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読書メモ『くらやみガールズトーク』

『くらやみガールズトーク』著者:朱野帰子


女性たちの本音満載!ちょいホラーな短編集です。
恋愛、結婚、出産、育児、子離れ・・・幸せだけど、幸せなことばかりじゃない。
何となく感じてはいるけれど、口には出さない。
女性の人生の仄暗さを感じられるお話たちです。

人生の中で女性は何度も「死」を迎えます。
実際に死ぬわけではなく、過去の自分が一度死んで、違う自分に生まれ変わるという意味での「死」です。

そうして何度も死んでは生まれ変わりながら、強くしなやかに生き抜いていく。そんな女性たちを描いているんだと思います。

以下、全8話の中で、印象に残った4話についての感想です。

『花嫁衣裳』

結婚して苗字が変わることで「旧姓の自分」が消えていく感覚にモヤモヤする主人公のお話です。

自分は何も変わらないのに、「旧姓の自分」はもうどこにもいないように扱われる。この違和感というか、何で私(妻)だけ?という不公平感・・・!
めちゃくちゃ共感してしまいました。

これから何度死ねば、私もあんな風に強く美しくなれるのだろう。

朱野帰子「くらやみガールズトーク」,㈱KADOKAWA,2019年3月1日,70頁

それにしても、主人公の夫と、彼の親族の無神経さにイライラさせられます。
今どき、男の子を産めとか、苗字を途絶えさせるなとか、言われるなんて、ある意味ホラーです。

『ガールズトーク』

どんな女性たちが繰り広げるガールズトークなのかな?
と思っていたら、まさかの「こけし」でした!

こけしコレクターの部屋で「彼女」たちが、秘密のおしゃべりを繰り広げます。
きっと可愛らしい声なのでしょうが、内容が少々物騒です。
何かを察したコレクターは「彼女」たちを手放してしまいます。
しかし数年経つと、また集めはじめてしまう。

今回はじめて知ったのですが、こけしは地域によって十一系統あるそうです。全部同じだと思っていました。
顔の表情や着物の柄がそれぞれ違うらしく、だんだん「こけし」に興味が湧いてきました。
これが彼女たちの魅力なのか・・・。

『獣の夜』

妊娠した瞬間から、女性は別の生き物になってしまうのか。
たとえばそれは獣のような・・・。

子供を産むというのは、きっと人間をやめることなのだと、月の光が射しこむ台所でぬるい麦茶を飲みながら考えた。

朱野帰子「くらやみガールズトーク」,㈱KADOKAWA,2019年3月1日,117頁

子供を守り育てることと、自身の身体を維持することだけに集中する。
でないと子育てなんて無理でしょう。
「眠れないことには慣れている、むしろ、たいしたことではない」
世の母親たち本当にすごいと思わせられます。

『子育て幽霊』

さらに「母親」ってすごい、と思わせられるお話です。

主人公は「幽霊画展」を見に、上野の美術館を訪れる。
そこで見た「赤ん坊を抱いた女性の幽霊の絵」を見て、自身の母親を重ねてしまう。

死ぬ思いをして子供を産んだ母は、その時、本当は死んだのではないか。
死してもなお、子を育てるために、周囲にバレないように必死に人間のフリをしていただけではないか。

その子供がついに独り立ちし、母の手が必要なくなっていくとともに、人間のかたちを保てなくなっているのではないか・・・。

老いて認知症の症状が出始めた母親に対して、こう思います。

お菓子を食べてあげればよかった。もっと優しく話しかけてあげればよかった。ピアノくらい弾いてあげればよかった。
お母さん。ごめんね。
もう、私のために頑張らなくていいんだよ。

朱野帰子「くらやみガールズトーク」,㈱KADOKAWA,2019年3月1日,163頁


この話が一番刺さったというか、読んでいて涙が溢れてきました。
私も母に対してイライラして、結構ひどいこと言ってしまうことがあるので、自分の態度を見直さなければと思いました。
「おさらく時間はそんなには残っていない」のだから。

読み終わって

読み終わってすぐには、女性の人生って暗くて、夢がないなぁ・・・と思ってしまいました。
ホラー要素もあるので「なんだか暗くて怖い話」と感じるのでしょう。

しかし、少しして、違う考えになりました。
変化に順応して、時に過去の自分を「死んだ」と思ってでも、生きていくことができる。そんな強さだってあるんだと思いました。

ちょっとくらい前と変わったって、私は私だ。

朱野帰子「くらやみガールズトーク」,㈱KADOKAWA,2019年3月1日,217頁

たとえ今、くらやみにいたとしても「彼女」たちは自身を変えることで、世界を変えることができるのだ。
そんなふうに勇気づけられるお話でした。


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