二人称の限界 「あなた」と言う人が必ずいる。(小説の作法)
二人称については、どうも、一人称や三人称に比べ、あまり詳しく取り上げられません。
「手紙、文通なんかで作られた作品がそうですねー」くらいで、その次、三人称の説明に移ってしまったりする。
なので、ここで書いているのは、どっかで読んだ、先生から教わったというよりは自分で考えたことです。
(といっても、同じようなことを書いてる人はいるでしょうけど。)
さてさて、二人称。あなた。オマエ。君。なんでもいいけど。「あなた」と言っている人は、「オレ」です。
(これも、「僕」でも「私」でもなんでもいいですが、とにかく誰かがいます。)
というわけで、多くの二人称で書かれた小説も、視点としては「オレ」です。「あなた」と書いてる「オレ」がいる。
■結局は、一人称オレ視点というパターン。
これは、一人称オレ視点で書いたものの、ある人を名前じゃなくて「あなた」と呼んでいるような状態です。
※ただし、現在、目の前に「あなた」がいるのに、心の中で描写しているという状況は妙なので、回想として、過去として語ることが多い。
例をあげましょう。一人称で使ったのと同じ文。
オレは歩いている。信号が赤になる。片側二車線の交差点。横断歩道の向こうの人が手を振っている。友達のハナコだった。え、なんでこんなとこにあいつがいるんだろう、とオレは思った。あいつは、週末は旅行に行くって言ってたのに…。
「ケン! 偶然だね!」
信号が変わると、ハナコが笑いながらオレのほうへ走ってきた。
「ハナコ」を「オマエ」にしてみましょう。
オレは歩いていた。信号が赤になる。片側二車線の交差点。横断歩道の向こうの人が手を振っていた。それがオマエだった。え、なんでこんなとこにオマエがいるんだろう、とオレは思った。オマエは、週末は旅行に行くって言ってたのに…。
「ケン! 偶然だね!」
信号が変わると、オマエは笑いながらオレのほうへ走ってきた。
多少、助詞等を変えないとおかしくなります。オマエに向けて、わざわざ「友達の」って言うのも変ですから、消しました。
でも基本的には変わりませんね、構造は。視点は「オレ」です。ただし、読者に向かってしゃべってんじゃなくて、ハナコに語りかけている感じがする。
でも、ハナコが目の前にいてこれをやったら変ですから、ここにいないハナコに向けて語っている状況でしょう。
これが「オレ」のひとり語りなのか、手紙なのか。日記なのか。わかりませんが、オレ視点であることは変わりません。
■なかには、現在形もある。
なんか不思議な文になりそう。詩みたいというか。ぱっと浮かぶのがこんな感じ。
「私は笑う。あなたがほほ笑む。あなたの瞳が私を見ている。あなたは幸せだと言って私の手を握る。あなたの力は強い。私は愛してるわとあなたに告げる。あなたは次に私を強く抱く。」
なんでしょうね。これだと二人の世界にお邪魔しちゃいましたって感じかな。でも、現在形だけど、「私」の回想にも思えてしまいます。
■一人称オレ視点の「オレ」を「あなた」にしちゃった系。
これは「あなた」使用例を、先に挙げたほうがわかりやすいと思います。
あなたは自宅マンションの部屋で、ソファにゆったりと坐っている。あなたはひとりきり。でも、あなたの横には愛犬のジョンがいる。
あなたはブランデーを飲みながら、お気に入りの音楽を聴いている。
ふと物音がしたので、あなたは窓のほうに目をやる。
物語のなかに「私」は出てきませんね。見ているはずの「私」はなんでしょう。神様か幽霊か超能力者か、隠しカメラをしかけたストーカーか。
見えないはずのものを見ているような感じですね。なんかちょっと不思議、不気味な感じが出ます。
じゃあ、この「あなた」を「オレ」にしてみると。
オレは自宅マンションの部屋で、ソファにゆったりと坐っている。オレはひとりきり。でも、オレの横には愛犬のジョンがいる。
オレはブランデーを飲みながら、お気に入りの音楽を聴いている。
ふと物音がしたので、オレは窓のほうに目をやる。
はい、違和感なし。つまりこの物語の視点はやっぱりオレです。一人称オレ視点を二人称オレ視点に変えただけです。
不気味でもなんでもなくなりましたね。面白いものです。
■まとめ。所詮はオレ視点。
二人称を使わなくてもいいんだけど、あえて使うと、変わった印象を与えることができる。
使いようによっては、生きる。
まあ、でも、「なんでわざわざ二人称にしたわけ?」と言われる可能性はある。
こんなところかなあ。
いや、ここに書かれていない二人称もあるぞ、と思った方はご一報ください。
二人称をうまく使った小説を知ってる方も教えてください。
最近では井上荒野『ほろびぬ姫』が二人称を多用してましたね。あれを普通の三人称にしたら、また印象が変わりそうです。
(1937字:無料 ※空白と改行は除く)
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