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2012全日本ジュニア~エンジェルRGカガワ日中/舞エンジェルスRG

「美意識」

全日本ジュニア1日目・個人競技前半終了後の団体公式練習を見ていたときに、エンジェルRG・カガワ日中の演技を見て驚いた。いつもの通りに能力の高い選手たち、独特で魅惑的な振り付け。それは、今さら驚くことではなかったのだが、今年のチームは、なんというかじつに、「団体らしい」と感じたのだ。
ロープという、扱い方によってはぐずぐずになってしまう手具にもかかわらず、この日の公式練習で見たこのチームの選手達の投げは、ロープの張りもよく、投げのタイミング、キャッチのタイミングもよくそろっていた。

正直、身体能力は高いが、手具操作は今ひとつ、という印象のあったエンジェルRG・カガワ日中は、例年、団体作品もすばらしいものをやってはいるのだが、実施が伴っていなかった。そのため、成績ももう一歩のところにあまんじることが多かった。

しかし、もしかして今回のチームは、ちょっと違う?

私の中で、そんな期待がふくらんだ。

そして、本番。
エンジェルRG・カガワ日中は、私の期待に応える演技を見せてくれた。

選手個々の身体能力の高さは、言うまでもない。ジャンプも後ろもちのバランスも、このチームがやると違うものに見えるほど、どの選手も美しい。
そして、彼女達は、小柄なジュニアながらも、「カルミナ・ブラーナ」の荘厳な曲にも負けない、濃い表現を見せることのできる選手たち、でもある。
彼女達の踊る姿は、曲の魂が乗り移ったかのようで、鬼気迫るものがあった。

さらに、公式練習で感じたとおり、やはり今回のチームは、ロープ操作がうまい。ロープを長く使っての1本投げでの交換も、空中でロープが美しく張って広がり、空間を大きく、広がりを感じさせた。

なんと言っても度肝を抜かれたのは、5人がカノンで行う柔軟技。後ろバランスの形から、後方に倒れて起き上がるあの技を、5人ともしっかりとやってのける。そのインパクトと言ったら、日本のチームには見えなかった。

ラストには、一見では何をやっていたのかよくわからない複雑な連係があり、いつの間にか3本のロープが一気に投げ上げられ、それぞれの選手がほぼ移動なくキャッチ。

私の目でわかる範囲では、フェッテに少しのずれがあったり、ジャンプでロープをひっかけた場面は見られたが、あとはそれほど大きなミスもなく、見事に作品の世界観を損ねずに、彼女達は演じ切った。

エンジェル

結果、22.250を獲得しての3位。全日本ジュニアの団体では、エンジェルRG・カガワ日中初のメダル獲得となった。特筆すべきは、「E7.550」と実施得点が、優勝した安達新体操クラブに次ぐ高さだったこと。今までミスして自滅、というパターンの多かったこのチームが「実施力」で他のチームを上回ったのだ。これは、エンジェルRG・カガワ日中が、「すごいチーム」から「強いチーム」へと変貌しようとしている兆しのようにも思える。

表彰式後、劉先生に、「今年の団体はとても完成度が高かったですが、団体の練習を増やしたんですか?」と聞いてみた。すると、彼女は、「ダメです。団体の練習はなかなかできない。」と答えたが、「今までせっかくいい作品を作っても、それをちゃんと見せることができないことが多かったので、今年はちゃんと見せたいと思って頑張った。」と、くしゃくしゃの笑顔を見せて、嬉しそうに言った。

「今年のチーム、団体らしい団体だったので、ちょっと驚きました。」
ちょっと失礼かな、と案じつつ、私がそう言うと、彼女はまた、ぱあっと明るい笑顔を見せて、「ほんと? 団体らしいなんて言われたことがないから、そう言われるのすごくうれしい!」と言った。

いや、正確に言うならば、今もエンジェルRG・カガワ日中の団体は、「日本の団体らしく」はないかもしれない。だが、これはこれとして、研ぎ澄まされた美への意識と、気が遠くなるほどのトレーニング量によって構築された、掛け値なしにすばらしい団体だった。


エンジェルRG・カガワ日中の演技が「日本らしからぬ」美しさを醸し出す一方で、「日本の団体」として、非凡な美しさ、世界観を見せてくれるのが舞エンジェルスRGだ。

今回の全日本ジュニアと日程が重なってしまった日本女子体育大学の発表会の演目の中で、やはりいちばん「日女らしい迫力」が感じられたのは、徒手での群舞だった。
その日女の卒業生である池上絵里香率いる舞エンジェルスRGの演技には、いい意味で「日女のDNA」が感じられる。とくに団体はそうだ。

今大会での舞エンジェルスRGの演技には、ロープキャッチにやや乱れが生じたところはあったが、大きなミスはなかった。

複雑な移動、そして移動すらも、単なる移動に見せず、物語の一部にしてしまう舞エンの情緒あふれる演技は、今年も健在だった。
身体能力も高く、難度もとても美しい選手達ではあるが、やはり舞エンの魅力はそこではない、のだ。

まいえん

高い難度や、素敵な振り付けといういかにも「見せ場」というところではなく、気を抜けばただの交換、ただの移動になってしまうところでも、彼女達は「表現すること」を忘れない。肩や背中といった、意識がおろそかになりがちな部分でも、しっかりと演じている。

それはちょうど、日女の発表会で見た大学生の演技のようだ。

そして、彼女達は、音楽の中に入り込んで踊る。エンジェルRG・カガワ日中の演技が「音楽に乗り移られたよう」なのに対して、舞エンは、「音楽に入り込み、音楽の中で彼女達が踊っている」のだ。

今回のチームのメンバーは、ほんの数年前には、かわいらしいチャイルド団体をやっていた子達だと思うが、今回は「マトリックス」の音楽で、力強く、挑むような演技を見事に演じていた。

エンジェルRG・カガワ日中。
舞エンジェルスRG。

色は違っていても、どちらのチームも、「美しく、人の心を動かす演技」を見せてくれる。
そして、今回のように、こういったチームが、ほぼノーミスに近い演技をすれば、結果もついてくる。

これからも、楽しみなチームであることは間違いないが、私の中では、「次は優勝」とか、そういう意味での楽しみとは少し違う。
もちろん、本人達は「勝ちたい」かもしれないが、私にとっては、「次はどんな作品を見せてくれるだろう」という、その楽しみのほうが大きい。

ジュニア団体は、ちょうど手具がフープに変わる。大きくて、扱いやすく見映えもするため、名作演技が生まれやすいフープという手具を使って、彼女達は、どんな団体作品を見せてくれるのだろうか。

今からワクワクしてしまう。

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20年近くほぼ持ち出しで新体操の情報発信を続けてきました。サポートいただけたら、きっとそれはすぐに取材費につぎ込みます(笑)。