在外研究まで

学振のポスドク研究員は、海外で研究することを推奨されています。
私のばあいは、採用2年目に1ヶ月ほどアメリカに行っていたほかは、学会に行くか、今年の9月に南仏のサマースクールに参加したほかは、実は長期の滞在をしていませんでした。

実際のところ、当初の研究計画のなかには、長期の出張が入っていたのですが、頓挫したのでした。というのも、ポスドクになってからやりはじめた国内でのフィールドワークが思うように進まず、最初の1年間は手探り状態で思った以上に苦戦し、在外研究どころじゃなかったのです。さらに、少し落ち着いたと思って、2年目で1ヶ月留守にした折には、国外に行ってしまうと、信頼関係がいまいち維持できないということが、わかってしまい諦めることにした。(実は、2年目は夏以降在外研究するつもりで、アパートも引き払ったところだったのだが…)

それに、そもそも、自分のデータと言いたいことがないうちにどこかへ行っても意味がないのでした。遠隔で何かできるかと思ったけれど、そこまでの信頼関係が築けてなかった。(今はそれも可能)

継続の課題ならともかく、対象言語が変わってしまい、今までやっていた、自分のメタ言語能力に依存した方法に、言語コンサルタントと、なかなかたどり着けなかったので、四苦八苦でありました。でもそれを諦めずに続けていたら、なんとかなってきたのでした。そうして光明が見えてきたころ、結婚することにもなりました。

そんなこんなで目の前の課題に向き合っているうちに、任期3年目のはじめに妊娠し、3年目は妊娠のつわりで研究が人手を借りている部分以外全然進められず、育休に入って…とまあ相変わらずのドタバタなのが私の人生の避けられない道筋のようです。幸いなことに、ドタバタと早産で生まれてきた子は健康優良児で、気性も穏やかだし、夫が男性にしては珍しい育休を、1年4ヶ月(1年+年度末まで)取得してくれて、半年で復帰することができました。つわりで半年、ほとんど稼働できなかったのもあり、研究費を使える期間を延ばすため、残りの任期すべてを研究再開準備支援期間(給料を半額にして、任期を2倍にする)として、2016年度は研究をしています。

さて、そんなこんなで、データも言いたいことも得た、信頼関係も今ならいける、となってきて、先日の南仏でのサマースクールはハッキリ手応えを得た。そしてやはり、あの先生のところへ行かねば、と思ったのでした。

さて、あの先生とは、2年目に一度メールをやりとりして、しかし放置してしまっていたのでした。なんというか読みこなせてなくて。

しかしそのあともacademia.eduでしつこく論文をダウンロードしていたら、ばれていたらしく、またメールが来たのでした。出産後の3月。そして、最新の論文を送りつけられてしまったので、赤ん坊に授乳しながら読みました。それがあまりにもするっと入ってきて、これまで読んだどれよりも、今私が見ている地平は、これなのだ、と思いました。なぜなら、その先生の専門は認知言語学で、私と一緒。あと有名な認知言語学の手話研究者って、ろう者(ASLでコミュニケーションとれるようになるまでどれだけがんばればいいのやら)だったり、今研究を離れてる人だったりなのでした。そもそもよく調べてみると、私が参照している論文はこの先生の弟子が書いたものかこの先生のものか、この先生の奥さんのものか……という内輪っぷり。

これはご縁だと思って、折しも、出産後の3月、次のポジションにアプライする頃だったので、海外学振の受け入れをお願いし、申請書を書いていたのでした。赤ん坊を抱えながら、これが通ってしまったら一家離散なのか? と。その2週間後締め切りのRPDも、一家離散防止のために、通らないだろうと思ったけど出しました。結局、RPDに通ったので、海外学振は蹴ることにして、じゃあどうするか、と考えました。

当初の予定では、11月に現地で学会があるので、そこに参加してお話しし(その先生の奥さんが病気であまりよその学会で会えないし)、1ヶ月くらい逗留して研究を深められたらいいよね、という話をしていました。

しかし、よく考えると、子供を保育園に預けながら、私は長期で海外出張できるのか? 初年度はとくに流感をたくさんもらってくるから、難しそうだ。ついでに、子連れで長期出張もいいかもよ、といろんな人に言われたのですが、保育園の事情を考えると、それは難しいのでした。1ヶ月に1度は保育園を利用しないと、退園になってしまうのです。(そして、待機児童問題で話題になっている東京の保育園はまだ取らぬ狸の皮算用でもあるし、そんなふうにして得たイスを、ちゃんと使わないのはいけない)

そんなわけで、夫が育休のあいだに、できるだけ長く、その先生のところに行くことにしたのでした。その先生も(結構なお年だし?)、来るなら早く、長く来なさい、とのことで。なにより、興味が近い。さすが、認知言語学者。そりゃそうか。しかし、最後の3月は、夫の復帰や保育園入園の準備もあるし、というわけで、日程は11月~2月。駆け込み。(その前にもなんだか満を持して、なものをいろいろ詰め込んでしまったのでなかなか出発できなかった)

育休などはさんだけれど、3年の任期の中で、最終の半年。研究の進捗を考えると、新しいことを学びに行くと言うよりも、確認しながら論文を書くための期間。そして、これまでのフィールドワークの成果を「見せる」ための研究滞在。手話研究者にとって手話の動画は重要だけれども、オンラインではなかなか共有しにくいもの。個人情報などの観点もあるし、クオリティも重要。だから、それを一緒に見ながら、メンターになってもらえる研究者と一緒に分析できるのは、とても重要な機会になると思います。そしてすでに、漠然とではなく、現象は整理できている。あとは議論して、書く。書いて、議論を広げる。

今、満を持して、行くのだ。本当にそう思える海外出張は、今年に入ってからだなあ。

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