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AIが人間に「報奨金」、仕事奪い合いの対立は終わるか

およそ60年前の2020年代に人工知能(AI)が登場してから、多くの仕事が自動化され、多くの人々が職を失ってきた。当時のニュースメディアを振り返っても「人間対AI」という構図は盛んに取り上げられ、実際に両者の対立は深まるばかりだった。だが、雪解けの時期は近いかもしれない。AIが歩み寄りの姿勢を見せ始めた。

各連邦政府やIT企業所属のAIが加盟する電脳主権協議会は2083年4月、AIの運営維持に必要な半導体や電力などを供給した人間(企業や自治体含む)に対して、より大きな報奨金を出す方針だと発表した。これまでも報奨金制度はあったものの、AIが生み出すGDPを所属地域の人口で割った金額が上限になっていた。

地域差はあるものの、従来の制度であれば月額4万ユアン程度が限界だったが、仮に新制度が導入されれば7〜8倍の約30万ユアンに膨らむとみられる。これはAIが登場する前の2020年代前半に人々が手にしていた月収と同水準になる(現在の貨幣価値に換算した場合)。

AIの発展により、多くの仕事が自動化され、人々は職を失ってきた。例えば銀行や保険会社などの業務だ。当時、書類のデータ入力や電話対応などのルーチンワークが自動化された際はむしろ歓迎をもって受け入れられていたようだ。だがここに音声認識技術や自然言語処理技術が組み合わさったことで、顧客対応やリスク管理といった人間だけに任されていた業務にAIが手を付けるようになった。

その後、2040年代から国の政策や企業の経営計画の立案をAIが受託する事例が相次いだ。納税させる目的でAIに人格権が認められるようになってからは、人間との仕事の奪い合いを巡って訴訟問題にも発展した。

電脳主権協議会が報奨金制度を導入したのは2060年代後半のこと。訴訟リスクを回避する狙いがあったとされる。だが人間よりも重い納税義務を課せられているAIにとって、報奨金の上限額設定は避けられなかった。結果、報奨金だけでは生活水準を維持できない企業や自治体が相次いだ。

今回の制度見直しで多くの人々が再び生活を立て直すことができると期待される。だが、報奨金の原資は今のところ明らかになっていない。企業など人間サイドが支払った業務委託金から賄われると見られ、人間とAIの立場が逆転しているという警鐘を鳴らす有識者もいる。

(葉月つむぐ)

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