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「優しさ」がもたらす絶望と希望 -龍宮城・『BOYFRIEND』 × きらきらし・『好きになること』-


1. 優しくしないでよ(龍宮城・BOY FRIEND)


龍宮城のBOY FRIENDと言う曲についてどうしても書きたい。2nd EP「DEEP WAVE」に収録されているこの曲は、KENTと言うメンバーのソロ曲だ。ソロ曲ではあるが、ところどころ6人のコーラスが入り、パフォーマンスは7人全員で行っている。

・BOY FRIEND(龍宮城)↓

恋人との別れを決意する切ない歌。
一人称が”僕ら”であったり、”My boyfriend”と叫ぶ歌詞があることから同性愛とも取れる歌だ。
曲全体としてストーリー仕立てになっていながらも、時系列ではなかったり、カップルのどちら側の言葉なのか断定できない歌詞もあり、様々な解釈ができる。また、歌詞の繊細さや切なさとは裏腹に、バックミュージックがアップテンポになっている所から、それまでの楽しかっただろう日々を勝手に想像してしまい胸を締め付けられる。

私はこの曲全体を、「相手が自分を恋愛的に好きでないことを分かりながら、一緒にいるのが辛い。だから別れようとする。」歌と解釈している。
その前提のもと、特に解釈が分かれそうなところをいくつかピックアップし、私なりの見解をあげていく。

(歌詞はこちら↓↓)

・言えない消せない後4文字
おそらく「別れよう」だと思う。
直接言いたいけど言えない。LINEで送ろうとして文字を打つけど、送る勇気がない。消すこともできずにそのままになってる。

・さりげなくしたいそれだけなのに

別れ話を切り出す時は、しんみりしたくない。明るくいきたいのに切り出せない。

・君が触るなら滑らかに剃刀
めちゃくちゃ解釈分かれると思う。
私は「大好きな恋人が触るなら、剃刀で剃っておこう、少しでも綺麗にしていよう」と解釈した。"剃刀"の歌い方が強めなのは、別れたいのに恋人のために綺麗にするという矛盾した行動をとっている自分への怒りや悔しさかなと思った。

・優しくしないでよ
タイトルの歌詞。
「恋人」という使命感で、本当は恋愛的に好きではないのに思いやって優しくしてくれるのがむしろ辛い。そんな思いから出た一言。KENTくんも言っていたけど、優しさがこの曲のキーワードな気がする。

・ユニセックス〜笑い話になるまでそばに、そばで
周りからジロジロ見られるのも良いわけではないけど。ユニセックスとか関係なくシンプルに(恋人の)Tシャツがダサいからなんとかして欲しい。今はそんな思い出すら辛いけど、いつか笑い話になる日が来るのだろうか?

・電話をかけてた午前2時、「起きてた?」なんて嘘ばっかり
勇気を出して電話をかける。出てくれる恋人(優しい)。「別れよう」って言いたいのに、出てきた4文字は「起きてた?」。また本心とは違う嘘をついてしまった。

・抱きしめて、突き飛ばす×6
「抱きしめて」をバックの6人がコーラスで歌っているのだが、どこか無機質に聞こえる。使命感で形式的に相手が抱きしめにいく様子を表しているのだろうか。それを主人公は拒絶する。あくまでも拒絶するのは自分、自分が振る。間にある「抱きしめてよ、抱きしめて」は主人公の口には出さない本音の部分。

・抱きしめて、鍵は閉めて
解釈が分かれる部分だろう。拒絶してたけどやっぱり一緒にいたい。だからこれで最後にするという決心のもと扉の鍵を閉めて二人きりの空間を過ごす。そしてこの時間が終わったら、自分の相手への心の鍵も閉める。そんな主人公の意志を示していると感じた。

主人公の切なさ辛さはもちろんのこと、「優しくしないでよ」と言う歌詞から恋人も優しさが伝わり、悪く言うことができない。誰も悪くない。ただただ切ない。


2. あたしたち友達に戻る? 優しさだよ…(きらきらし・「好きになること」)


 BOYFRIENDを聴いた時に、どうしても結びつけてしまう小説がある。宮田愛萌さんの短編小説集「きらきらし」の中にある『好きになること』と言う物語だ。曲の解釈を語る上で、他の作品を取り上げるのはあまり好きではない(コラボとか関連づけはあくまで私の妄想の話だから)が、大好きな曲の解釈に影響を与えた大好きな小説についてどうしても書き留めておきたい。



『好きになること』<あらすじ>
恋愛にコンプレックスを持つ「瑞葉」は、ひょんなことからガールズバーで出会った「妃芽」と付き合うことになる。妃芽との日々を経てキス・セックスにも抵抗がなくなり、コンプレックスを克服したと思っていた瑞葉。しかしある夜、妃芽から突然別れ話を切り出されてしまう。妃芽に恋愛感情を持てていない事を薄々自覚していた瑞葉は、反論しきれずに受け入れる。そして、二人は同じベッドで最後の夜を過ごす。

見出しにある「あたしたち友達に戻る?」は別れ話を切り出した妃芽の、最初一言だ。

私は妃芽の健気さを、BOYFRIEND の主人公に重ねてしまう。胸が締め付けられるような別れ際の妃芽の台詞をいくつか紹介する。

・「私のこと恋愛対象として好きじゃないでしょ」
・「だってこんな話(別れ話)、ちょっとふざけてないとやってられないよ」
・「本当はずっーと一緒にいたいけど、友達に戻してあげるって言ってるの。優しさだよ…。」

この台詞だけ見ると瑞葉をひどいと思うかもしれないが、瑞葉は瑞葉でいつも恋人を傷つけてしまう自分に苦しんでいる。その苦悩がわかる一文がこれだ。

どんなに大切にしているつもりでも、いつも何処かで同じことの繰り返しの様に恋人を傷つけてしまう。なんでこんなに欠陥品なんだろう。

そして瑞葉は妃芽の別れ話を受け入れる時の瑞葉の台詞がこちら。

「こんなに大事なのに友達にしかなれなくてごめんね」


お互いに大好きだからこそ、感じる「優しさ」がお互いを苦しめる。そして妃芽は自分が振ると言う体で別れようとする。それが妃芽の最大限の優しさなのだ。


3."優しさ"と言う刃 春ツで冨田くんが見せてくれたアンサー


BOY FRIENDと好きになることに共通していること。
それはどちらの登場人物も”優しさ”に苦しんでいることだ。
BOY FRIENDに出てくる恋人も、瑞葉同様優しさで満ちていて、恋人であらなくてはいけないと言う使命感に囚われてしまう。そして、BOYFRIENDの主人公も妃芽も、相手の優しさを分かっているからこそ「別れる」という優しさによって相手を自由にしようとする。

現に、KENTも曲についての考えをこう語っている。

優しさとは。
あなたを支えたいと思ったから、あなたに歩み寄った思いやりの言葉を発することなのか。あなたを見つめて私が実際に見たものを伝えることなのか。(中略)
道路側を歩いてあげるから優しいのか。そんな正解のような型が決まってしまっているから、優しさって時に苦しみになってしまうんだと思いました。

(龍宮城official Xより)

本当に、若干16歳でこの考えにたどり着くKENTには頭が上がらない。
使命感からくる相手の優しさが苦しくなる。そして相手も相手で使命感からきてしまう優しさに葛藤する。BOYFRIENDの恋人もきっと主人公と同じかそれ以上に苦しいのだろう。

上述の漠然とした想像の解像度を上げてくれたのが、龍宮城の春ツアーでやった冨田侑暉くん(以下 冨田くん)と言うメンバーがやったBOYFRIENDパフォーマンスだ。
彼のパフォーマンスはKENTと同じ曲をやっているはずなのに全く違うもので、KENTバージョンへのアンサーソングに感じた。KENTのパフォーマンスは、爆発しそうな感情を押し殺して強がっている。そんなガラスのような繊細さを感じていた。一方、冨田くんは感情を爆発させ、泣きそうな声で歌っていた。そこには絶望と諦め、そして「自己嫌悪」を感じた。瑞葉の「どうして自分はこんなにも欠陥品なんだろう」と言う台詞がそのまま当てはまるように。
冨田くんが歌い終わった後、KENTが冨田くんに縋る様に抱きつくが、冨田くんはそれを振り払う。まるで自分に彼を愛す資格はないと言わんばかりに。あまりにも希望がなさすぎて辛すぎるBOY FRIENDだった。

ちなみに、『好きになること』では別れてから5年後に二人は再開し、しばらくは親友でいいよねと2人で夕日に黄昏がれる。”優しさ”で時にすれ違うけど、”優しさ”があればまた戻れると言う希望を与えてくれる。

だから、あまりにも辛すぎたBOYFRIENDの二人もきっとまた会える。「笑い話になる」日もきっと来る。
私はそう信じたい。



<参考>
龍宮城 2nd EP DEEP WAVE↓

(「きらきらし」にある別の物語についても単独書いてるのでこちらも是非↑↑)


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