再会

その日私は、あの町でできた友達のK子から、大阪に遊びに行きたいといわれて、USJに行った。その帰り、京都駅まで見送った。そのころ、京都からでないと、あの町に行く特急電車が出ていなかったのだ。

京都駅の中の土産物屋の中で、彼女が買い物をするのに付き合っていたときだった。「Nだ!」とK子が突然言った。
K子が見たほうを振り返ると、そこにNがいた。背は高くなっていたし、細い手足はがっしりして、顔つきは大人っぽくなっていたけれど、あのきれいな顔立ちはそのままで、たしかにNだった。

「何でここにおるん!?」
K子は、ずんずんNに近づいて、けっこうな大声で叫んだ。Nはちょっとたじろぎながらも、K子のことがすぐにわかったようで、なにやら盛り上がっている。私は取り残されて、ちょっと離れたところでそれを見ていた。

「ANIちゃん!」
K子に呼ばれて、私もNのほうへ行き、「だれだかわかる?」と聞いた。「当たり前やん!」とNが言った。

Nは京都で仕事をしたあと、東京に戻るところだった。一人で移動することはあまりなく、いつもは師匠やほかの弟子と一緒だけど、今日はみんな京都で遊んでいくようだから、と言った。

K子が乗る電車は、すぐに出る時間だったので、K子は大慌てでNとメールアドレスの交換をして、私とNに見送られて改札へ向かい、ちぎれるくらい手を振って去っていった。

2人きりになって、電車の時間を聞くと、東京行きの新幹線は数分おきに出ているからまだ大丈夫、どこか座らない?とNは言った。
座らない?というので、どこかのベンチにでも座るのかと思ったら、Nは改札を背にしてずんずん歩き出して、地下街に入り、ドトールの前で、「ここでいい?」と聞いた。

その、流れるような展開に私は驚いていた。あの、田舎の町の、私の知っているNとは結び付かないスマートさだ。
「京都、よく来るの?」
「3、4か月に1回は来て、しばらくいるんだ。いつも同じ道しか通らないからよく知らないけど。このドトールもいつも来る」と言って笑い、私も、そうなんだ、どうりで、と言って笑った。

どのくらいそこにいたのか、どんな話をしたのかはもう覚えていない。
「あのとき泣いてたでしょ」と言われたのは、ドトールから出て、新幹線の改札へ向かう別れ際だった。
「え、どのとき?」
「俺たちが、卒業式に出られないってみんなの前で言われた日。あの日の帰り道、一人で歩いてたところ見かけたんだ」
びっくりして、答えられなかった。楽しそうな彼らを見て涙が止まらなくなったのは覚えている。でも見られているとは思わなかった。
「俺じゃなくて、Fって覚えてる?あいつが見つけて、泣いてるって言ったんだよ。FってANIのこと好きだったからさ、みんなで、じゃあお前追いかけろよーとか言ってたんだよ」

Fって誰だっけ、ああ、あの坊主頭の…と答えると、「ひでー」といってNは笑った。複雑すぎる気持ちになり、もうあとは何を話せばいいのかわからなくて、それまで以上に無言になった私に、たまにメールしてもいい?とNが聞いた。私もするよ、と答えてアドレスを交換して、それから新幹線の改札の前で、「握手」とNが言った。

握手をした。自分の手が小さいと感じるくらい、大きい手だった。大きくて、硬い手だった。働いている手だなとも思った。私の手は小さくてやわい。


それから、つながったり、離れたりを繰り返しながら、私の人生の中にNはずっといる。


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