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クラウドロックインは何が問題?

最近ベンダーロックインならぬ「クラウドロックイン」という言葉を聞くようになりました。一度使い始めたクラウドを継続利用し、他のサービスとの併用(マルチクラウド)や他のサービスへの切り替え(スイッチング)が行われない状態を意味するようで、特定のクラウドサービスへの業務の依存や、独占・寡占企業が生まれることによる市場の失敗の懸念があるとして問題視する声もあります。これについて、クラウド市場の実態や独占禁止法上及び競争政策上の考え方を整理するための「クラウドサービスに関する意見交換会」を読んで考えたので、シェアします。

結論
「多くのクラウド利用企業がマルチクラウドを導入しておらず、スイッチングをする気がない」という事実そのものにに良し悪しは無いと考える。利用企業の内部要因(使い慣れたものを使いたい、コスト払ってまで切り替えたくない)は放っておきつつも、もし外部要因(クラウド事業者による情報提供の不足、スイッチングを阻害するような契約)があれば、それは確かに問題で、公正取引委員会や政府による介入も含めた検討が必要。

クラウドサービスに関する意見交換会」の内容についてはこちらにまとめました。

なお、記事では上述の意見交換会と同じく、IaaS及びPaaSを主な対象としています。

内部要因と外部要因

まず、クラウドロックインが発生・定着する要因として、クラウド利用企業内部の要因と、クラウド提供事業者など外部の要因があるように思いました。

内部要因は問題ではない

内部の要因というのは、クラウド利用企業自体がマルチクラウド導入やスイッチングを望んでいるかどうか、ということです。別記事でも紹介しましたが、クラウド利用企業のほとんどが「併用する必要がない」ことを理由にマルチクラウドを導入していませんし、仮に現在利用中のクラウドサービスが5%~10%値上げされたとしても、切替のコストを理由に切替は行わず現在のサービスを利用し続けると答えています。

クラウドサービスに関する意見交換会でも、ユーザがロックインのメリットとデメリットを理解した上での合理的な判断の結果、ある程度のロックインは仕方がないのでは、とする声もあります。確かにクラウドロックインは特定のクラウド事業者への業務の依存度を高めるかもしれませんが、一方で、複数のクラウドを同時に運用したり切替たりするのは多大なコストがかかるため、そのリスクを受け入れるというのも一つの戦略です。

外部要因があるとすれば問題になり得る

一方で、ユーザ企業がマルチクラウドの導入やスイッチングを行いたいと考えたときに、それを妨げるような外部要因がある場合は問題です。

情報の非対称性

クラウドの場合は、情報の非対称性によって、マルチクラウドの導入やスイッチングを意図的に妨げることが考えられます。意見交換会では、ユーザ企業の特定クラウドへの依存度や、スイッチングの際のコストをユーザ企業側が適切に把握していない・できない状態になっていることがあり、これがスイッチングを妨げているのではないか、という指摘があります。

他にも、クラウドにありがちな複雑な料金体系によって、マルチクラウドやスイッチングを検討しようとした際の料金の比較が困難になる、といった可能性もあるでしょう。

スイッチングを阻害する施策

また、一部のクラウド事業者は、データの転送(出力)の料金を高く設定したり、長期の契約を迫ることでスイッチングが困難になる状況を意図的に作っている場合があると言います。

これらは事前に十分な確認を行わない利用者側にも問題はありますが、クラウド利用者として、導入前や契約時にどんなことを考慮すべきか、気を付けるべきかということは十分に知られておらず、より多くの情報を持つクラウド事業者が意図的に情報の非対称性を利用した場合、不利益を被るのは仕方ないように思います。

外部要因はまだ健在化していないだけかもしれない

意見交換会の中で「現在は市場が拡大している段階で、スイッチを検討するユーザ企業が出てくる段階ではないのではないか」という指摘がありました。

現在はクラウドサービス市場自体が拡大している段階であり、利用しているクラウドを切り替えたいと具体的に考えている利用者が出てきているような段階ではないのではないかと思う。もっとも、スイッチングが可能となるように今から環境を整備することは必要である。スイッチングの際は、データ移行に多大なコスト、時間、労力が掛かるものであり、そのうちコストがどの程度になるのかという情報については、あらかじめ利用者に明示しておくことをクラウド提供事業者に求めるような枠組みが必要ではないか。

この可能性は大いにあり得ます。今後問題が顕在化してくる前に、今から外部要因を排除していくことは重要でしょう。とはいえ、当然クラウド事業者側には自ら改善するインセンティブはありませんから、自主規制はそこまで期待できません。そのため、意見交換会でも指摘されているように、公正取引委員会や政府による介入も含めた検討が必要でしょう。

まとめ 内部要因は放っておき、外部要因があれば正す

「多くのクラウド利用企業がマルチクラウドを導入しておらず、スイッチングをする気がない」という事実そのものにに良し悪しはありません。利用企業の内部要因(使い慣れたものを使いたい、コスト払ってまで切り替えたくない)は放っておきつつも、もし外部要因(クラウド事業者による情報提供の不足、スイッチングを阻害するような契約)があれば、それは確かに問題で、公正取引委員会や政府による介入も含めた検討が必要でしょう。

以上です。

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