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2012神埼清明高校~インターハイ直前

「本気」

7月30日、神埼清明高校の体育館で見た練習には、静かな闘志がみなぎっていた。

インターハイを10日後に控え、がつがつ量をこなすのではなく、質を上げていき、本番同様に短時間で演技を仕上げる段階に入っているのだが、とにかく空気が熱い。九州だから暑いのではなく、彼らの思いがこの場を熱くしている、と感じた。


「おとといは練習ば、休みにしたけん。」
と中山監督が言った。

インターハイを控え、夏休みにも入ったこの時期に休みをとることはめったにないそうだが、今年はあえて休んだのだという。

「今年は、珍しくけが人もおらんし、このまま本番でベストの演技をさせたかけん、ここで休めば気持ちも体もリフレッシュしたほうがよかかな、と思ったけん。」

理にはかなっている。

しかし、中山監督がそう決断できたのは、つまり、この時点での完成度の高さがあってこそではないか。
この日の練習を見ながら、そう感じずにはいられなかった。

まるで、「明日が試合でも大丈夫!」というような、そんな練習を神埼清明はやっていたのだ。

分習も各パートじつに短い。
せいぜい2~3回やっては、注意事項を確認して次に進む。


もちろん、簡単な構成だから仕上がりが早いというわけではない。
優勝した九州大会のあと、組みを2つ変えたそうだし、今回の神埼清明の作品は、組みや徒手以外の部分にも見せ場が多く、隊形変化も複雑で、完成度を上げていく作業はかなり大変だったはずなのだ。

それが、まるで「なんでもないこと」のように淡々と行われていることに、一種の凄みが感じられ、このチームの「インハイ優勝=打倒、井原!」に懸ける思いの本気(マジ)さが伝わってきた。

「インターハイでは、うちのほうが井原よりも試技順が早かけん。ノーミスの演技で、最低でも9.150は出さんと井原にプレッシャーばかけられん。」
と中山監督は分析する。

井原が強いことはわかっている。
だから、自分たちはより強くなるしかない。

「今年の神埼は強い!」と思わせることができて初めて、井原と勝負できる可能性が出てくる。そう思っているのだ。


高校選抜が終わったあとの中山監督の話を思い出す。

「うちの選手たちは、ジュニア時代からずっと井原に勝ったことがない。1回、勝たせてやりたい。いくら井原が強くても、ずっと同じとこに勝たせるわけにはいかん。」

キャプテンの簑原(3年)に、インターハイに向けての抱負を聞いたときも、「組みと体操の迫力を見せるために、今まで以上に、体操の深さや動きの統一性が出るように、青大卒業生の佐藤聖さんや藤田朋輝さんにも指導してもらいました。」「表情は、神埼の先輩でもある福大の木原さんに教えてもらったり、いろんな人に見てもらって力を貸してもらいました。」という答えが返ってきた。
それだけの練習をしてきた結果、「手ごたえはあります。最初の組みがぴったりはまれば、のってくるのでノーミスでいけると思います。」と自信をのぞかせる。

ジュニアから新体操をやっている神埼の選手たちにとっても、この1年間磨いてきた「深くて重い徒手」は、「こんなところまでやるのか?」という驚きや気づきの連続だったようだ。今まではできているつもりだったことが「全然ダメ!」と否定されることもあり、きつい思いもしてきただろうによく頑張れたね、と私が言うと、簑原は即座に、「井原に勝ちたいんで」と言った。

監督も選手も、その思いはホンモノなのだ。


正直に言わせてもらうなら、前回神埼清明がインターハイで優勝した2010年の演技は、あの時点では1位でもおかしくない演技ではあったが、「魅せる力」という点では、より印象的なチームも他にあった。
ただ、あの試合では、神埼得意の組み技やタンブリング、そういう「強さ」が抜きん出ており、その結果、優勝をもぎとった形だった。

つまり。
そういう「強さ」以外の面では、神埼を上回るチームもいたのだ。
もちろん、井原はその筆頭であり、青森山田や同じ九州の小林秀峰も「情感に訴える」という点では、神埼を凌駕するものをもっていた。2010年に関していえば、インハイ準優勝の盛岡市立にもそれはあった。


それが、去年の時点で、神埼の演技には変化が見られた。
前年までに比べて格段に徒手の質が上がっていたのだ。
乱暴な表現だが、以前が「減点されなければOK」なレベルだったとすれば、去年は、「よい印象を与えられる」レベルになっていた。

そして、今年は。

「加点が狙える」レベルと言ってよいだろう。

中山監督の言葉を借りるならば、「重み」や「深さ」といったものの差なのだろうが、たしかにそれは顕著に違ってきている。
彼らが屈伸し、体を深く沈めると「どおん!」という音が聞こえる気がするし、上体を大きく回せば、風が起きるように感じる。

まさに狙いとおりの「重量感のある徒手」を、彼らは手に入れたのだ。


そして。
じつは昨年までの神埼の最大の弱点(もちろん、よりよいチームと比較すれば、という話だが)と私が感じていた「情感」の部分が、飛躍的によくなっているのだ。単に「強い、速い、高い」ではなく、今の彼らの演技からは、しっかりと情感が伝わってくる。

いや、正直に言えば、この日の最後に行った全通しでは、後半は少し淡白に見えた。
当然、疲れもあったのだろうが。

しかし、そのわずかな差が目につくくらいに、前半~中盤にかけての彼らの動きには、情感があふれ、伝わるものがあったのだ。

今年の神埼清明は、明らかに今までとは違う。


技術や迫力に、情感が加わった今年の作品のもつ「凄み」は、まぎれもなくホンモノだ。

それでも、井原を倒すことは、簡単ではないとは思う。

が、神埼清明のこの作品を見たときに、2012インターハイは、間違いなく名勝負になると、私は確信できた。


「井原に負け続けていることも、いい刺激にはなっとる。」

中山監督のこの言葉が、強がりでも負け惜しみでもないと、この夏、神埼清明は、インターハイの演技で証明してくれるだろう。


●インターハイ(個人)出場選手
 直塚研多(3年)

 「決して能力が高い選手ではないが、とにかく真面目に練習する」というのが中山監督の直塚評だ。たしかに、彼は、高校選抜にも個人で出場していたが、選抜前に私が練習を見に行ったときは、「これで4種目やるのはかなり大変?」な印象だったのだ。それが、高校選抜ではすべての種目を8点台にのせ、多少のミスはあったものの、時折、非常に美しい線や動きを見せる選手になっていた。選抜前までは「個人なんてあまりやったことない素人」と言われていたのに、その急成長ぶりには驚かされた。
 「自分はまだまだ下手なので、最後の全国大会、挑戦者のつもりで頑張ります」と本人も言うように、とにかく自分のできることを精一杯やろうとするひたむきな演技は、見ていて気持ちがよく、応援したくなる選手だ。やさしい曲調のリングの演技が、とても似合っているので注目してほしい。

<「新体操研究所」Back Numberより>

20年近くほぼ持ち出しで新体操の情報発信を続けてきました。サポートいただけたら、きっとそれはすぐに取材費につぎ込みます(笑)。