2012全日本ジュニア
~7月4日に、南九州を襲った豪雨により、私の住む熊本県人吉市は大きな被害を受けました。我が家は、幸い被災は免れ、特に生活にも不自由はありません。(私にとっては最初の1週間、スマホとネットが繋がらなかったのがもっとも大きな被害でした)しかし、勤めていた職場は商品が全滅し、再開の目処が立たず、我が家から車で5分も走れば、4メートルの高さまで水に浸かったという被災地ど真ん中。知り合いの多くが被災し、避難所暮らしの人も多数、ということでなかなか落ち着かない毎日です。
精力的に更新してきたこのnoteも、7月3日以来滞っていましたが、こんなときだからこそ、自分のやるべきこと、やりたいこともしっかりやっていこうという気にやっとなりました。頻度は落ちるかもしれませんが、ボチボチ新体操の世界に戻っていきたいと思います。
という訳で、過去データによるnote、再開します!~
●2012全日本ジュニア(男子)
個人総合が終わった!
結果は、男子は安藤梨友(NPOぎふ新体操クラブ)、女子は皆川夏穂(イオン)が優勝だった。
男女とも連覇!
調べてみないとわからないが、かなりレア!
もしかしたら初めてかもしれない。
しかし、男女ともやや苦しみながらの連覇達成だったように思う。
安藤は、1年前に比べると身長がかなり伸びていて、いろいろと感覚に狂いもあるのかもしれない。「中1でこの落ち着きは?」と驚いた去年と違って、今大会ではいくつかのミスもあり、2種目で9点を割った。
それでも、ぐりぐりとすごい勢いで回るひねりも、スピード感のあるタンブリングも健在で、強さは見せてくれたが、「安藤梨友も、ジュニアなんだな」と少しホッとするようなほころびも見せてくれた。
それでも優勝。それでも連覇。
そこが安藤の強さではあるが、同級生だけでもライバルがひしめいている(キューブの佐藤兄弟や、Leoの堀、井原の小川など)学年だけに、来年はもっと苦しい戦いになりそうだ。そういう厳しい戦いが、彼らの世代、そして男子新体操自体を進化させていくに違いない。
そんな男子の2日目の中で、とくに私の印象に残った演技がいくつかあった。
たとえば、佐藤嘉人(キューブ新体操)のクラブ。
佐藤兄弟の演技は、どの種目も本当にかっこいい。動きや見せ方が本当にうまいし、タンブリングも強く、手具操作もおもしろい。
今大会では兄弟そろってミスも多く、種目によってかなりデコボコがあったが、終わってみれば3人そろって5、6、7位という狙ったような順位になっていた。おそるべし、3つ子!
そんな佐藤兄弟の演技の中で、異彩をはなっており、そして、もっとも印象に残ったのが、嘉人選手のクラブだった。3人×4種目の中でいちばん曲のテンポが遅い、いわゆるしっとり系の演技だったのだが、この作品からは、はっきりと彼の「思い」が伝わってきた。
彼らの演技は、あまりにも「かっこよく」て、どうしても形のほうが印象に残ってしまう。彼らはジュニアとしては表現力には長けたほうだと思うが、それでも大学生や社会人のような情感を見せることは難しい。そこに「形」がやたらとかっこいい、となると、どうしてもそちらの印象が強くなってしまうように思う。
ところが、この佐藤嘉人のクラブは、ゆっくりした曲で、動きの美しさやタンブリングの高さをしっかり見せつつ、もちろん、かっこいい振りも随所にあるのだが、その形に「思い」が込められていることが伝わってきたのだ。そう感じたのは、私だけではないと思う。この演技のとき、たしかに会場全体がシンと水をうったように静まりかえっていた。
そうさせる演技だった、のだ。
これは涙が出る、演技だった。
堀孝輔(Leo RG)の、ロープ。これは、「リバーダンス」の曲にのせ、動きと操作がどこまでも音に合った演技で、本当に気持ちがよかった。堀選手は、スティックでは「アランフェス」など、比較的なじみのある曲を使っているが、なじみのある曲は、その曲のもつイメージがあるだけに、曲に合わない演技をされたときの落胆も大きい。が、彼の演技はとても曲を大事にしている、と感じられるのだ。「リバーダンス」は、見ていてあの舞台の壮観なステップが思い出される演技だった。彼の巧みな手具操作が、あのどんどん湧き立ってくるような音楽を表現するのに、うまく生かされていて、とてもいい演技だった。
吉田和真(華舞翔新体操倶楽部)の演技も、「やりたいこと」が伝わってくる。今大会ではどの種目も少しずつミスがあって惜しかったが、タンブリングも強く、手具操作もうまいが、それ以上に、「描きたいもの」をもっているという点で、とても楽しみな選手だ。ジュニアでは、やはりノーミスで演技を通すことはなかなか難しいが、こういうタイプの選手には、ぜひノーミス演技を見せてほしい! と欲張りたくなる。熟練度があがってきたときが、本当に楽しみだ。
●2012全日本ジュニア(女子)
女子は、はっきり言って2日目は低調な試合だった。
上位選手にミスが相次ぎ、それでも、下から追い上げられる選手もいない。上位選手がミスすれば、下の選手もミスして自滅する。そんな試合展開だった。
そんな中で、2日目で頑張ったな、と思える演技をしたのが、4位に上がった猪又涼子(WingまつもとRG)と、2位にあがった宮本望来(イオン)だった。猪又は、2日目のクラブ、リボンはどちらも2位と大健闘。終わってみれば初日のボールでの2回の落下、あれさえなければ…という試合だった。それでも、2日目、クラブでの明るくノリノリでいながら、どこまでも攻めた演技は、静のイメージの強い猪又とは思えない演技で印象に残った。
そして、女子2日目でもっとも感動したのが、最後の最後に回ってきた宮本望来(イオン)のリボンだった。宮本は1種目目のクラブですばらしい演技を見せて種目別1位をとっていた。1日目の順位は3位だったが、すぐ上にいた早川さくら(イオン)が2日目乱調で、3種目目のクラブが終わった時点で、宮本はリボンで21.850以上を出せば逆転2位にあがるという状況にあった。もちろん、選手はそんな計算はしていないだろうと思う。宮本も、「何点以上出せば」なんてことは考えていなかっただろう。
ただ、クラブがよかっただけに、リボンもまとめれば…という気持ちはあったんじゃないかと思う。そして、そういう思いはときに「気負い」になってしまうのだが、宮本はそうならなかった。
気負いになりかねない「この1本に懸ける思い」が、見事に気迫となって、彼女のリボンを支配していた。エネルギッシュで、強気なその演技からは、彼女の「負けない気持ち」が伝わってきた。
21.850以上出るかどうかはわからないが、間違いなく「いい演技」だった、と思ったが、結果は、22.275! 彼女の発するエネルギーが、表彰台の位置を1つ上げた。
こういう瞬間を見られるから、新体操観戦はやめられない、のだ。
さて、個人総合の余韻もさめやらぬ中、今日は団体競技が行われる。
女子も男子も、熱い試合になりそうだ。
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20年近くほぼ持ち出しで新体操の情報発信を続けてきました。サポートいただけたら、きっとそれはすぐに取材費につぎ込みます(笑)。