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古井里奈、W杯バクー大会出場!~2016/7公開記事(Yahoo!ニュース)

 7月22~24日に、バクー(アゼルバイジャン)で行われた新体操W杯最終戦は、上位選手たちにとっては「五輪前の最後の調整」的な試合となり、下馬評とおり、ロシアの3選手がメダルを独占した。
 日本からは、五輪に出場する皆川夏穂(イオン/国士舘大学)は、調整のため出場せず、今大会が国際大会へのデビューとなる古井里奈(国士舘大学)が出場した。「古井里奈」と言っても、新体操関係者以外にはほぼ知られていないかもしれない。それほど、現在の日本での新体操のメディア露出は、「日本代表=フェアリージャパンPOLA」に偏っている。
 しかし、新体操関係者、ファンならば知らない人はいないくらいの有名選手であり、ジュニア時代から非常に人気の高い選手だった。やや小柄なため、国際規格が求められる場では不利になることも少なくないが、一選手として見た場合は、その小さな体で、小ささを感じさせないほどフロアいっぱいを使ったダイナミックな演技を見せることが、この選手の最大の魅力とも言える。
 明るい曲調の作品で見せる「弾ける笑顔」は、多くの人を虜にする。この春に大学生になったばかりだが、年よりはずっと幼く見えるくらいチャーミングなのだ。もちろん、技術も高い。柔軟性、コントロール力にも優れ、日本では他の選手はやっていないような高度な技にも果敢に挑戦しており、その精度はどんどん上がっている。近年は日本の選手たちもかなりレベルアップしており、身体的な難度はかなり高度なものをやりこなす選手も増えてきているが、中でも古井は、難度を「明確に見せる」ことに長けた選手だ。
 さらに、ジュニア時代から、手具操作でかなり難しいことを取り入れてきており、ときには豪快にミスをすることもあったが、その挑戦する姿勢を貫いてきた。名古屋女子大学高校1年生のときは、高校総体で優勝しているが、その後は、もう一歩のところで及ばず、高校総体、ユースチャンピオンシップなど同世代での大会での優勝はない。しかし、その「優勝になかなか手が届かなかった」ことさえも、彼女は成長の糧にしてきたのだと感じる。
 高校の段階で、すでにトップレベルの選手となると、大学生になってから大きく伸びることはなかなか難しい。決して、怠けているわけではないのだが、高校まででやり切ってしまっている感があれば、そこからの伸びが鈍化するのは無理もない。それはなにも新体操に限ったことではないだろうが、近年は小学生やそれ以前から始めている選手が多い新体操ではそういう例は枚挙にいとまがない。ところが、古井は、3月のアジア選手権代表決定戦、5月の東日本インカレと、大学生になってもなお伸び続けようという意欲満々の演技を見せていた。
 とくに変わった、と感じたのは、手具操作がさらに挑戦的になってきたこと、とそれが非常に見えやすくなったことだった。ミスをしないように適当なところで操作をやめるのではなく、ちゃんと最後までやりきる、その姿勢が見えたのだ。さらに、最大の武器ともいえる「チャーミングさ」を出しやすい軽快な曲だけでなく、重厚な曲での演技にも取り組み、表現の幅を広げてきた。最初に演技を見たときは、「ミスマッチ」にも見えた荘厳な雰囲気のリボンの演技も、東日本インカレのころには、体で曲を奏でているように見えるところまで演じこなせるようになっていた。
 しかし。
 いかんせん、小柄には違いなく、今の日本ではなかなかこういう選手が海外の大会に出ていくことは難しいのだろう、と残念にも思っていたのだが、今年になり、やや変化が見えてきた。おそらくリオ五輪以降、2020年の東京五輪も見据えてのことだろうが、5月にはW杯ブリガリア大会で行われた国際トーナメント(ソフィア大会)に猪又涼子(日本女子体育大学)が出場。猪又は古井とは同級生で、高校総体連覇などの輝かしい実績をもちながらも、古井同様やや小柄な選手で、この大会が国際大会デビュー。そこで4位という好成績を残した。
 そして、今回は、古井里奈がW杯への出場。今までなかなか国際大会出場のチャンスがなかった選手たちに、今年は千載一遇のチャンスが巡ってきている。しかし、そこで低い評価しか得られなければ、「やはりまず体型が国際規格ではないと」という空気になってしまう可能性もある。世界では、決してスタイル抜群ではなくても、その演技で高い評価を得ている選手も続々と出てきているのに、日本ではなかなかそのチャンスがない。長年続いてきたその空気が、少し、変わってきたように感じられたが、猪又や古井への評価いかんでは逆行もあり得る、そんな状況だったと思う。いわば、「リオ五輪以降の日本の新体操の指針」にもかかわる(こともあり得る)、今回の古井のW杯出場であり、それだけに多くの人からの期待を古井は背負っていたと思う。
 そして、彼女はあの小さな体で、その重圧をはねのけ、「あっぱれ」な演技を見せた。1日目のフープ17.050、ボール17.100。2日目のクラブ17.000、リボン17.100。国内の大会では出したことのない17点台を4種目そろえてみせたのだ。個人総合の順位は15位だが、古井よりも上にいる選手たちのほとんどが五輪に出場する選手たちだということを考えれば、このデビュー戦での大健闘ぶりがわかってもらえるのではないだろうか。
 そもそも、新体操やフィギュアスケートのような採点種目では、知名度、実績のもつ意味は大きい。突然出てきた選手に高い評価はなかなかつかないものだ。それでも、現在の五輪出場レベル選手達に遜色ない得点が出たということは、それだけ「認めざるを得ない演技」だったのだと思う。たしかに動画で見た古井の演技は、デビュー戦の緊張よりも、「この場で演技できる喜び」のほうが大きいと言わんばかりののびやかさ、明るさのある演技で、動画では遠目で表情まではよくわからないが、おそらく審判席には彼女の魅力は存分に伝わったのではないかと思える演技だった。
 そして、ミスらしいミスもなく4種目をまとめた。国内の大会でも、肝心なところでミスが出てしまうことも少なくなかった彼女が、その悔しさをバネに頑張り続けてきた結果が、ここで出たように思えた。1か月後には、リオ五輪も終わっている。そして、ちょうど古井選手も出場予定の全日本インカレが行われる。全日本インカレにはブルガリアで健闘した猪又選手も出場する。リオ五輪後の日本の新体操に新しい風を吹き込んでくれそうな選手たちのこれからにぜひ注目してほしい。全日本インカレは、8月25~27日、岐阜県のめもりあるドームにて行われる。
【追記/2023/4/10】
 古井里奈さんは、現在、母校である名古屋女子大学高校で教鞭をとりながら後輩たちの指導にあたっています。今でも試合会場で見ると、「里奈ちゃんが先生?」と思うくらい可愛らしい印象ですが、もう今年で4年目になります。
 名女はもともと新体操の強豪校ですが、古井さんが指導に入ってからは「古井さんの指導が受けたい」という入学希望者も増えたと聞きます。現役選手ではなくなっても、相変わらずの人気ぶりです。
 古井さんが指導する名女の選手たちの演技は、とてもチャーミングかつ手具操作が果敢です。古井スピリットはしっかり引き継がれているな、と感じる選手が多く、今年、初めて日本代表に選ばれアジア競技大会への出場が決まった鶴田芽生選手など楽しみな選手が育ってきています。
 この頃の古井さんは、本当にチャーミングでその魅力は海外でもしっかり通用していたと思います。新体操は決して「細長い人達」だけのものではない! と教えてくれた大好きな選手でした。
※写真は2016東日本インカレのもの

20年近くほぼ持ち出しで新体操の情報発信を続けてきました。サポートいただけたら、きっとそれはすぐに取材費につぎ込みます(笑)。