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最近のこと、3ヶ月まえのこと。

読んでくださってる方は、最近いかがお過ごしか。私は10日ほど前に、よく眠れると話題のバンホーテンの「快眠ココア」と言う商品を箱買いして飲み始めた。昔から眠りが浅くて、入眠剤のマイスリーを飲んでた時期もあったくらいだった。「快眠ココア」はマイスリーなんか目じゃないくらい、びっくりするほど眠れる。それはそれは、ベッドに入った記憶も定かでないし、朝まで一度も目覚めない。しかしそれと同時にびっくりするくらい悪夢を見る。必ず毎日、夢の中で泣きじゃくり、歯を食いしばり、拳を痛いくらい握りしめるほどの悪夢を見るのに、眠りが深すぎてすぎて悪夢で飛び起きることもできない。これ、快眠って呼べるの?
(調べてみたところ、入眠剤の類では副作用として悪夢がしばしば見られるが、「快眠ココア」に含まれてるGABAではその報告はないようだ。なぜ!)

さて、本当に突然だけど、私の生家は渋谷区にある。実家ではなく生家と呼んでいる理由は、両親は数年前に離縁していてそこには住んでいないし、「帰った感」がないから。生家は約100坪の土地に、4世帯が住めるような造りになっていて、祖父母や叔父夫婦、叔母夫婦、その子供たちが住んでいて、何か行事があるたびに呼び出される。けれど、私の心は映画サマーウォーズに出てくる夏希先輩の田舎のお家みたいな、のどかで虫の音が聞こえる平屋に帰りたがっている。山手通りのすぐそばにある4世帯住宅には「帰ってきた」と思わせる魅力がこれっぽっちもない。
その生家の裏手、徒歩20秒くらいのところに、もう何十年も前から、営業しているかどうかも分からないスナックがある。とうの昔に店は潰れ、看板だけが残っているのだと思ってた。
スナックは決まって分厚い木の扉を設置している。あれは一説によると、外から店内が見えないように、客人のプライバシーを守るためだという。昔見たテレビ番組で、スナックの扉を透明にしてみるという実験をやっていた。結果はというと、客数が増えて売り上げも上がったが、客の満足度は下がったというものだった。

3ヶ月ほど前、その日は祖母に呼び出されてお使いを頼まれていた。祖母はまだ元気なのに、初孫の私の顔が見たいばかりにくだらないお願いを頼む節がある。今回も百均で犬が遊ぶためのボールを買ってきて欲しいと頼まれていた。ボールを1つ持って、生家まで向かう道で、その例のスナックの分厚い木の扉がほんの少し開いているのを見たのだ。まさか、もう潰れていると思っていた店だ、店の中を見ることができるなんて…。元々興味なんてなかったはずなのに、急に魅力的に見えて、わざわざ近づいて覗いてしまった。
覗くと薄暗い店内で、開店準備のためか美人がグラスを磨いてた。その人は、美人なんて言葉では表せない人だった。後になって自分のボキャブラリーの貧困が恨めしくて、「美人 類語」で調べたけど、どれもしっくりこない。
アイドルのような可愛さはないし、女優のような華やかさはないけど、埃っぽい薄暗い店内で、真剣にグラスを磨く様子が本当に…本当に可哀想だった。彼女の周りには不幸が漂っていた。
この間オタク友人とカラオケに行って改めて理解したことだけど、私の性癖は主にアニメで作られていて、可哀想で可愛い女が好きなのは「おジャ魔女どれみ」の瀬川おんぷのせいだ。瀬川おんぷがどんなに可哀想で可愛いかを語るのはまたの機会にして、その後の人生でもとにかく可哀想で可愛い女(男)を推している。雪華綺晶も高倉陽毬もフォスフォフィライトもとにかく可哀想で可愛い。
二次元に限ったことではなくて、好きな女優は小松菜奈、木村多江、真木よう子である。不幸顔(褒め言葉)だし、ハイパー幸せ!みたいな役を演じているイメージも少ない。

スナックの彼女に「何時から営業するんですか?」と聞こうとして、声をかけることを躊躇する。酒が飲みたいのではない。アルコールアレルギーで、一滴も飲めない私が営業時間を聞く理由はない。もし、彼女に声をかけてしまったら、いま共に暮らしている恋人に不義理なのではないか、そう思い、彼女には気付かれないままそっと踵を返す。
生家まで辿り着いて、門に手をかけたところでふと考える。いまの恋人、必要なの?
実を言うと恋人とはすこし前からうまくいっていない。というか私が一方的に避けていた。彼はいい人で、私が辛い時に支えてくれる素敵なパートナーである。けれど同時に、私が仕事をするのを嫌がった。嫁に入って欲しいという想いがあるのかもしれない。真相は分からないけど、私が仕事に夢中になっていると必ずいい顔をしない。ちょっと意地悪なことを言う。でも、休日にはとびきり優しい。この頃の私は仕事を頑張りたくて、昇進するぞ、という強い気持ちがあっただけに、彼に対して思うところがあった。(会社勤めじゃないから昇進とは少し違うけど、その言葉が一番近い気がする。)
だいたい、過去に軽率に求婚を受けて痛い目を見たのだ。暫く結婚はしないゾ!と思ってたけど、あれはもう4年半も前の出来事で、通りで体力の衰えを感じるわけだ。

「やっぱり営業時間だけでも聞きたい。」そう思って駆けてスナックに戻るけれど、時既に遅し。スナックまでは往復しても40秒ほど、恋人のことを考えてたのだってたった数秒、少なくとも1分ほど前まではうっすら開いていたスナックの扉は、閉まっていた。透け感のない重い木の扉が私のことを拒絶しているみたいだった。
もしかしたら、じっと覗いてたのが実はバレていて、彼女が気持ち悪がって扉を閉めたのかも。
そう考えたら自分からはとても扉を開けることなんてできない。声をかけなかったことを後悔した。人生で初めて、たぶん一目惚れをした。
だからと言って、どうするつもりもない。推しみたいなもんだ。でも、一言話してみたかった。できればちょっと、貢がせてほしい。具体的には、何杯でもドリンクいれるし、シャンパンでも構わない。その代わり、どんな話でもいい、彼女の話をして欲しい。
おかしな話だけど、自分が一目惚れされた時には、その人のことを気持ち悪いと思ったし、いまでも思っている。恋愛において、見た目が好みかどうかはある程度重要かもしれないけれど、さすがに話したこともない人間を好きになるなんて、どうかしている。もしかして、特大ブーメラン。

こんなことがあってしばらく生家に行くのを避けていたのに、今日久しぶりに祖母から連絡が入った。「今週の土曜日に大叔父ちゃんの一回忌をお寺でやるからいらっしゃい。その後は家に寄ってね。」
土曜は仕事で、もう3日後に迫っている。言うのが遅いし、だいたい大叔父ちゃんというのも産まれてから2,3回しか会った記憶がない。しかし、行かないという訳にも…。もうそろそろアラサーに片足を突っ込みかけてるというのに、全く、中々どうして、人生はうまくいかない。

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