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2010臼井優華(済美高校1年)

ユースチャンピオンシップ初出場前

 さて、いよいよこの週末にユースチャンピオンシップが開催されます。昨年はインフルエンザの流行で中止になったこの大会。男子にとっては2回目となります。
 1回目(2008年)は、現在、青森大学の小林翔選手が優勝したのですが、2代目のチャンピオンは果たして誰になるのでしょう? 興味はつきません。
 高校生が中心となるユースチャンピオンシップは、各県のインハイ予選やブロック大会と時期が重なるため、出場することがなかなか難しいため、今大会の男子の出場者は、38名。決して多くはないのですが、その中に注目選手はたくさんいます。ということで、すこしばかり、ユースチャンピオンシップの注目選手をご紹介しておきましょう。
 まずは、昨年の全日本ジュニアチャンピオン・臼井優華選手です。体操協会のブログでも書かれているので、公表してよいのでしょうが、彼はご両親が運営・指導されているNPOぎふ新体操クラブで、新体操をやってきた選手です。
 NPOぎふ新体操クラブといえば、女子では全国トップレベルのクラブです。そして、社会人チーム・アルフレッサ日建産業とも近しい関係にあります。ある意味、このうえない恵まれた環境で育ったサラブレット。フィギュアスケートの小塚崇彦選手のような、そんな存在かと思います。数年前、NPOぎふの新体操公演を見に行ったとき、まだまだひよっこという感じの男子新体操選手たちも出演していましたが、その中で一人だけちょっとおにいさん、だったのがこの臼井選手でした。
 それでも、当時はまだ中学生になったばかりでしょうか。女子選手も多い中で育っただけあって、男子としては美しい動きで、やさしそうな、なんとなくほわんとした空気をもった「かわいらしい男の子」でした。
 新体操のサラブレットらしい育ちのよさ、を感じる一方で、貪欲さはあまり感じられない。そんな選手だったように思います。

ゆうが1

 2007年の全日本ジュニアでは、個人13位という中1としては立派な成績をおさめていますが、2008年は12位。しかし、2009年3月の発表会で見た臼井選手は、ぐんと大人っぽくなって、「男の子」から「オトコ」に化けた、そんな風に見えました。
 やさしそうな顔立ちや雰囲気はそのままですが、力強さも増し、迫力が出てきていました。そして、手具操作に安定感が出てきたように感じられました。NPOぎふといえば、女子選手達はかなり手具操作にたけていて、ミスも少ない。そんな強みをもっていましたが、男子のジュニア選手といえば、全日本ジュニアでも手具落下は珍しくない、臼井選手も「ミスの少ない選手」ではなかったように記憶しています。
 なにしろ、男子新体操は、大学生になってからが勝負! まだまだそんな印象のスポーツです。ましてや、ジュニアとなると、手具操作はまだまだでも、当たり前。臼井選手も、そんな雰囲気があったように思います。
 しかし、2009年の全日本ジュニア1種目目のリングで、彼は見事なノーミス演技を見せてくれました。小柄な選手も多いジュニアの試合では、大柄な彼の演技はとても見映えがしました。そして、中学生でありながら、「オトコの色気」のようなものさえ醸し出す、そんな演技でした。数年前に見たときの、「表現する」というにはちょっと照れくさいなあ~みたいな少年の演技からははっきりと変わっていました。
 リングでトップの点数をたたきだしたあと、優勝のかかった2種目目・ロープでは、緊張からは中盤ですこしばかりもたつきがありましたが、大崩れせずにまとめ、迫力満点のタンブリングも見せつけてくれました。文句なしの優勝、だったと思います。前年度の12位からのジャンプアップは、彼の強い気持ちのなせる業だったのではないでしょうか。

ゆうが5

 「親が指導者」「二世選手」に対しては、さまざまな思いがあります。普通の選手達以上のプレッシャーがあるだろうことを思うと、気の毒に思うこともあれば、「やっぱり恵まれているのよね」と言いたくなってしまうこともあります。
 しかし、小塚崇彦や織田信成の例を挙げるまでもなく、その育った環境にあまんじず、プレッシャーにつぶされずに育った選手には、だれもが素直に「さすが」というようになる、そういうものです。
 臼井優華は、今まさにその道を歩み始めている選手です。他県の強豪校に進学するのではなく、地元岐阜県の高校で、岐阜の男子新体操を盛り上げていく道を選んだのも、「NPOぎふの臼井選手」らしいと思います。強豪校にいけば、団体と個人をかけもちして、仲間と共に成長していくことができるだけに、そうではない道ゆえの厳しさはきっとあるでしょう。しかし、彼はきっと、彼なりに大きな成長を見せてくれるに違いありません。
 女子がそうであったように、高校でもクラブチーム中心に練習していくという道が男子にもあってもいいはずです。選択肢が広がることで、続けられる選手も増えていく、いろいろな育ち方があっていい。そういう意味でも、臼井選手のこれからの活躍には期待したいです。


ユースチャンピオンシップ初優勝!

2日間にわたる熱戦が終わりました。2年ぶりに行われたユースチャンピオンシップ、男子個人総合はエントリー39名(棄権2名)と決して多くはなかったのですが、予想以上にハイレベルな演技の応酬でかなり盛り上がりました。
今年から中2~高3までがエントリーできるようになった「ユースチャンピオンシップ」なので、体の大きさにはかなり差があります。小さい子たちは小学生か? とも見えるし、大学生にも見える堂々たる体つきの子もいました。
まさに体も技術も成長期、といったユース世代の演技は、それぞれのよさがあるなあ、と感じました。

さて。ユースチャンピオンシップ、2代目の男子チャンピオンに輝いたのは…つい先日、このブログでも紹介した臼井優華選手(岐阜済美高校)でした。昨年の全日本チャンピオンではありますが、まだ高校1年生です。健闘を期待はしていましたが、正直、まさかここまでの進化を見せているとは! 嬉しい驚きでした。

1種目目のスティック。私のメモには「手具使いがうまい」「大きさが感じられる」と書いてあります。2種目目のクラブ。「いや~、うまいわ~」と書いてあります。メモにはその程度しか書いてありませんが、前半2種目おわった時点で、カメラマンとの間で、臼井選手株は高騰していました。高校1年生にして、これだけの技術・安定感・そしてそこはかとないオトコの色気を感じさせてくれるとは!

ゆうがユース01

たしかに昨年の全日本ジュニアチャンピオンではあるけれど、優勝したあの試合でさえけっこうドキドキして見守っていた記憶があるのですが、今大会の演技はまったくあぶなげありませんでした。タンブリングにしても、手具操作にしても、かなり難しいことも入っていたと思います。それでも、ミスしそうに思えない。そんな演技を初日の2種目では見せてくれたのです。
しかし。初日の2種目はインターハイ種目ですが、決勝2種目は、高校生にとっては目先に試合がない種目です。まだ高校生になったばかりの臼井選手が果たして、後半2種目もまとめることができるのだろうか? 決勝はそんな不安も抱きつつ、見ていました。
が、3種目目・ロープ。「うまい。迫力がある。大学生のような演技。ひねりや、宙返りしながらのロープ操作も揺るぎない」私のメモにはそう書いてあります。予選種目でのあの安定感は、ホンモノだったのだな、とこのロープの演技を見たときに思いました。最終種目・リング。リングではミスをする選手も多かったのですが、臼井選手のリング操作には迷いがありませんでした。最初の連続タンブリングでのひねり宙返りの滞空時間の長いこと。もう、おそれいりました! としか言葉がありません。終わってみれば、4種目すべてで1位となり、完全優勝を成し遂げたのです。

半年前にジュニアチャンピオンになったとき、半年後にここまでたくましく成長しているとは想像できませんでした。臼井優華選手は、今、おそるべきスピードで進化を遂げている、のです。

「文句なし」の優勝を決めたあと、臼井選手に少しお話を聞くことができました。大変失礼な話ですが、本人に率直に聞いてみました。「なぜ、そんなに急にうまくなったの? 半年前とはまったく違うじゃない」と。臼井選手の答えは「高校生になって硬さがとれてきた」でした。「硬さ」というのは、心のほう? それとも体? その問いに彼は「両方」と答えてくれました。そして、自分自身の演技について「強さはかなり出せているかな、と思うので、あとはもっとやわらかさを出したい。そのためには柔軟性ももっとつけたい。」と語ってくれました。高校1年生としては、十分に巧みだったように見えた手具操作も「まだまだ。もっと器用に手具を扱えるようになりたい。」と意欲を見せてくれました。今の目標は、「インターハイ優勝」「オールジャパンでもいい成績をとれるようになりたい」! その言葉は迷いなく出てきました。

ゆうがユース02

最後に、「ご両親が指導者ということでプレッシャーを感じたり、いやな思いをしたことはないですか?」と聞いてみると、「ありません」即答でした。
「これからも気にしません。家庭は家庭。新体操は新体操ですから。」それが彼の答えでした。
自分の演技をよりよいものにするために、いろいろな演技をDVDで見たりして、研究しているという臼井選手。力強さの中にも、せつなさや艶やかささえ感じさせる表現力が一気に開花したのも、彼のその研究の賜物なのでしょう。最高のスタートを切った臼井選手の高校時代、これからが本当に楽しみです。

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20年近くほぼ持ち出しで新体操の情報発信を続けてきました。サポートいただけたら、きっとそれはすぐに取材費につぎ込みます(笑)。