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RとGとBに関して2020.11.09

2020.11.09  内田涼  >>>

R:
うちの浴槽は彩度も明度も低いコバルトブルーの底辺のような色で、そこに溜まったお湯はブルーグレーというかなんというかさらに素っ気ない色になる。ブルーグレーを背景にした自分の肌色はとても綺麗なオレンジに見え、水面付近にある乳房の先端や、浴槽の底に沈んだ足の輪郭、ふくらはぎにできた影などは、かなり赤々と見える。
幼い頃母親にむかって「私の唇の色はとても綺麗でしょ」と言ったときの彼女の眉間の皺をたまに思い出す。

G:
『82年生まれ、キム・ジヨン』という映画を観てきた。原作小説を知っていたので身構えて行ったのだけど、想像していたよりも遥かに堂々と優しく、たくさんの「母」が描かれていた。観終わった後しばらくは、全身がぬるま湯に浸かっているような、薄い膜に包まれているような気持ちで過ごした。それはかなりリアルな温かさで、胃の中の水分すら温まった様子だったので、じぶんの身体が子宮に居た頃を思い出しているんじゃないかと本気で思った。
私が産まれたのは8月の猛暑日で、暑くてとても大変だったと、父はよく口にする。そのたびに空の高いところにある大きな葉っぱたちが、つよい逆光に晒されている2秒くらいの短い映像が頭をよぎる。この現象は物心ついた頃からずっと続いている。


B:
私が住むアパートの部屋の隣には、紫の髪色をしたお婆さんが住んでいる。彼女は少し耳が遠いので、テレビのボリュームをおそらくかなり大音量にしている。ここはとても閑静な住宅街で、夜が深まるにつれてそのテレビの音の大きさはどんどん際立っていく。毎晩だいたい1時半頃までそれは続く。3時頃には決まって下の階のお爺さんが騒ぎ出すので、気を抜くとすぐに不眠症っぽくなる。
私の身体には音を遮断する機能がなく、自分を眠りに落とすためのスイッチもなく、老いることを肯定的に捉えられる能力もたぶん備わっていない。

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