています。

今回はこのレーティング方法を基に、よりプレイヤーの実力推定という目的に沿った指標を考えていきたいと思います。

イロレーティング

対戦型の競技で使用される相対指標で、いわゆるレーティングと言えばこれを思い浮かべる人が多いでしょう。勝敗の比を対数に変換することによって、レートの差と勝率がどのレート帯でも一定の関係を持つように作られています。今回はこれを応用します。

弐寺においてクリア力で対戦を行うモードは存在しないので(そういうアリーナを実装してほしい)、プレイヤーごとの擬似的な対戦を考えます。木野(Twitter:@capue)さんのご協力のもと、前述の同人誌と同じくIIDX 25 CANNON BALLERSのデータ(十段~皆伝の☆12全量データ)を使用し、IIDX 25時点で十段~皆伝を取得していた全プレイヤー同士の、☆12クリアランプ勝敗数を算出しました。

それを十段~皆伝の人数で割って、勝率に換算したグラフがこちらです。

画像2

赤い線は段位ごとの勝率の中央値を表しており、段位が上がるほど勝率が上がっていくことが確かめられます。特に十段で顕著な勝率50%にあるピークは、☆12全曲未プレイ=0勝0敗0引分のプレイヤー群を表しています。

これをイロレーティングに変換したものがこちらです。対数変換によって見かけが変わっていますが、中身のデータは全く同じです。

画像2

レートの中央値は、十段で1292、中伝で1483、皆伝で1775となりました。

さらにここから、全白に相当するレートを求めてみたいと思います。試しにIIDX25終了時点の☆12全293譜面を全てハードしているプレイヤーを抽出してみると、レートの中央値は2181となりました(最低1653、第三四分位数2071)。皆伝との差は406となり、皆伝と中伝との差292よりも開いていることがわかります。

しかし実際には、全白相当の実力があっても、全ての譜面にハードランプを点けている訳ではないプレイヤーはかなりいるはずです。そこで、算出したレートをもとに、譜面ごとの難易度を推定することで、「全白相当レート」について考えてみようと思います。

ロジスティック回帰分析による譜面難易度推定

大雑把に言うと、ロジスティック回帰は0か1かしか無い事柄を予測するために使われます。たとえば模試の点数から本番の試験の合否確率を予測するような場合が想像しやすいかもしれません。

先ほど求めたプレイヤーごとのレートと各譜面のクリアランプを対応させ、ロジスティック回帰分析を行うことによって、各譜面の各クリアランプについて「クリア確率が50%になるようなレート」を求めることができるはずです。
そのようにして求めた、推定ハード難易度トップ10がこちらです。

画像3

多くの人の感覚から大きくズレてはいないと思われます。推定されたICARUS†のハード難易度と前述の全白レートの中央値がかなり近いことがわかります。

同様の方法で、未難・未EXHに対応するレートや、皆伝・中伝の合格率が50%になるようなレートを推定することができます。レートの大まかな目安を表にするとこのようになります(表中の情報はIIDX25時点のものであることに注意してください)。

画像4

この表とイロレーティングの定義を踏まえると、☆12クリアランプの勝敗を比べたときに、(平均的には)十段が中伝に勝つ確率は約24%、中伝が皆伝に勝つ確率は約15%、皆伝が全白に勝つ確率は約9%ということになります。
 (繰り返しになりますが、レーティングは勝敗比に基づいており、上達までにかかる時間・労力や、人数分布と直接の比較はできません。)

まとめ

☆12に挑戦するプレイヤーのクリア力を、イロレーティングを応用することで、既存の段位認定より細かく・より広範囲にわたって表すことができた(かもしれない)

余談・宣伝

(余談1)冒頭のツイートで僕は中伝が水、皆伝が青、全白が赤などと言っておりますが、あれは人数分布のみを比較したものです。また、AtCoderのレーティングはイロレーティングとは全く異なったものとなっているらしく、今回の結果から単純に比較することはできません。

(余談2・宣伝)今回の検証では、対象とするクリアランプからASSISTED EASY(いわゆるアシスト)を除いています。難易度と比べて使用率が極めて低いこと(FULL COMBOの半分以下)がその理由です。
 しかし、アシストほど顕著ではないにせよ、全てのクリアランプが等価であると前提するのは疑問があります。人によって全くイージーを使わない主義だったり、フルコンを積極的に狙うプレイスタイルだったりすることは珍しくありません。
 そこで、一部のクリアランプについて、使用率の高いプレイヤーとそうでないプレイヤーを群に分けることで、より実感に近い難易度推定を行う手法を考えることができそうです。

前述の同人誌『AA(A)AAAの金色提言』↓↓↓では、そのようなアイデアについても詳しく検証を行っています。今回とは逆に譜面からプレイヤー実力の推定を行うための、一風変わったレーティングを試しているので、本記事に興味を持って頂けた方にはぜひぜひオススメです。

サークル AA(A)AAA では、他にも様々なIIDX情報本を頒布しています。最後にメンバーが発信している音ゲー記事をご紹介して終わりたいと思います。

本記事についてのご意見・ご感想はTwitter:@rice_Placeまでお寄せください。

それでは、良き音ゲーライフを。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?