数学 初見の問題の切り崩し方と対策①

今回は初見の問題をどのように切り崩していくのか?そしてそのような能力をどのように養うかについて書きたいと思います。まず大前提として4stepのような教科書レベルの知識はもちろん、青チャートといった標準的な問題は大方解けるレベルにあることが必要です。青チャートがまだ不安なレベルの方はそこをまず固めましょう。青チャートの勉強法は巷に溢れていますのでそちらを参考にして下さい。

まず初見の問題がなぜ難しく感じるのかから説明したいと思います。この記事を読んで下さる方の多くが試験中は分からなかったけど解答解説を見たら簡単じゃんと思った経験をしたことが一度はあると思います。解き方を知っているはずなのにテストになるとその解き方を自力で適用できない。なぜでしょう?もちろん試験場特有の緊張感や焦りももちろん大きな要因ではありますが今回は頭の使い方に焦点を当てて考えます。僕の考える理由の1つは正しく問題を捉えられていないことにあると思います。正しく問題を捉えるとはどういうことかを簡潔に述べるのであるなら、その問題の問うてることを抽象的に捉えることと、その問題の難しさ、やりにくさの把握だと思います。分かりにくいと思うので実際に例に出して考えてみましょう。

今年の東大数学の文系第一問の問題を元に説明します。問題は各予備校のサイトから確認して下さい。

まずは問題を見てどういう問題なのかを把握しましょう。しかしこれは微積の問題であるという風に分野を見極める訳ではありません。この問題は条件を2つ満たしながら変化する3次関数の方程式の係数のとる範囲を問う問題である。このように分かることが第一歩です。この問題はどういう段階を経て最終的に何をしてほしいのか? これが問題を抽象的に捉えるということです。分野ではなく何をするかという区分で捉えます。概して簡単な問題はその過程と最終目標が分かりやすいことが多いです。例えば条件を処理して面積を求めろという問題であったり、ある条件を満たしながら2変数が動くときのある変数の最大値最小値を求めなさいといった問題が挙げられます。この過程と最終目的を考えずに闇雲に問題を解こうとすると途中で何をしているのかわからなくなり答えに辿り着けずして終わってしまいかねません。全ての問題でまずはこのどういう過程を経て最終的に何を求めるのかを一度は考えるべきだと僕は考えます。漠然と青チャートのような数学参考書を解いているだけですとこのような問題の捉え方はなかなか身に付きません。このような思考プロセスを積み重ねながら多くの問題に取り組むこと、あるいはこの過程がよくまとまった参考書や体系的に教えてくれる先生に教えてもらうことのどちらか、または両方によって学べます。参考書については後日機会があれば述べますが、ここでは入試数学の掌握という参考書の名前だけを挙げておきます。そして問題を解き進める前にこの過程と目標が把握しやすい問題が一般的に典型問題と言われるものであり、逆にこの見通しがつかない問題は典型問題ではないとされていると思います。今回の問題は前者なのでまずは前者を考えていきます。後者についてはまた後日記事にします。

それでは改めまして問題内容を見ていきます。条件1は曲線Cがx軸に接するというものです。恐らく東大受験生でx軸に接するということがどういう意味を持つのかが分からない人はいないと思います。図形的な意味ですとx軸が曲線Cの接線になっているという意味であり、数式的な意味ですとCの方程式とx軸の方程式Y=0を連立させたとき重解を持つという意味です。また素直に微分して増減表を書いて接線がx軸だから接点が極値になるという意味とも捉えられます。この3通りの捉え方は今までの青チャート等の問題集をやる中で必ず経験したことがある発想であり、普通の受験生なら問題なく処理できるはずです。この条件を普通に処理すればbをaで表すことが問題なくできるはずです。

一方条件2はx軸とCで囲まれた領域に格子点がちょうど1個存在する というものです。条件1と違いこの条件2はどうやって捉えたらいいのでしょうか?格子点が1個だけ領域に含まれる問題を青チャート等で今までに経験したことがないと解けない問題なのでしょうか?もちろんそんなはずはありません。予備校の先生であっても全く同じ問題を見たことある人は恐らく少ないと思いますが、解くことができる。この違いは何でしょうか?特別な天才を除いてこの条件文を見た瞬間こうすれば答えが出ると分かる人はいません。このような分かりにくい条件を把握しそれを数式等に変換する必要があることが初見の問題の難しさです。このような問題の切り崩し方は観察実験を通してその問題の特別な点を見つける嗅覚を養うことで可能になります。俗にいう数学センスを養うことだと思っていただくと分かりやすいかと思います。

まずは観察です。今回の問題の特徴的なポイントを見ようと観察してください。曲線Cの方程式の特徴はどうなっていますか?一般に三次関数はy=ax^3+bx^2+cx+dの形で表せます。今回の曲線Cはbを消去した後はy=x^3-3ax^2+4a^3となっています。見比べてみましょう。分かりやすいポイントとしてxの1次の項の係数が0ということが特徴です。そこに気づけば、例えば解と係数の関係を使えばきれいな関係式が得られそうだなといった発想につながります。あるいは微分すればきれいに極値が出そうだなといった発想につながります。数学で発想力は難しいものだというのが一般的な考えですが、少なくとも受験数学において特別な難問を除けば何もない状態から漠然と解法を思い浮かべようとするのではなく、きちんとした着眼点に注目してそれを元に考えることができれば無理なく解法を思いつくことができると思います。

次に着眼点に気づいた後の発想の仕方です。先ほど解と係数の関係や微分した式がきれいになるといった例を出しました。なぜその発想ができるのか?ここはやはり今までの経験量が大きくものをいうところです。このような式の形や状況だとこのような解法が有効であるというストックが多い人は様々な解法が思いつきますが、そもそもストックが少ない人は状況が把握できても適当な解法を思い浮かべることが難しいですし、確率的にも必然的に思いつく可能性が低くなるでしょう。解法ストックには質、量、スムーズさがあります。

解法ストックの質はその解法がどのような状況で有効なのかをどの程度深く理解しているのかということです。簡単な例を挙げるなら相加相乗平均の不等式です。この不等式を漠然と最小値を求めるときに使えるぐらいの理解ですとなかなか実践で使えません。使用条件(相和を考える各数が非負であること)有効な場面 (xと1/xのように相乗した値が定数になる)をきちんと理解しましょう。

次に量です。これは様々な問題を経験することで解法を地道に増やしていくしかありません。よく暗記数学と言われるものでとりあえず分からなければ答えを見て覚えるといった勉強法があると思います。ある程度のレベルで良いなら有効だと思いますがやはり自分で手を動かし試行錯誤した後に正しい解法を学んでいかないとなかなか身につかないと思います。地道にやるしかありません。

最後にスムーズさ これは質と量の両方と重なる部分はありますが、実際に問題を解くときにいかに早く解法を出せるかということです。背理法のような証明法は多くの受験生が苦手としている証明法だと思います。背理法を知っていても実際に思いつけなかったことはあるのではないでしょうか?入試の数学は時間が限られていますので色んな解法を瞬時に選択することが求められます。このスムーズさはより実践的に必要な要素です。初見の問題を解く実践的な勉強で磨いていき、ある程度みについたら勘を鈍らせないよう定期的にメンテナンスするようなものだと思います。

状況把握の話に戻ります。曲線Cの方程式をそのままの形で見るだけでなく因数分解の形も考えてみましょう。なぜ因数分解しようと思えるかといいますと、そもそもx軸と接するという条件がありますのできれいに因数分解できることが確定しているという点と、このような整式を因数分解の形で表すことにより3次方程式の解、別の言い方をすればx軸とこの曲線Cの交点が分かるという点が挙げられます。そして因数分解した式からx=-aの単独解と重解としてx=2aを解に持つことが分かります。このように曲線Cの情報 x軸との交点や極値といった情報を数学が得意な人は反射的に調べようとするのですぐに分かり、曲線Cの特徴を正確にかつ明瞭に把握することが可能になります。一方数学が苦手な人や、観察をしようという目的意識がない人は言われたら分かるはずの情報を自分で発見できず、次のステップへなかなか進むことができません。

次に実験についてです。条件2の処理が問題になっています。今までの状況きちんと把握をした上で実験しましょう。注意してもらいたいのが分かる条件を整理する前に無暗に実験をしないということです。特に数学を苦手としている人に多いのですが、この問題で例えばa=1 b=2のグラフを書いてみる 次にa=2 b=3のグラフを書いてみる そしてやはり分からない。この実験はほとんど無意味です。なぜならそもそもbとaには条件があるにもかかわらず適当に簡単な値を代入してみただけではこの問題で考えるべき三次関数を全く考えられてないことになるからです。

そして実験する目的を明確にしてから実験をしましょう。今回の実験をする目的は格子点が題意の領域に1個のみ入る状況はどのような状況であるかを把握するために行います。この時になって初めてa=1などを代入して具体的に考えます。実験をするとaの値が大きすぎると格子点をたくさん含んでしまうことが分かるのではないでしょうか?センスの良い人は実験をするまでもなくこのことに気が付くはずです。そもそもこの領域がx=-aとx=2a 曲線Cとx軸に囲まれた領域なのでaを大きくすればするほど内部に含む格子点が増えるのは分かると思います。これが分かるのもやはり先に正しい状況把握を行っていたからです。

また実験をするときにやって欲しいことはツッコミをいれることです。
そもそも格子点1個だけ入る状況なんて限られてるやん
aが大きすぎると無理やん
ふざけているようにも思えますが、ツッコミをいれることで問題の特異性を見抜く力が上がると思います。入試問題の性質上、某W大学の出題ミスみたいなことがなければ必ず答えは求まります。そして高校数学の範囲で難しい問題を作ろうとすると結局かなり限定的な状況を考えざるを得ないのです。裏を返せばその限定的な状況に注目することがその問題解決の糸口になるはずです。

そして実験の結果唯一含まれる格子点が(0,1)であると分かれば実験は成功です。(0,1)のみを含まる条件を立式してしまえば答えは求まります。
実験をすれば必ず分かるという訳ではありませんが、状況把握をきちんと行った上で、目的意識を明確にし、特異な点にツッコミを入れることでただ闇雲に問題をこねくり回すことに比べれば高い確率で答えが求まるのは間違えないと思います。

逆にうまく条件を処理できないときにはこの流れがきちんとできているか確認することで見落としている点に気づけるチャンスが生まれます。なかなか上手く行かないときは
状況把握がきちんとできているか?
何のために実験しているのか?
怪しい点はないか?
を疑ってみましょう。

長くなりましたがこの記事では典型問題であるが見慣れない条件を処理する問題について扱ってきました。すべてを理論立てて説明できるほど数学の問題は単純ではありませんが、正しい頭の使い方を使わなくては初見の問題にあっても毎回解けずに終わってしまいます。今年の東大数学のように入試では初見の難しい問題を解かなければなりません。このレベルになってくると独学は厳しいのは事実です。厳しい中でも自力で活路を見だそうとする意志がなければ数学の実力は伸びません。自分で考えながら多くの問題に取り組み理解を深めることが実力を伸ばす一番の近道です。この記事だけでは全てをお伝えすることができませんが少しでも受験生の役に立てたら幸いです。

2020年3月1日 まことちゃん

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